第1話 『復活』のゴーレム2

 突然背後から数発の爆発音が聞こえ、視覚が揺らぐ。痛くも痒くもないが後ろで何か爆発したらしい。参拝者達が悲鳴を上げながら逃げ出している。


 俺は振り返れないんだから後ろで何かするのはやめて欲しい。


「ヒビすらはいらんか」


「参拝者を巻き込まないように調節はしたけど、それなりの量の爆薬を使ったのよ。これ本当に石なの?」


「古代遺跡から持ち出したって話しじゃん? 何か特別な魔法障壁でもかけてある?」


「魔力なんて感じなかったわ」


「発掘されたデウス像を破壊しろなんて、簡単な依頼だと思ったのだが少し当てが外れたのう」


「そもそも貴重な神像なのに守衛もいないなんて変じゃん?」


 なんか後ろでごちゃごちゃ話している奴等が、爆弾で俺を壊そうとしたらしい。声から判断すると男2人に女1人の3人組か?


『索敵レーダーが起動できます。起動しますか?』

 

 そんな便利機能あるのなら、もう少し早く教えて欲しかった。取り敢えずお願いします。


 すると頭の中に3D地図が浮かび、赤く染まった人型の記号が四つ付いている。真ん中が俺だとすると、後ろに4人いるってこと? 


「今の爆発騒ぎで人もいなくなった事だし、神官騎士が駆けつける前にワシの必ず石を粉砕拳でも披露してみせようかのう」


「オイラの必ず石を粉砕魔法を見せてやるじゃん」


「それならワタシの調合した必ず石を粉砕火薬で」


 何それ、怖い。必ず石を粉砕するスペシャリスト達の冗談みたいな技や魔法や火薬で俺の転生人生終わるの?


「辞めといた方が良い」


 4人目の声がした。少年のようだ。


「子供? どこにいたの?」


「気配すら感じなかったのう」


「お母さんと、はぐれた?」


 どうやら3人組とは仲間ではないらしい。というか『索敵レーダー』ではさっきから一緒みたいだったけど。


「お前達にはデウスを壊すのは無理」


 少年の声が嬉しそうに弾む。


「一日中参拝者がいて、どうしょうか悩んでたところだ。お前達が人払いをしてくれて助かったよ。ありがとう」


「人払いがしたかった訳ではなかったのだがのう」


「ばっちり顔も見られたし、どうしよう?」


「子供を巻き込めるわけないじゃん。辞めとく?」


「うーん……、依頼失敗か。ボスに怒られるわね」


 どうやら俺を壊すのは諦めてくれるらしい。


「ところで少年よ。人払いをして、この神像をどうするつもりなのかのう?」


 すると少年はクスクスと笑いだすと、楽しそうに「知りたい?」と返事をした。


 俺も知りたいです。


「このデウス神像は、ただの古代文明の遺物ではなく、封印されたデウスそのものだ」


「そんなわけないじゃん。少年の妄想?」

 

「今は神格化されて祭られてるが、デウスとは超古代文明が生み出した兵器。ゴーレムの名前だ」


「ワタシは神様なんか信じてないけど、平和と繁栄のデウス様を兵器なんて言ったら罰があたるわよ」  


 いや、あなた達はその神様の像である俺を壊そうとしてたよね。


「私は今から封印を解いてデウスの主人になるつもりだ。ただこの体は弱いからね。デウスの主人だと知られると直接狙われてしまうかもしれない。封印を解く前に邪魔されるかもしれない。だから人払いがしたかった」


「この年頃が罹る病気? あと数年したら恥ずかしい思いするけど大丈夫?」


「ワシにもあったのう」


 異世界にも中二病ってあるのか。


「少し話し過ぎたか。時間もないし封印を解く」


 そう言うと少年は俺の前に来た。年齢は12 、13歳くらいだろうか。整った優しそうな顔立ちに金髪碧眼がよく似合ってる。


「うむ。しかし少年に一つ聞きたいのう。人払いをしたかったのに、何故、ワシ等にその話しをしたのかのう。主人とは知られたくなかったのでは?」


「それは」


 少年が俺に宝石の付いた腕輪のような物を近づけるとニコッと笑う。可愛い。


「お前達を生きて帰さないからだ」


 そう言うと少年の体が金色のオーラのようなものに包まれ、腕輪に集まる。


『司令官を再登録』


『自己再生を一時中断』


『保護殻解除』


『機体名:デウスを再起動します』

 

 急に力が溢れてくる。


 ゆっくりと首や翼を動かすと、ボロボロと石が剥がれ落ち、ヒビ割れた所から光が漏れ始める。徐々に強まる光と高揚感。


 俺は意識を空に向け、両足で強く踏み込み、そのまま高く飛び上がった。


 両翼を大きく広げ、強く羽ばたかせる。


 風切り音が心地よく響く。


 目の前に雲が迫るが俺はそのまま突き進む。


 もっと、もっと高く。


 雲を抜けると、そこには絶景が待っていた。上昇を止め、今度はゆっくりと旋回する。


 あそこは海か。


 あんな所に城や街がある。


 大きく裂けた谷に川がある。


 遠くの山ではドラゴンが飛んでる。


 ああ、動けるって素晴らしい。それに空まで飛べるなんて!


 一週間も動けず話せずで辛かった。一生あのままの可能性だってあったはずだ。


 恐怖心を異世界への好奇心で上書きして現実逃避してたけど、やっぱ心が限界だったんだろうな。危機が迫ってるって美少女の幻覚を見るくらいだし……。


 動けるようになった自分の翼と身体を改めて確認する。見た感じは金属で出来てるようだ。それに何か角張っているし、鳥というよりは鳥型ロボットだな。羽根の感じから石像だった頃の方が本物の鳥に近かったと思う。


 これどうやって飛んでるんだろう? 異世界だし魔法の力かなんかだろうか? 確かあの少年は俺の事ゴーレムだと言ってた。ロボットとゴーレムの違いは何だろう。


(早く戻れ!)

 

 さっきの少年の声が頭に響く。


 少年は俺に自由をくれた恩人だけど、あの3人を生きて帰すつもりがないと言ってたな。 


 恩は返したいけど人殺しはやっぱダメだ。大人の俺が止めないと。


 俺はもう一度空を旋回すると、ゆっくりと下降して行った。


 神殿の上空まで戻ると、多くの参拝者も戻ってきており、少年はどこかに隠れているようだ。

 

 3人組は神殿騎士に囲まれて捕まっていた。

 

 何人かの参拝者が俺に気づく。跪いて祈りを捧げている人もいれば、逃げ出している人もいる。


 神殿騎士達が俺を見ると血相が変わり、数人が何かを呟くと火やら氷やらが俺に向かって放たれた。


 熱い冷たい痛い! これは嬉しい。石像だった頃は感覚なんて無かったからな。


『敵性行動確認』 


『索敵レーダー起動中』


 レーダーを確認すると、たくさんの赤い人型マークに囲まれている。これ全員敵なの? なんで? 俺の信者じゃないの?


「くっ、まさかこんな所に鳥型のアイアンゴーレムだと! 新種の魔物か!」


「見張りは何をしてた! 早く増援を!」


「こんなゴーレム見たことがないぞ!」


 神像と姿が違うからか俺がデウスだと思いもしないみたいだ。あっちは本物の鳥の姿形だったみたいだし、仕方ないか。


(さあ、デウス。お前の実力を見せてみろ! まずはこの街を殲滅だ!)


(いや、殲滅って駄目だろ。そもそも子供が何を言ってるんだ)


(ん? この声は誰だ? 私に話しかけてるのか?)


 少年の位置はレーダーで確認済みだ。少年が司令官に再登録されたせいか、個別で探す事が出来た。


 ここだと落ち着いて話も出来ないし、移動させて貰うよ。


「なっ、離せ! 私はお前の主人だぞ!」


 俺は少年を潰さないように優しく足で掴むと、再び大空へ飛び立った。

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