刃の先は(4)
翌朝。レヴ達は朝食後にヴィンターフェルトから会議室へと呼び出されて、そこで緊急の司令を聞いていた。
険しい面持ちで、彼は淡々と司令書を読み上げる。
「昨日の定期偵察飛行にて、シュネールプス山脈北部全域で〈スタストール〉に動きがあるのが確認された」
その言葉を、一同はいつになく深刻な面持ちで受け止める。
――〈
彼らの目的や意図などは未だに一切が不明。ただ、彼らに共通しているのは、強固な純白の装甲で全身を
人類だけを
困惑を混じえながら、リズが問う。
「何故、このタイミングで活動を再開したのでしょうか……?」
〈スタストール〉は十年前を最後に、人類に対する一切の攻勢を停止しているのだ。これまでは、こちらから攻撃を加えない限り、彼らが動くことはなかった。なのに。何故、今更になって活発化したのか。それがよく分からない。
ヴィンターフェルトは微妙な顔をしながら口を開く。
「本部もその原因は調査しているのだが……、今のところ、一切が不明だ。そして、解明できる見立ても未だ立っていない」
その言葉に、一同は暫し沈黙する。
十年前に沈静化した理由も分からなければ、今更になって活発化した理由も分からない。それどころか、〈スタストール〉がどういう目的をもって人類を殺戮しているのかも分かっていないのだ。
人類の生存圏をここまで縮小させた謎の軍勢が、何かしらの活動の兆候を見せている。それだけで、レヴ達の危機感を煽るのは十分だった。
人間同士での戦争が行われている今、〈スタストール〉の活発化が確認されるのは、まずい。
「そこで、だ。今回、君達には活動が見られた地域――シュネールプス山脈北部の探索任務に当たって貰いたいとの司令が国軍本部から下った」
「国軍本部から……ですか!?」
予想外の言葉に、レヴは思わず目を見開く。
国軍本部。首都ベルリーツに位置するルフスラール連邦軍の最高決定機関であり、陸海空軍の統合司令部である。海洋を失った今、海軍は事実上の解体状態にはあるが……、それでも、連邦軍の最高決定機関である事に変わりはない。
それほどまでのところから、直接司令が下されるとは。
困惑する一同を見て、ヴィンターフェルトは苦笑する。
「君達の困惑は分かる。が、事実だ」
それほどまでに重要な任務なのだと、彼の声音と赤紫の双眸は言外に告げていた。
はぁ、と一息をついて、レヴは戸惑う心を何とか落ち着かせる。この部隊の戦隊長は自分なのだ。一番冷静でなければならない戦隊長が動揺してどうする。
レヴが落ち着いたのを見てとって、ヴィンターフェルトは続ける。
「万が一〈スタストール〉と接敵した場合には、受けた訓練通りに行動すればいい。また、やむを得ないと判断した場合には、任務を放棄しての撤退も許可が出ている」
「え?」
これまで静かに司令を聞いていたレーナが、流石に戸惑った声を上げる。
それ程までに重要な任務なのにも関わらず、任務の破棄や撤退の許可が出ているというのは。いったい、どういうことなんだ。
「本部はとにかく情報を必要としている。それこそ、君達の“壊滅”という報告以上にな」
それに、と、ヴィンターフェルトは付け加えるように続けた。
「実感は無いかもしれないが。君達は、今や連邦軍魔術特科兵部隊の中でも有数の精鋭部隊なのだ。本部も、そう易々と失いたくないのだろう」
「おれたちが……ですか?」
レヴが眉を上げて言うのを、ヴィンターフェルトはこくりと頷いて告げる。
「ここ最近の戦績は君達が一番分かっているだろう? 毎戦闘での損傷率は殆どゼロパーセント、戦線全体に広げて見ても、ここ数ヶ月の北部第一戦線の損傷率は群を抜いて低い状態にある。これは、他の魔術特科兵部隊では成し得ないことだ」
そこまで言って、ふと、ヴィンターフェルトは口の端を苦く吊り上げた。
「……と、言っても。他の戦線を知らぬ君達には分からんか」
他の戦線がどれ程悲惨で、苛烈な戦場なのかも。
「ともかく、この〈スタストール〉領域偵察任務『
†
一方。同日。ルナ達
――レーヴィッツ絶滅収容所。それが今、ルナ達が向かっている施設の名称だ。
帝国が
〈スタストール〉の活性化に伴い破棄が決定されたそこには爆破処分の決定が下されたものの、怖気付いた職員と帝国国軍は完全に破壊し切れないままに逃げ帰ってしまった。
そこで、帝国軍は
万が一〈スタストール〉からの攻撃が行われても、
ふと、ルナは対岸の席で仮眠をとっている二人の少年少女に目を向ける。
連邦軍基地の襲撃――レヴと再会してから、二ヶ月。その間に、ルナの率いる
今、ブラッドレイド隊に居るのは、目の前に居るキースとレイラ、そしてルナの三人だけだ。駐屯地に人質として置かれているステラを入れても、たったの四人しか残っていない。
他のみんなは、南部戦線での激戦で次々と
痛みを必死に堪えるように、ルナは手に持つ小銃をぎゅ、と抱き締める。彼女の持つ小銃は他と変わらぬ制式のものだが、その銃身の左右に取り付けられた四つの黒い砲門が、異質な存在感を放っていた。
X
そんな武器があったのにも関わらず、ルナは仲間を守れなかった。
その事実が、ルナの心には重くのしかかる。
――せめて、目の前の二人だけでも。
暗雲に曇る真朱の双眸と昏く沈む心には、ただ、それだけが渦巻いていた。
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