第14話



 「キャァァッ!!」



 思わず声を上げてしまった。


 びっくりした。


 誰かが入ってきたような気配もなかったのに、…突然




 ……………………


 …………


 ……って


 …え?




 最初に目を疑ったのは、その人が“見覚えがある”ということだった。



 「あんま大声出すなよ。びっくりするだろ」



 話し方も、口調も。


 私がびっくりしたのは、突然人影が現れたように見えたからで、その人が「知ってる人だから」という理由じゃなかった。


 さっきまでは。



 「人の体でなにしてんだ?」



 ふて腐れたような顔。


 やさぐれた声。


 何もかも懐かしく思えた。


 今日の朝だって、顔も見たくないと思っていたのに。




 「…祐…輔…?」




 誤解が無いように言っておくけど、頭がイカれたわけじゃない。


 目の前にいる人が「誰」か、今私に話しかけてるのが「誰」か、わからないわけじゃない。


 …でも、そんなのあり得ないと思った。


 アイツがここにいるわけがない。


 アイツの体は今、私が乗っ取ってて…



 「大変なことになったな。それにしても」



 大変なことに…?


 口を開けたまま、状況を飲み込めずにいる。



 …なんで、あんたがそこにいんの?


 …なんで、普通に喋ってんの…?



 部屋の窓を覗き込んだ。


 ガラスに映る、人影。


 そこには、ベットにいる祐輔の姿しか映っていなかった。


 

 …え、でも、今、目の前に…




 「どうかしましたか!?」



 勢いよく中に入ってきた看護婦さんが、カーテンをこじ開ける。


 心配そうに見てきた。


 大きい声を出したのが、廊下の方まで届いたみたいだった。



 「…いや、あの、すぐそこに…」



 指を差す。


 祐輔にそこにいることを、必死に伝えようとした。


 私は今、祐輔の体の中にいる。


 …だったら、目の前のコイツは…?



 「何言ってるんですか?…っていうか、お菓子食べないでくださいって言いましたよね!?」



 …え、あ、はい


 …そうですが…




 祐輔がいるって言っても、看護婦さんはスルーしてくる。


 スルーしてくるというか、存在に気づいてないみたいだった。


 そこにいるって言っても、誰もいないですけど、…って



 祐輔は、看護婦さんのお尻を触ろうとしていた。


 背後から手を伸ばし、鼻の下を伸ばして



 「ちょっとあんたッ!」


 「キャッ、なんですか!?」



 看護婦さんは私の声にびっくりしてた。


 その様子を見ている祐輔は、他人事のようにクスクス笑ってる。


 何がおかしいんだ…?


 今、あんたが…



 結局看護婦さんに怒られて、お菓子を取り上げられてしまった。


 体調が良くなったら返してあげますと言われ、開封済みのじゃがりこは口の中に入らず。



 …どういうこと…?


 なんで誰もいないみたいな反応してたの…?


 そこにいるじゃん!


 変態野郎がそこに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る