第23話


 1週間が経とうとしていた頃だった。


 母さんが、祐輔のいる病室に訪れたのは。



 「祐輔君。娘に会いたがっていたわよね?会いにくる?」



 どこか神妙な面持ちで、寂しそうな顔をしていた。


 母さんの後をついて歩き、7階にある病室に入る。


 集中治療室からは出れたみたいだった。


 どうやら、命に別状はなかったみたいだ。


 ってことは、私の体に戻れるってこと!?


 そうウキウキしながら、カーテンを開けたんだ。


 いてもたってもいられなくて、自然と足が動いた。



 そしたら…




 「…………え?」




 最初、その姿を見た時に絶句した。


 声が出なかった。


 顔には包帯が巻かれたままで、喉にはまだ、…チューブが。


 目は瞑ってた。


 腫れぼったい瞼が、ほんのりと紫色になったまま。



 「三夏、祐輔君が会いにきてくれたわよ」



 母さんの声は震えてた。


 目の下にはクマができていた。


 ずっと、寝ていなかったみたいだった。



 「…あの、これは…」


 「先生がね、まだ意識は回復しないって…」



 “意識が回復しない”



 その言葉を聞いただけなら、私も納得ができる。


 でも、それが言葉の中だけで理解できるような状況を、目の前の「私」は諭してはくれなかった。


 自発呼吸ができない体。


 死んだように冷たい手。



 なんとなく、わかったんだ。



 普通じゃないってことが。



 今、自分の「体」が、どれだけひどい状態なのかを。




 「…おい」



 祐輔は、愕然とする私の横で、静かに声をかけてくる。


 いつもはヘラヘラしてるくせに、病室に入った途端、顔色が変わった。


 私と同じように、最初はウキウキしてたんだ。


 やっと俺の体に戻れる!って、歯を見せて。



 「…大丈夫か?」



 彼は、何も言えずにいる私を、心配そうに見つめてくる。


 彼にもわかってた。


 多分。


 普通じゃないんだって。


 私の「体」が、すぐに戻れるような状況じゃないって。


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