第5話 勇者パーティーと任務説明

 僕たちは改めて国王陛下の命令を聞くために場所を移した。

 昨日のは形式的なもので本題はこれから話すとの事だ。


「周知のことだが、この大陸には七体の魔王がいる。その中でこの国の魔物を束ねる魔王が入れ替わった。これはまだ極秘事項で国内でも一部の者しか知りえぬ。仮に他所者が知っていたとすれば、そなたたちの誰かが口を割ったことがすぐに分かる」


 ジジイのくせに年齢を感じさせない眼光の鋭さに背筋が伸びる。

 伊達に国王をやっていないというわけだ。


「そなたたちの中にも魔人や魔物と戦った者はいるだろう。奴らは我々人間をいたずらに襲う。だからこそ、そなたたちのような職業が生まれたのだ」


 そんな教科書に書いてあることをおさらいされても、つまらなくて欠伸が出そうになってしまう。


 そもそも、ワレンチュール王国は魔物被害が年に数えるほどしかない唯一の国だ。

 この国の魔物は北部にしか生息していない。滅多に人里を襲うことはなく、そういう意味では魔王の管理が行き届いているという評価になる。


 つまり、こっちから出向かない限り、魔物と遭遇することはない。

 僕以外に魔物と戦闘したことがある物好きなんているのかな。


 僕の名誉のために言い訳すると、僕は物好きではない。

 強制エンカウトさせられたのだ。


 過去を思い出して、体を震わせていると国王陛下が不敵に笑った。

 その不自然な間から嫌な予感がして、僕たちは息を呑んだ。


「恥ずかしい話だが、先代の魔王には人間を襲わないようにして欲しい、と頼んでいた。その代わりに代償を支払い続けている」


 あー、そんなの教科書に書いてないよ。

 聞きたくない。聞いてしまったら終わる気がする。


 耳を塞いで、「あ゛ぁぁぁ」と叫びたい気持ちをぐっと堪えていると、隣で跪くレイヴが余計なお節介を焼いた。


「それは、転葬てんそうのことですか?」


 リーダーのお勤めご苦労様です。

 他の2人も察していたようで、静かに国王の返答を待っていた。


 転葬てんそうとは、この国独自の葬送方法で死者を燃やしたり、埋めたりせずに、空の上に送るというものだ。

 当初は賛否両論だったらしいが、今ではそれが当たり前になっている。


転葬てんそう先が魔王の手元ということでしょうか」


「死者は魔人や魔物の餌、ということですね。さすがにそれは教科書には書けません」


「王国の魔王って何百年も代わってないんだよな!? じゃあ……」


 そんな好き勝手喋らないで!

 パンドラの箱を自分から開けに行くなんて、トレジャーハンター気取りもいい加減して欲しいよ。


 でも今の話が本当なら、転葬てんそうが始まった時期と陛下の就任時期を照らし合わせると見事に一致するんだろうな。


 魔王は何百年も代わらなくても、人種族の国王は代わってしまう。

 陛下は過去最年少で国王の座に就いたと言われているし、僕たちが生まれる前から転葬てんそうを習慣化させたのだろう。


 非常に興味深く、気持ち良くない話だけど、僕が聞きたいのはその先だ。


「魔王が代わったということはこれまでの当たり前が当たり前ではなくなるということだ。新しい魔王にも書状を出したが、芳しくない返答だった。だからこそ、こちらから仕掛ける」


 あーあ。最悪の展開じゃないか。

 僕の元カノがすみません。


 リタ、君は一体なんて返事をしたんだい?


「それって――。っ!?」


 イリスが言いたいことは僕にも察しがついた。

 しかし、それは言ってはいけない言葉だ。

 レイヴもゴーシュも分かっていたのか、僕たちは同時に彼女を黙らせるために手を伸ばした。


「陛下のご命令であれば、従うまでです」


「おぉ! 頼もしい勇者よ。余はそなたたちを信用しておるぞ」


 信用……ね。

 あまり好きじゃない言葉だ。


 イリスが言ってしまいそうになったのは、僕たちが人種族と魔族の戦争のきっかけを作るかもしれないということだ。

 

 リタが転葬てんそうを断った。つまり、これからは魔人や魔物が生きた人間を襲いに行くぞ、という意味合いにも取れる。


 そうなる前に本丸を叩くというのが今回の作戦命令だ。


 僕たちは魔王を確実に倒して、魔族から報復されないようにしないといけない。


 他国の魔王が出てきたら小国であるワレンチュール王国は壊滅だ。

 近隣の国に協力要請をしない、しかも国家機密で少人数しか動かさない、となれば、陛下が秘密裏に事を進めたいのは明白だ。


 だから、各職業のトップではなく、僕たちのような下っ端を集めたのか。

 これは骨が折れるなんてレベルの任務ではないぞ。


 最悪だ。僕たちは駒かよ。


 きっと、僕たちが失敗した時の手も既に打ってあると見た。

 もしくは僕たちは時間稼ぎ要因か。


 他の3人はどうか分からないけど、少なくとも僕はモヤモヤした気持ちで王宮を後にした。

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