第3話 過去の封印

かつてここには王宮があり都があった。王国を支配する国王は慈悲深く勇猛果敢で先頭に立って手下を従え近隣の国々を支配していた。


 だが、繁栄の中王国に終末がやって来た。


 きっかけは内紛と言っていいだろうがそれ程単純な事ではないようである。


 しかし、結果は王国にとってとても受け入れられるものではなかった。


そしてその事件の記録も史実も全て消し去られてしまったのである。


 ラーン王国のあった地は新しい支配者ドゥームに襲撃され、国王アルフレッド・ラーンを始め主だった者達は命を落とすかその消息が不明となったのである。


 生き延びたラーンの人々は王都から遠く離れた森の中へと逃げ延びて細々と生活する事となった。


 「マット、チット起きなさい。」

 少女の元気の良い声が響き渡った。


リナは12歳の少女である。


 共に暮らしているリザードンの兄弟達は彼女より年長ではあったが常日頃からリナはお姉さん気取りである。


 「わかった、今起きるよ。」


兄、マットは素直に答えたが弟チットは返事がない。


 「ほら、チット。もう朝食できたわよ。」


 台所から声を張り上げるリナにリムルが声をかける。


 「大きな声ではしたない。」


 二人はお互いの顔を見て笑い合った。


 食卓にはムル、リムル、マットとチット、そしてリナが座り昨日ムルが狩りで仕留めた鶏肉や木の実と自家栽培の野菜が並んでいた。


 リザードンの食事風景は静かなものである。


 会話しながらの習慣がないのである。黙々と食事を進めている中、リナが我慢できずに声を出した。


 「父様、私マットと一緒に村の青年隊に入りたいの。」


 ムルは来たかと思った。


 この子の気性なら必ずそちらの方向に進むに違いないと思っていたし、何度となくその申し出はありそのたびに却下してきたがそれももう限界に来ていることもわかっていた。


 ただ、この娘の性格が何をもたらすか、それだけが心配であった。


 「年齢はもう、問題ないだろう。


だが、これだけは約束しなさい。


和を乱すんじゃないよ。」


 思わず、許可がおりリナは一瞬目を見開いた。


 「はい。約束します。お父様ありがとう。」


 その次の青年隊の会合にマットにリナを連れて参加させることになったのである。

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