3.わかること、わからないこと

突然だけれど、ここでわらしくんとは一体何者なのか出来るだけ簡単に説明しようと思う。

彼はおそらく人間ではない。

では何かというと、いわゆる妖怪の類であるらしい。それ以上のことは本人にもよくわからないと言う。

正直なところ、私は彼に初めて会ったときのことを覚えていない。つまりそれくらい幼い頃からわらしくんも一緒にいたわけで、物心つく頃にはもう兄妹か幼馴染のような存在だった。

けれど不思議なことに、うちの両親や五月たちの両親には、わらしくんはどうやら見えていないようだった。私と時雨はそのことを一生懸命両親に伝えようとしたけれど、全く取り合ってもらえなかったし(見えていないのだから当然だ)、あまりしつこく言うと今度は心配されたり気味悪がられたりするばかりで、見かねたわらしくんが「あなたたちにしか見えていないから、僕のことは黙っていたほうがいいです」と人差し指をくちびるに押し当てて見せるものだから、私たちは納得のいかないまま、けれど大人しく口をつぐむしかなかったのだった。

わらしくん、という呼び名は座敷童子から来ている。

本人曰く「たぶん本当には座敷童子じゃないけれど、そんなようなものだと思ってもらっていいと思う」だそうだ。曖昧である。でもともかくそこから呼び名がついたのだ。

この古い家に住み着いていることは確かだし、別に繁栄をもたらしたりはしないけれど、逆に衰退や不幸をもたらしたりなんて力も持っていないそうで、特に何も問題はない。

わらしくんは私たちと一緒に成長した。少なくともしているようには見える。出会った頃はみんなと同じような小さな男の子だったし、今は同じように十代後半ほどまで成長している。けれどそれはあくまでも見た目の話で、実年齢はもっと上だそうだ。百なんて優に超えていると彼は得意気に言うけれど、ちょっと信じがたい。

しかし本人には、その成長しているという感覚がよくわからないそうだ。何しろ小さな姿をしていた頃から中身は変わっていないらしいし、確かに目線が高くなったような感じがしないでもない、などとはっきりしない。自分の姿形に関心を持ったことがない、と彼は言う。

そう、わらしくんはよくわからない。わからないけれど、彼は大事な家族としてずっと私たちのそばにいる。


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