永遠に、愛誓えそ?

第35話 勇者パーティーと婚礼の儀

「ワレンチュール国王、アメルダ第一王女は死亡。勇者協会は壊滅。我が魔王軍はワレンチュール王国配属の部隊が全滅か。で、忌まわしい風習を撤廃し、ワレンチュール王国内での不可侵条約を提案する……と」


 僕が提出した報告書を読み上げるリタの父親こと、北の大魔王は重々しい

ため息をついた。


 僕の隣ではなぜかリタが誇らしげに胸を張っている。


 僕たちが起こした騒動は全大陸中に知れ渡った。


 人種族にとっての僕は勇者パーティーの暗殺者、ユーキッド・インジャムとして魔王の討伐に尽力すると共に、暴君である元国王の悪事を暴いたとされている。


 魔王軍にとっての僕は北の大魔王の義息むすこ、ユーキ・ド・ダークネスとして、影魔法の正統継承者かつワレンチュール王国の影の支配者とされてしまった。


 最も恐ろしいのは、この結末がリタとイリスの2人が自分の欲望のままに行動した結果という点である。


 後から聞いた話だが、2人は本当に協力関係ではなかった。

 結局、僕たち全員はリタとイリスの手のひらで踊っていたに過ぎない。


「やっぱり、僕にリーダーは向いていませんでした。影の軍勢を指揮したのはリタで、僕は軍を崩壊させました。リタをワレンチュール王国の魔王に戻すことを進言します」


「それはならん。我の跡を継いで北の魔王領を治めるのがこれの役目だ。ワレンチュールは引き続き、お前に任せる。任せると言っても部下は1人もおらんがな!」


 いつも通りに豪快に笑う北の大魔王に圧倒される。

 同胞たちを自分の娘とその彼氏が殺したというのに、なんで笑っていられるんだよ。


「はぁ……」


「まずは新国王の就任式と結婚式に参加してこい。話はそれからだ。お前たちの式の日取りも決めねばなるまい」


「それだけですか!? 僕が提案しようとしているものは、魔王軍には何のメリットもありませんよ! 僕も人間ですし、ワレンチュール王国が安全になるだけの条約ですよ!」


「ん? 娘と娘婿が通った学舎まなびやのある国が発展を続けることは親として喜ばしいことだが?」


 はっとさせられた。

 これが世界の大魔王。なんて懐が深いんだ。


「何か勘違いしているようだが、本来の魔王軍とは人間同士が争いを起こさないように抑止力として結成された組織だぞ」


「え、そうなのー!?」


 リタも初耳だったらしく、声を上擦らせながら僕の腕にしがみついてきた。


「今では好き勝手する魔人が多くなって困ったものだ。我が人間の娘との間に子をもうけたことをいつまでもグチグチ言う輩もいるしな!」


 またしても、ガハハハと笑う大魔王にリタの表情が曇った。


「だが、我はお前が生まれたことを後悔した日はない。うるさい口は閉じさせるか、消してしまえばいい。そう教えたはずだぞ。なぁ、リタリエッタよ」


 大魔王はリタの頭を撫でて、見たこともない優しい顔で微笑んだ。


 リタの頭がぶっ飛んでいるのは父親の影響をダイレクトに受けたからのようだ。


 では、うちの両親はどうだろうか。

 仕事で昔からあまり家にいない人たちだった。


 僕が暗殺者から魔王に転職して、婚約者が北の大魔王の娘(次期、魔王軍のトップ)だと知ったら、両親はなんて言うのだろう。

 学生時代のリタとは顔を合わせているが、素性は話していないからきっと驚くに違いない。


 驚きはするだろうが、反対はしないと思う。

 うちの両親も違った意味で変わっているから、なんでも受け入れてくれるはずだ。


 騒動の前に他国へ亡命してもらって以来、連絡を取っていないけど元気にしているかな。


◇◆◇◆◇◆


 快晴の空の下で2人は誓いの口づけを交わした。


 いつまで見つめ合っているんだ。

 見ているこっちが恥ずかしくなる。


 相手が王女様だから下手にからかえないのが辛い。それはきっと僕だけではないはずだ。


 ゴーシュなんかは、隣でずっとムズムズしている。

 変な事をしでかさないように、という配慮でイリスが僕たちの腕をつねってくるから声が出そうになってしまう。


 レイヴとファーリー王女の婚礼の儀はつつがなく進み、ようやく僕たちも緊張感から解放された。


 順番に新国王とその王配に挨拶へ向かう。

 レイヴの顔は緊張で固く、軽々しい会話をすることはできなかった。


 それから、お偉さん方とも会話も終えたレイヴが僕たちの元へやってきた頃にはすっかり日が暮れていた。


「お疲れ様です。お顔がやつれていますよ」


「すっっごい疲れた。ユーキも覚悟しておいた方がいいぞ」


「仮に式を挙げてもここまで大掛かりにはならないと思うよ」


「おめぇの嫁さんも魔族のお姫様だろ? 大変なことには変わりないんじゃねぇの?」


 確かに!

 そうじゃないか。リタだってれっきとした王女様だ。


 僕もレイヴみたいにげっそりしてしまうのか。

 そう思うと今から不安で仕方なかった。


「忙しいのはこれからだ。ワレンチュール王国の歴史で初めての女王だから、色々と面倒事も多い」


「わたくしに出来ることがあれば言ってください。いくらでも手回し致しますよ」


 本人は冗談っぽく笑っているけれど、全く冗談には聞こえない。

 イリスだけは絶対に敵に回したくない。これは僕たち男性陣の総意だ。


「皆さま、本日は参列いただき、ありがとうございました」


 突然、現れたファーリー陛下に頭を下げる。

 陛下は両手をぶんぶん振りながら、やめてください! と顔を赤らめた。


「わたしは父が築き、姉が塗り固めた古い風習を変えてみせます。他国からの風当たりも強いでしょうが、より良い国にしますから皆さまもそれぞれの道を進んでください。この度は、父の悪巧みに加担させてしまい、申し訳ありませんでした」


 次は僕たちが手首が取れるほど振り回した。

 ファーリー陛下が謝ることではないし、前国王から褒賞ももらっているわけだから、何も気にすることはない。


 むしろ、父親と姉を奪ってしまったのは僕たちなのだから、憎まれ口を叩かれても文句は言えない。


 こうして式に呼んで貰えることがどれほどのことなのか、理解しないといけない。

 

「ユーキッドさん。あなただけは、まだ報酬を支払われていないと聞いています。わたしに叶えられる範囲であれば何でも差し上げますよ」


 突然そんなことを言われて僕はたじろいでしまった。

 でも、タイミングはここしかない。


「条約を結びたい。これまで通り、魔人や魔物はワレンチュール王国内の人種族領には踏み入らないし、他国に侵略されるようなら力を貸す。だから、この大陸の北部、大魔王領には手を出さないで欲しい」


「それはっ! わたしの一存ではなんとも。規模の大きな話です」


 僕はレイヴたちの仲間としてではなく、一国を任された魔王として、そしてリタの恋人としての願いを口に出した。


「ユーキ。検討する時間をくれ。大臣も総代わりしたばかりだ。憲法の見直しも行われる。そこで提案してみるから、今日のところはこれくらいで勘弁してくれないか」


「困らせてごめんね。でも、これだけは譲れない。よろしく頼むよ」


 こうして無事にレイヴの結婚式は終わり、僕の願いが叶えられることを祈りながら帰路についた。

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