第3話 『運命の出会い』
「しょ、勝者、エデン」
「あぁクソ、結構これやべぇな・・・」
この『スキル』、さっきは簡単に使っていたが、実は頭の中は色んな生物の思考でごっちゃになっていた。だが、わかったこともある。
「無生物は大分楽・・・というか、思考もクソもねぇから負担という負担なんてものがなかったな。うん、それなら・・・・」
エデンは一人でブツブツとつぶやいている最中、周りは驚きと困惑で声が出ない。そんな周りなど気にせずに、エデンは記憶を頼りに、部屋へと戻る。
戻ってる途中、慌ててメイドたちが来たが、記憶を見ても、メイドの付き添いなんていなかったので、恐らくあの毒親の指示だろう。
そんなメイドたちに何も言わず、エデンは部屋に入る。あと、一応メイドたちには「入ってくるな」と釘を刺しておいたが、きっと扉のそばで聞き耳を立てていることだろう。
「まぁ、スキルの実験は後でするとして、とりあえず状況整理だな」
まず、ここは異世界で間違いないだろう。問題は、なぜ記憶が戻ったのかだ。あのクラウリアスとかいう神の、転生したエデンへの慈悲とも考えられなくはないが、恐らくそれはないだろう。世界がこんなにも自分に対して都合のいい世界だなど、エデンはは思わない。
なら、何故記憶が戻ったのか。今のところで1番可能性が高いのは、あの兄の頭への攻撃のショックだろう。これもこれで都合のいい可能性ではあるが、そこは運がよかったということにしよう。
「にしても、ここの家族、関係悪すぎだろ。」
出来損ないの息子への対応が酷いラノベは見たことあるが、ここまでのものは見たことない。だから、姉だけはエデンのことを大切にしていたことが唯一の救いだ。
すると、その部屋の扉がノックされる。
「・・・誰だ?」
「私よ」
噂をすればなんとやらか、クラルだ。まぁ、口に出してはいないんだが・・・
そんなことを思いながらも、エデンは扉を開ける。
「クラル姉さうわぁっ!?」
「・・・アンタ、誰」
エデンが扉を開けた瞬間、クラルが飛び掛かってきて、エデンを押し倒し、馬乗りになった状態で、エデンの首に鞘から取り出した剣を突き付けていた。
マズイ。この姉はこの体の元の持ち主を大切に思っている。平の入った体ではなく、エデンの入った体をだ。それに、元の精神の性格がいいのは記憶でわかるし、自分がそれほどいい性格だとは思わないし、大切な弟が消えて、だれか知らない奴になったと知ったら、もう自分の知ってるエデンとは二度と会えなくなってしまったと知ったら。悲しむだろう。悲しんで自分もろとも『平』となったエデンを殺すことだろう。この記憶にある姉は、きっとそうする。だから、誤魔化すしかない。
「な、何言ってるんですか?姉様」
「演技はいいわ。アンタは偽物。さっさと本物のエデンの場所を吐きなさい」
聞く耳を持ってくれない。それと、今のエデンは『偽物』ということになっているらしい。一概にもそう言えなくはないが、エデンも好きでこうなったわけではない。なら、
「あぁもう!くらえ!」
「きゃっ!?」
エデンは体から蜘蛛の糸をだし、クラルを拘束。これなら落ち着いて話ができる。
「くっ、な、ナニをするつもり!?」
「なんもしねぇよ。ったく、まぁ気持ちもわかるけど、それよりもだ」
そういうとエデンは椅子を持ってきては、それに座ってから、クラルに自分の状況を白状する。
「つまりエデンは、あの子は、もう・・・・」
「そうだ。もういねぇ」
エデンはあったことをすべて話した。こういうのは変に期待を持たせるより、きっぱりと断言した方がいいのだ。
その事実にクラルは涙を流しながらこちらを睨んで来る。
「―――んたのせいよ、あんたのせいで! あんたのせいであの子は!」
そして激昂。無理もない、大切にしてた弟が別の人間になったと知ったら、怒るのも当然だし、エデンだって、そうされたら怒るだろう。まぁ、そんな大切な人はいないのだが。
「否定しねぇし否定できねぇ。でも、俺だって好きでこんな風になったわけじゃねぇ」
弁明はするが、それも相手にとっては責任逃れにしか聞こえないだろう。なんにせよ、
「よっと、ほら、これでいいだろ?わかったら、サッサと行けよ。あと、殺そうとしたら、俺はお前を止める。自殺もな」
一応くぎを刺したし、今のエデンの実力も見せた。これでもう何もしない・・・はずだ。
△▼△▼△▼△▼△
「なぁ、おとーさまー。俺、デルスメイアってとこに行きてぇんだけど」
あれから5年たったある日、エデンは父ギリンにそんなことを頼んでいた。このデルスメイアという学校は、『魔法国』ヴァルファリラにある魔法学校でも最高峰の魔法学校で、元世でいうところでの偏差値70レベルの学校だ。無論、そんな学力はエデンにはない。だが、この学校は魔法だのなんだの言いながら、結局強ければいいのだ。
「ふむ、デルスメイアにか、わかった。許可する。それと、試験は明後日だからな、いまから出発するといい。少し待て、馬車を用意する」
「わーい」
△▼△▼△▼△▼△
「チッ、相変わらずムカつくな、あいつ」
森の中を走る、周りに馬に乗った護衛のいる馬車の中、エデンはそう愚痴をこぼした。その相手はもちろんギリンだ。昔はあそこまで酷い扱いをしていたというのに、使える奴と分かった途端手のひらを返したように態度を良くする。自分のことしか考えてないタイプだ。
ちなみに、リドレとクラルは5年前のあの試合以来、エデンに対してあたりが強くなった。当然と言えば当然だが。
そんなエデンは今、護衛に囲まれ、デルスメイアに向かっている。リドレとクラルもそこの学校だが、二人は今は春休み中、ということで家に帰ってきているそうだ。
「それはそれとして、デルスメイア魔法学園、魔法を強くするために通うことにしたけど、どんなところだろ。ま、貴族様方がたくさんだろうしな~。はぁ、ぜってぇ地位とプライドのたけぇ奴らが、権力をどうのこうのして、自由気ままにやったりしてんだろうなぁ・・・」
なぜエデンがわざわざそんな面倒臭そうな学校に行くのかというのには2つ理由がある。
まず1つ目は、そこが寮制だということだ。寮なら、あの毒親たちに合わないでいいからである。
次に2つ目、エデンはデルスメイアを卒業後、家を出るからだ。エデンは家を出た後、冒険者になるつもりだ。そのためには、自衛のために強くなる必要がある。
「はぁ、モンスターかなんかいねぇかな」
そうエデンがつぶやくと、目にモノクルが装着された。これは、エデンが作った、いわゆる探索機だ。
「お! いた! ん? なんだ、なんか変だな・・・・」
そのモノクルに映った反応は、1つの反応を10体程の反応が囲んでいるように見える。このパターンは・・・・
「誰か襲われてんな。さーて、どうしよっかなぁ・・・」
もちろん、助けに行くつもりだ。だが、周りには護衛が複数人。どうやって逃げ出すか・・・
「んー・・・ま、いっか」
こんなとこで考えて手遅れになるのもあれなので、エデンは決意し、馬車の扉を開けてから外へ走る。
「なっエデン様!?」
「この先ウンたらメートル先、誰かが襲われてる! 先に行っとくから、後から追いかけてこい!」
「え!? あ! はい!」
何故だろうか、エデンの家の者は妙にエデンを信用している。いくら以前のエデンが人格者だったとしても、今のエデンはそうではない。なのに何故ここまで信用するのだろうか。権力か?
「ま、いっか。それより、早くいかないとっと!」
その反応に向かって、エデンは飛ぶ。そしてそのまま高い木の枝に着地。襲われてる現場を見下ろす。
「えーっと・・・いた!あれは・・・ゴブリンか?」
そこには、1人の少女を複数のゴブリンという魔物が囲んでいた。すると、
「え? うおわぁあぁぁぁぁあぁ!」
足元の木の枝が折れ、エデンは落下する。
「うわぉぉおぉぉぉぉぉおっとぉ!」
地面スレスレでエデンは羽を生やし、羽ばたいて何とか止まる。
「あっぶねぇ・・・あ」
もちろん、落ちた先はゴブリンの群れ。全員が全員、エデンを睨んで武器を構えていた。
「ですよね・・・」
それに負けずとエデンも構える。
「ギャーッ!」
「おらぁっ!」
飛び掛かってくるゴブリンを、エデンは手をドリルに変え、そのゴブリンの腹を貫く。そして次にその出来事に膠着したゴブリンを掴み、もう2匹に思いっきり投げつける。
「あと、7匹・・・あれ試すか」
そうつぶやくとエデンの手の形が変化し、銃の形になる。銃は銃でも男のロマン、マシンガンだ。
「全員ぶっ殺す」
そう言ってエデンはマシンガンを連射し、7匹もろとも一気に葬る。ちなみに球は魔力だ。
「ふぅ、おーわりっと。で、あんた大丈夫か?」
振り返り、エデンは襲われていた少女、少女といってもエデンよりは年上の、高そうな服を身にまとった、金髪ロングの美少女。さすがは異世界、そう言えるほどの美人な女性だ。
「ええ、私は大丈夫よ」
「そうか、なら良かった。って、あ、家までついてったがいいか?」
「それも大丈夫。もうすぐ護衛がくるわ」
ふむ、冷たい。いわゆる塩対応というやつだ。でもまぁ、護衛が来るならいいか。
「そか、なら俺行くわ」
「なっ、まだ名前を」
「やだ、めんどいし」
こういういかにも貴族という奴は、名乗ると御礼がどうのこうのというやつがテンプレだ。そんなギルニアス家の得になるようなことはしたくない。
「それじゃ!」
「まっ」
そう言って、エデンは逃げるように来た道を跳ぶ。その、助けた相手の名前も聞かずに。
エデンは上から森を眺め、護衛たちを見つける。
「見ぃつっけたぁぁぁっと!」
「な!? エデン様!?」
そして、エデンは護衛の傍に着地する。上から降ってきたエデンに護衛は驚く。
「よっ、終わったぞ。悪いな」
「え、あ、いえ」
「それより、さっさと行こうぜ。時間取ってごめんな」
それからエデンたちは再び馬車に戻り、『魔法国』ヴァルファリラに向かうのだった。
△▼△▼△▼△▼△
「―――『魔法国』って聞いてたけど・・・・結構すげぇんだな」
エデン達がやっとのことで到着したヴァルファリラは、エデンの想像以上にすごいところだった。魔法都市というだけあってか、そこら中を飛び回っている。元世でもよく見るほうきや絨毯のほかにも、車? のような物に乗ってる人もいた。
「なぁなぁ、ジーノ。あれって何?」
エデンはその空飛ぶ車を指さし、ジーノに問う。ジーノというのは、エデンの護衛団のリーダー的な存在だ。
「あれは『魔空車』といって、魔道具の一種です」
「・・・・なぁ、あれで来ればよかったんじゃ」
「あ、あぁ、あれは短距離用で、長距離を移動するには向いてないんですよ・・・」
「な~る。まぁ、そんなことよりだ。さっさと試験受けようぜ」
「ああ、はい。デルスメイアは・・・あっちですね」
△▼△▼△▼△▼△
「お前、伯爵家だったっけか? ハハハ! なら残念だったな! ここでこの俺、ベーム侯爵家長男、ワイフーブ・ベーム様に負けるんだからな!」
「は、はぁ・・・」
やっぱりいたよ。エデンは心の中で予想が的中したことに呆れを感じる。でも、こういう奴は意外と強かったりする。力があるから自分に酔ってしまうのだ。・・・・めんどくさい。
「それでは只今より、エデン・ギルニアスとワイフーブ・ベームによる試合を開始する!」
「ハッ! 一瞬で終わらせてやるよ!」
「めんどくさいしうるさい」
か く か く し か じ か
「勝者!エデン・ギルニアス!」
「う、ぅぅ」
「・・・弱っ!」
想像以上に弱くてエデンは驚愕する。誰だ?意外と強かったりするなんて言ったやつは。まぁ、これなら試験の合格は確実だろう。
「んー、結構早く終わっちまったなぁ・・・。これからどうしよ」
エデンがそんなことを悩んでいると、隣からも声が聞こえた。
「勝者! ジューク・ヴェルミオン!」
どうやら、隣も試験が終わったようだ。そちらを見てみると、美しい青色の髪をした美少年だ。そんな美少年の相手をしていた少年は、傷一つない状態で気絶していた。しかも美少年の方は剣すら抜いていない。恐らく、素手で気絶させたのだろう。あのジュークとかいう美少年、相当強い。
「キャー!ジューク様よ!かっこいいわ!」
「ええ!本当、しかもとてもお強い。さすがは『剣聖』と言われるだけあるわ。はぁ、尊い」
名も知らないモブ子さんたち、説明ありがとう。なるほど、あいつは『剣聖』なのか。ファンタジーでよくある二つ名だ。
「・・・」
おっと、目が合ってしまった。それにしても、本当に綺麗な顔立ちだ。
「キャー! 目があったわ!」
「何言ってるの、目が合ったのは私とよ!」
・・・後ろがうるさい。アイドルか? あいつは。
すると後ろから轟音が鳴り響いた。
「うわぁっ!?」
そちらを見やると、大きな氷が立っていた。
そしてその根元近くには、水髪ロングの美少女がおり、杖を右手に持っていた。
「勝者! ニコム・ゼル・ヴァルファリラ!」
「ん? ヴァルファリラ?」
エデンは、その勝者である美少女―――ニコムの姓に聞き覚えがあった。そう、この国の名前と同じなのだ。
「すごいわ、あれ、ニコム王女様よ。美しい・・・」
先程のモブ子さんの解説でエデンは納得がいった。この国の王女なら、姓がヴァルファリラでも納得だ。ん?ヴァルファリラ王女といえば、クラルが騎士をしていたはずだが・・・妹か?
「ま、いいか。休憩室にでも行こ」
エデンがそのまま休憩室へ向かおうとすると、肩に手が置かれた。カツアゲか?
「お金ならもっt・・・え?」
そんなことを思いながら振り返ると、エデンは瞠目する。なぜなら、エデンを引き留めたのは、さっきの『剣聖』とかいうジュークだった。そんな剣聖様がエデンに何用か。
「あのー・・・何用で?」
「あぁ、ごめんね。僕の名前はジューク・ヴェルミオンっていうんだ。ちょっと君と話したくてね」
「え、なんすか。俺、なんか悪ぃことしちまったか!?」
「あぁ嫌、そういうわけではないんだ。ごめんね。ちょっと君のことが気になってね」
だからそれが何故だと聞いているのだ。ったく、このイケメンは完璧というわけではなく、ちょっと抜けてるところもある・・・のかな?
「君、あのクラルさんの弟君だよね」
「ん?姉ちゃ・・・姉様のこと知ってんのか?」
まぁ、王女の騎士を任されるくらいだからな。きっとこの学校でかなりのエリートなのだろう。
「そりゃあ知ってるよ。むしろ、知らない方がおかしいくらいだよ」
「・・・・・」
俺、知らない。クラルが王女の護衛任せられるくらいには強いこと知ってるけど、細かいとこまで知らない。
ひょっとして・・・俺っておかしい!?
「それで、君と友達になりたいんだ」
「おぉなんだ? 急に話が飛んだぞ」
ジュークの話のぶっ飛びっぷりに、エデンは少々驚く。ちなみに、どのくらい驚いたかというと起きたら枕元にデッカイ蜘蛛が居た時くらいびっくりした。
「仲良くするっつっても、俺と仲良くなっても面白くねぇぞ」
「そんなことないよ。それに、僕は友達が少ないし・・・」
それは・・・俺とは別の意味で友達が出来なかっただけでは?
「そう・・・か、うん。わかった。よろしくな」
「うん。よろしく」
異世界での初めての友達に、エデンは握手をした。
△▼△▼△▼△▼△
そして時は進み、入学式
「以上120名を、デルスメイア高等学校の生徒として認める!」
「どの世界でも、入学式はだるいなぁ」
入学式が行われている中、エデンはあくびをして愚痴をこぼす。
「次に、生徒会長の言葉。エリス・ストレイブ、前へ」
「ストレイブ?」
その生徒会長の姓は、確か母のエルネオーナがいってた、大手商会の名前だったろうか。
そんなことを考えながらも、エデンはその生徒会長とやらの方を見た。金髪を腰まで伸ばした美少女で、無表情だ・・・
「うっそだろ・・・」
世界なんては狭いのだろうか。そのエリスという生徒会長は、エデンがこの前、森で助けた件の美少女だったのだ。
「う」
目があい、エリスの歩みが止まる。非常にマズイ。この流れだと・・・
「・・・学園長。ちょっといいかしら」
「ん?どうしたのだ?エリス・ストレイブ」
「この新入生の名前は?」
「む? たしか、エデン・ギルニアスだったと思うが・・・」
へぇ、ここの学園長は、こんな平凡な生徒の名前すらも覚えているだなんて・・・・と、現実逃避はここら辺にして、ここでエリスが名前を聞いたということは・・・
「そうなのですね。なら、エデン・ギルニアス君。あなたを私の騎士に任命します」
「「「え"!?」」」
「はぁぁぁぁ・・・」
こうしてエデンは、エリスの騎士(予定)となった。
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