第12話 勇者パーティーとコミュニケーション
翌日。変に勘ぐられるのも嫌だから早めに家を出て、宿屋の受付前で待っていると3人がぞろぞろ出てきた。
「おはよう、ユーキ。昨日はどこに行っていたんだ?」
レイヴの質問に適当に返事をしながらパンをかじる。
「美味そうだな、どこで買った?」
「あっち」
「わたくしたちも買いに行きましょうか」
僕の持っているパンに興味を示したゴーシュとイリスを引き連れて、パン屋を経由して町を出発した。
森には肉食のモンスターが多く生息している。
気性が荒く、ただ歩いているだけの僕たちにも突撃してくる輩ばかりだ。
栄えある勇者パーティーにおいて僕の立ち位置はイリスと同じで後方支援である。
レイヴとゴーシュがいれば大抵のザコモンスターはどうにかなるから、僕の出番はほとんどない。
僕は元カノと違って戦闘狂ではないから、サボれるときはサボるのだ。
「おい、ユーキッド。本当にこの道で合ってるんだよな!?」
「あってるよ」
「真っ直ぐに進めば辿り着けるんだよな!? それなのになんで曲がってばっかりなんだよ!」
この人、バカなのかな。
真っ直ぐに進めば、僕たちは底無し沼に落ちるんだけど。
そのままゴーシュに伝えたら怒られてしまった。
やっぱり甘いパン一つで冒険の旅に出るのは無謀だったようだ。
脳に必要な栄養素が不足している。
「まぁまぁ、落ち着きなよ。ユーキもそんな言い方をしなくてもいいじゃないか。俺たちは仲間なんだから」
「…………」
「オレ様たちの邪魔をして楽しいのかよ。お前と違ってオレ様たちには目標があるんだよ。協調性も夢も願いもないお前と一緒にすんな!」
言いたいことを言って先に進むゴーシュ。
困り顔のレイヴに肩を叩かれて僕もあとを追った。
「ユーキさんはパーティーを組むのは初めてですか?」
「社会人になってからは初めてだよ」
「では、学生の頃にはあったのですね。そのときはどうでした? 楽しかったですか?」
聖女のような微笑みのイリスからの問いかけを素直に肯定する。
「今は楽しくありませんか?」
「何人もの命がかかっているのに楽しいはずがないよ。学生の頃とは違う」
「確かにそうですね。不躾な質問でした。すみません」
大人になると、ごめんなさいもロクにできない人が出てくるというのが僕の持論だ。
だからすぐに謝罪ができるイリスは尊敬できる。
「羨ましいです」
「え?」
「わたくしは学園に通えなかったので、パーティーを組んだのは就職してからなんです。だから学生同士でパーティーを組むのがどれほど楽しいのか知りません。共感できなくて、すみません」
「どうしてイリスが謝るのさ。今のは僕が悪いよ。変な話をさせちゃってごめん」
互いに謝り合っていると痺れを切らしたように前を行っていたはずの2人が話に入ってきた。
「だぁー! めんどくせぇ奴らだな! どっちでもいいんだよ、そんなことは! オレ様だって学園には行ってねぇぞ」
「家の事情があれば仕方ないだろう。むしろ、俺やユーキの方が珍しいんじゃないか。学園に入学できるのはごく一部で、お金と才能と運が必要になる。俺は運が良かった。田舎の学園で補欠合格だったからな」
初めて聞く話だ。
なんとなくゴーシュとイリスの人生が壮絶だったのは予想していたが、勇者であるレイヴは順風満帆な人生を歩んでいると思っていた。
人柄も良いし、特に苦労してこなかったのだと決めつけていた。
「お前も話せよ。遮らねぇからよ」
このまま、ぬかるんだ地面を踏みつけるヌチャヌチャという不愉快な音を聴き続けるよりはましか。
僕もこれまでの人生を話すことにした。
何の面白味もない話だ。
親が決めた普通の学校の初等部に入り、平均的な成績で中等部へ進学。その頃には【気配隠蔽】のスキルを発現していたからそれを使ってサボりを覚えた。
成績は下の上で卒業し、親からは文句を言われながら高等部へ。
そこで【気配隠蔽】を看破した校長に大目玉を喰らいながらも、その先生のゴリ押しで王立学園にねじ込まれた。
で、そこでリタと出会った。
「お前、実はすごい奴なのか?」
「1人でギルドを潰すくらいですからね」
なんとなくイリスの目が笑っていないような気がする。
微妙な差だけど、そんな気がした。
「すごくはないと思うけど、今思うと人には恵まれていたと思う。感謝しているよ」
「そうだな。会えるうちに感謝を伝えた方がいい。ユーキは言葉足らずが過ぎる」
「いや、それは――」
そこまで出してとっさに口を閉じる。
3人から不審がられる中、僕は深呼吸を一つした。
「そうかも。ごめんね」
「きもッ!!」
「はぁ? 僕、謝ったんだけど。なんできもいんだよ。おかしいだろ」
「いつものお前なら否定して終わりか、おまけで皮肉を言ってくるところだろ」
僕とゴーシュの掛け合いを見て、レイヴとイリスが時間差で吹き出した。
成人した男が言い争っているだけなのに何が面白いんだか。
「学生の頃に出会いたかったよ。きっと、俺たちは良い友達になれただろう」
「毎日、ユーキさんとゴーシュさんが口喧嘩している姿が目に浮かびます」
そう言うイリスの瞳が潤んでいる。
彼女は何気ない仕草でサッとそれをぬぐった。
「では、次の話題は今の職業を選んだ理由というのはどうでしょう」
「いいね! 賛成だ!」
2人が盛り上がっているのに盛り下げるような発言をするのは不本意だ。
僕もゴーシュも互いに顔を見合わせてから賛成した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます