第1話『復活』のゴーレム

 今日も異世界は平和だ。


 天気も良いし、欠伸をしながら伸びでもしたい気分だ。石だから動けないけど。


 ぼーっとしていると、早速、若夫婦が俺の前に来て祈りを捧げる。


 「どうか子宝に恵まれますように」と妻から小さい声がした。


 うんうん。子供欲しいよねー。わかるー。けど俺にそんな力無いよー。ごめんねー。はい次の方どうぞ!


 今度は老夫婦だ。


「孫の顔が早くみたいです。どうぞ何卒よろしくお願いします」


 うんうん。孫見たいよねー。わかるー。けど俺にそんな力無いよー。ごめんねー。

はい次!


 今度は子連れの夫婦か。娘さんは3歳くらいかな?


「あのね! わたしね! いもうとがほしいの! どうか! おねがいします!」


 おっ! 元気いっぱいで良いね! 妹欲しいよねー。わかるー。けど俺にそんな力無いよー。ごめんねー。


 まぁ、こんな具合に俺は毎日お祈りされている。返事もしてるけど伝わってないだろうな。


 何故なら今の俺は石像だからだ。


 正確に言うと『デウス神』という神様の形を模した神像だ。


 自分の姿は直接見えないけど、視界の端に翼が見えるし、参拝者からも「立派な鳥の姿だ」と褒められたことから姿形は鳥なんだろうと思う。


 時々訪れるガイドさんの説明を盗み聞きしたところ、平和と繁栄を司る神様らしいが、みんな子宝ばかり願う。平和はどこに行った。


 なぜ俺が石像になったかと言うと……わからない。なんでだろう。

 

 死んで目を開けたらこの姿だった。

 

 前世の記憶があるし、死ぬ瞬間も覚えている。だから転生だと思う。


 実は幽霊になって、神像に憑依してるんじゃないよね……。それなら罰が当たりそう。

 

 そして此処は日本じゃない。だからといって外国でもない。そもそも地球ではないらしい。


 俺のいる神殿から見える下の広場で、一日中、沢山の人達が練習するのが見えるんだけど、初めて魔法を使っているのを見たときは驚いたよ、本当に。

 

 杖から火が出たと思ったら水も出すし。剣からは衝撃波まで出すんだぜ、この世界の人類は。

 

 うん。やはりここは異世界だ。石像じゃなかったら色々と観光したかったよ。 

 

  異世界に来てまだ一週間くらいだが、動けない俺が色々と知ることが出来たのはやはり参拝者と変な能力のおかげだろう。


 この世界には色々な種族がいる。ここは人間の街だからドワーフやエルフ、獣人はなかなか見ないのだが稀に来てることがある。

 

 これだけの人がお祈りに来るから、デウス様って信仰深い信者が多いのかと思ったが別にそうでもないらしい。


 俺の体は古代遺跡から発掘されてから、この神殿の高台に飾られ、絶賛御披露目期間中。なので別にデウス教の信者でもなく、珍しいから見学にきている奴が殆どだ。


 そして変な能力というのが『自動翻訳』。


 目が覚めたとき、俺は知らない言語で大声で怒鳴り合う小さなおっさんに囲まれて寝かされていた。


 声は出ない身体は動かない、そして飛び交う唾。かなりの恐怖だった。


 自分がどうなってるかも解らず、せめて言葉さえわかればと思うと頭の中で声が響いた。


『自動翻訳が起動できます。起動しますか?』


 頭の中に響いた日本語に、思わずお願いしますと言うと小さいおっさん達の会話が理解出来るようになった。

 

「だから! この神像は持ち帰るべきだ!」


「4メートル近くある物を? どうやって上まで運ぶつもりだ!」


「確かに数千年前の石像がこんなにも状態良く残ってるなんて、歴史的な発見ではあるが運ぶのは無理だな」


「空間魔法とか、マジックバックは!」


「あの化け物じみた勇者ならともかく、普通の空間魔法じゃ収納できんぞ!」


「転移魔法ならどうだ!」


「魔石や魔剣ならわかるが、そもそもこんな石像に何で執着するんだ!」

 

「オマエはこの神像の価値がわからんのか? 何年冒険者やってるのだ!」


 どうやら石像だか神像だかを運ぶかどうかで揉めているようだった。


 俺は回りを見渡そうとしたが首が動かない。視界に入る範囲で石像らしき物を探したが、そんな物はどこにもないのだが。


 よくよくおっさん達を観察していると、石像と言う度に俺を見て指差してる。


 その石像って……、もしかして俺のことか? 4メートル近くあるって、おっさんが小さいのではなく俺が大きかったのね。


 おっさん達の結論として魔法で運ぶことになり、その時に発生した莫大なコストを少しでも取り戻す為に、今は神殿の広場で御神体という見せ物になっているという訳だ。


 色々と疑問は残るが、なるようになるだろうというのが今の気持ちだ。

 

 さて、次の参拝者はどんな奴かな?

 

 何時もなら夜になっても行列が途切れることはないのに、最後の1人のようだ。


 というか1人しかいない。


 さっきまであんなに賑やかだったのに、みんなどこに行ったんだ?


 最後の参拝者をみると、1人の少女が立っていた。12、3歳くらいだろうか? 黒髪のロングヘアーが前世の記憶にある大和撫子という言葉を思い出す。


 この異世界にはイケメンやら美人さんがあちこちにいるが、この子は飛び抜けて可愛い。


 そんな事を考えていると、美少女が何か困ったような、どことなく悲しそうな表情で語りかけてきた。


 そんな顔しても俺に子供なんて授ける力なんてないから。妹が欲しいなら両親にお願いしてね。


「……危機が……迫ってる」


 危機?


「……多くの生命が失われ……多くの悲しみが……溢れ……始める」


 なんか物騒な事を言い出したんだけど。


「……仲間を探し……力を……取り……戻……し……て……」


 次第に視界が歪み、意識がだんだんと遠のく。


 何だこれ? 何かヤバい? 


 気づくと美少女はいつの間にか消えており、神殿には何時もの賑やかさが戻っていた。


 夢だった? いや石像になってから寝たことがないのに夢なんてみるのか? ならば幻覚か?


 その時、一週間前に頭の中で聞いた声が聞こえた。


『敵性行動確認』


 えっ? 

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