第3話

…………。


ようやく明日から工事が始まるって言う、退屈なだけの警備の最後の晩。


ライトも何もない中で、いくつかあるフェンスの入り口の内側で星空を見上げてたよ。


他にも入り口はあったんだけど、そこだけ鍵が壊れてて入ろうと思えば誰でも入れたからね。


ああ、一人じゃなかったよ。


電波も悪かったし、何かあった時のために見張りは2人ずつでついてたんだ。


でもまぁ、あんまり仲がいい奴じゃなくてな…。


道の両端、互いに顔が見えない所で思い思いに時間を潰してたんだ。


一応入り口はしっかりと見える位置で。


まぁどうせ誰も来ないだろうなんて思って気楽に構えてたよ。


さっきも言ったけど、天気はいいし、風もなかったから。


落ち葉を踏み締めたガサゴソとした音なんて、道を挟んだ向こう側でもよく聞こえたよ。


だから仮に誰かが徒歩で近づいてきてればすぐに分かる。


逆に風が強かったり雨なんか降ってると、気が付いたらすぐそばまで来てる、なんてこともあるんだけど。


同僚の一人は風の強い日に、ライトを消してサボってたらシカに突っ込まれて怪我したくらいだ。


逆に、風もない、それでいてよく晴れた日の夜なんてこっちが動かなければかなり遠くからでも何かが近づいて来るのがよく分かるんだ。


……そう、それが人でも、動物でもなくても。


ああ、うん。


ようやく本題、というかメインだね。


もっともあれが、いわゆる怪奇現象やら幽霊だのってもんだったのは……今でも確信は持てないんだけど。


まぁとにかく。


足音が聞こえたんだ。


明らかに鹿とか猪みたいな四足歩行の足音じゃなかったよ。


二足歩行の、人が普通に歩いてるような、そんな足音が、後ろから聞こえてきたんだよ。


ざっ、ざって迷いのない足取りで。


工事予定地に向かって伸びる道じゃなくて、森の方からその足音は聞こえてきた。


交代の時間まではまだまだあったし、何かあればまぁ小型のトランシーバーもあったからそれで連絡を取る手筈になっていたからおかしいなって思ってね。


一応念の為、息を潜めて音を立てないようにゆっくりと振り返った。


もしかしたら、別の入り口とか、工具でフェンスに穴を開けて入ってきた不審者なんて可能性もあったから慎重になってたんだ。


山奥の建物とか、取り壊し予定の廃墟とかに下見で入ったら他県から肝試しに来てた奴らがいて絡まれたりとか、あるからね。


ゆっくり振り返って、足音の方を向いて。


そこで遭遇した。


いや、正確には遭遇はできなかったのか。


足音だけで、そっちには誰も、姿形も何もなかったんだから。

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