第4話 勇者パーティーと訓練

「遅刻だぞ!」


「ごめん。道が混んでて」


「嘘つけ! お前、絶対に道を歩いて来てないだろ!」


 声が大きくて、勘の鋭い守護者ガーディアンだ。

 いや、守護者だからこそ勘が鋭いのかもしれない。


 他称、1人でベヒーモスを受け止める守護者こと、ゴーシュが全身の筋肉を見せつけるようにふんぞり返りながら鼻息を荒くした。


 朝から勘弁してほしい、って言ってももう昼だけど。

 何はともあれ僕の苦手なタイプだ。


「あの……。失礼ですが、ユーキさんって魔法は得意ですか?」


「そんなことはないけど。なんで?」


「いえ。……おかしいですね。プロテクトは完璧なはずなのに」


 魅力的な美貌を持つ女性は開口一番、質問を投げかけた。

 他称、1人で100人を癒せる魔法使いこと、イリスが眉間にしわを寄せて唸っている。


 こわっ。

 リタの言った通り、本当に悪い魔法をかけられていたの!?

 可愛い顔に騙されないようにしないと。


「おはよう、ユーキ。晴れてよかったね」


 爽やかすぎる笑顔と白い歯を輝かせて挨拶する好青年。

 他称、1人でドラゴンを討伐できる勇者こと、レイヴが僕たちのリーダー(仮)だ。

「眩しいね」と言いながら、手で太陽光を遮る仕草だけで世の女性たちが惚れてしまいそうだ。


 この3人に他称、1人でギルドを壊滅できる暗殺者アサシンこと、僕を加えたのが急造された魔王討伐用パーティーメンバーだ。


 今日から僕たちはそれぞれが所属しているギルドを休職し、国王直属の特殊部隊として仕事を始めることになる。


 勇者の職業ジョブに就ける人は限られるからレイヴが呼び出されるのは納得できるが、他の3人は正直言って不要だと思う。

 守護者も魔法使いも暗殺者も腐るほど居るし、その中からなぜ僕たちなんだ。

 それなら僕たちを鍛えてくれるという騎士団の方々にお願いすればいいのに。


 子供たちに王都ドリームを掴む大人の姿を見せてあげようとかだったら、そんな下らないことで命を賭けたくないんだけど。


「騎士団が来る前にアップをしておこう」


 真面目な勇者様に従って重い体を引きずりながら、お城に隣接している訓練場の外周を走り始める。

 昨日、リタと再会したこともあり、学園時代の訓練を思い出した。

 いくらお金を積まれたって、二度と学生には戻りたくない。


 それよりも、女の子で魔法使いのイリスがレイヴとゴーシュについて行けるとか信じられないんだけど。

 僕なんて周回遅れになりそうなのに。


 やっとの思いで外周を4周したところで騎士団の面々が訓練場にやって来た。


「初めまして、勇者御一行諸君。私はワレンチュール王国騎士団長で君たちの指導係です」


 重そうな騎士甲冑に身を包んだ男性が数人の部下を引き連れている。

 王都に住んでいれば知らない人はいないであろう人物だ。彼がいるからこの王都の守りは堅く、他の町や村がモンスターに襲われても迅速に対応してくれる。


 勇者職とはいえ、今のレイヴでは歯が立たないはずだ。経験が違う。

 僕も太刀打ちできない、と思う。そういうことにしておこう。


「半月以内に君たちを仕上げて、魔王討伐へ向かっていただきます。我らが王の命令なので手加減はしません、と言うよりも手加減なんて不要ですよね」


 胡散臭い笑顔を貼りつけているが、そんな安い挑発に乗るほど僕たちは子供じゃないぞ。


「あったりめーだ。オレ様の実力を測ってから大口を叩いてもらおうか!」


 前言撤回。大きめのお子ちゃまがいた。

 ゴーシュは指をポキポキと鳴らしながら威嚇しているが、騎士団長様は爽やかな笑顔でたたずんだままだ。


 レイヴはやれやれと首を振っていて、イリスは微笑みを浮かべていた。


 なんでもいいから早く訓練を終えて帰りたい。

 痛む腰のストレッチをしながら、ため息を一つこぼす。


 まずは実力を測るとかで簡単な模擬戦をすることになった。

 レイヴは勇者職に相応しく、剣を使っての近接戦闘を得意としている。


 ゴーシュは体を覆い隠すほどのゴツい盾で騎士の攻撃を防いでいる。防御と攻撃の両方を行える優秀な守護者というのは嘘ではないらしい。

 模擬戦中、男性陣2人は一度も魔法を使わなかった。


 対してイリスが得意とする魔法は回復系らしい

 僕からすれば、補助魔法のレベルも相当高いと見た。


 そして僕は今、騎士団長様の首筋に短剣を突きつけている。


「……思ったよりも速いですね」


「どうも」


「これで3年目ですか。末恐ろしい」


 王国騎士団長様のお眼鏡にかなったようでなによりだ。


 僕も魔法は使わなかった。

 レイヴとゴーシュが使わないなら、僕も使う理由がない。

 きっと彼らも手の内を全て明かすつもりはないのだ。


 魔法なんかなくたって、騎士1人くらいなら相手にできるさ。


 多数を相手をするならどうしても魔法が必要になるけど、今日の模擬戦はこれで終わったから一度も出番はなかった。

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