第9話


 「…どうかしたのか?」


 「…え?」



 祐輔のおじさんも、親戚のおじさんも、驚いたようにこっちを見た。


 母さんは「私」に向かって言葉を投げかけてる。


 「三夏、三夏」って、何度も。



 …こんなの


 …嘘だ



 なんで私がそこにいるの?


 なんで、ベットに横たわってんの…?



 わけがわからなすぎて、気持ち悪くなった。


 ベットの横にある丸椅子に腰掛ける。


 私の手、指が、そこにある。


 自分の手なのに、感覚がない。


 触ってみたんだ。


 いつも、この手でシャーペンを持ってる。


 楽器を持ってる。


 スマホをいじりながら、本を読みながら、——いろんなことを、この指先で




 「三夏、祐輔君の目が覚めたわよ。あなたも早く起きなさい」



 ベットにいる「自分」から、声は聞こえてこない。


 喉に繋がれているチューブ。


 ピコンピコンと動く、心電図。


 看護婦さんが近づいてきて、ベットに戻ってくださいと言われた。


 おじさんに連れられ、無理やり引き離される。



 …一体なにが


 …起こってんの…?




 泣きじゃくる母さん。


 騒がしい病室。




 …吐き気がする。



 事故があったっていうけど、…全然思い出せない。



 朝起きて、学校に向かってたってこと?



 それとも、夜の話…?



 いつ事故が起きたの…?



 どんな事故だったの?



 



 その晩、私は熱にうなされた。


 頭痛も酷かったし、体中痛くて…



 何度か起きては、寝て、その繰り返し。


 その度に夢を見てるんだと思った。


 自分の身に起きたことが何かは、よくわからない



 でも、絶対に「夢」だ。


 そうじゃなきゃ、…こんなの、…あり得ない…



 集中治療室から出たのは2日後のことだった。


 普通の病棟に移された後、色々な話を聞かされた。


 事故のことや、何が起こったのか。



 自分が「祐輔」の体にいることは、意識がはっきりしていく中で理解できた。


 ——「私」が、意識不明の重体になっていることも。

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