第2話

…………。


何年か前、何時間もかけてS県の山奥の現場に行ったんだ。


その時も一応、警備の仕事でね。


現場に一般人とかが入り込まないようにしたり、工事してない時間帯に重機とか資材の見張りをしたりしてね。


んで、必要ない時は下っ端みたいに簡単な手伝いをして回ったなぁ。


ん?割とそんなんばっかだったよ。


持ちつ持たれつ、他のとこで人手が足りないってなりゃ離島にも行ってね。


色んなとこに行ったよ。


あとまぁこれもたまにあるやつなんだけど。


その現場はさっきも言った、いわゆる曰く付きな場所だった。


出向した先が出るとこだった、なんてのは結構ザラだね。


ああ、現地じゃよくそう言う話になるんだよ。


と言うか地元の人との話じゃその他の話が基本セットみたいなもんだね。


ほとんどは眉唾だけど、実際、年に何回かはあれがそうじゃないのか?って感じるやつには遭遇するよ。


その時もそうだった…。


舗装もされてない凸凹の山道に入ったら何十分もかけて移動して。


まだ現場に資材を運び込んだばかりで、工事が始まるのは何日もあと。


給油の関係で日に何度も行き来してたら高く付くってんで、仮設トイレと小さなプレハブだけ組み立てて。


そこで4人で寝泊まりしながら資材の監視してたんだ。


昼と夜にローテして仮眠取りながら、何時間も何時間も時間を潰してね。


退屈なだけで眠気との戦いだった。


飯と水届けたついでに抜き打ちで見回りに来たりするから油断できなかったな。


……そんな所でなんで何日も前から見張りにつく必要があるのか、分かんないか。


機材とかの貸し借りの調整とか事故とかあって特にその時は日が空いたけど、天候とかによっては何日も着工できない事があるんだよ。


で、急遽見張りが必要になって、俺らが呼ばれたんだけどさ。


まぁなんでそんな見張りが必要かって言うと、いるんだよ、たまにだけどさ。


ああ、いや。


お化けとかじゃないよ。


どこから嗅ぎつけてくるのかは知らないけど、たちが悪い業者がね。


建築資材やら何やらを重機でまるっと盗んで行くんだよ。


なんなら重機だって持ってかれる。


自分とこの重機盗られるのも痛いけど、あんま数がなくて他から借りてるやつ盗まれたりなんかしたらほんと大変で。


ん?


ああ、話がズレたな。


何があったんだって?


まぁ最後まで聞きなよ。


んん。


そこは国道から外れて、アンダーパスを抜けた先にあったんだけどさ。


元は古い施設跡だった。


塀とフェンスで囲まれてて、上は有刺鉄線がズラッと続いてた。


遠くの方からたまに聞こえて来る車の音以外は、鳥の鳴き声くらいしか聞こえてこないような山奥だったよ。


もう夏も終わって、秋頃だったかな。


山奥なだけあって、夜だと少し肌寒いくらいだった…。


風もなくてよく晴れた満月の晩。


そんな日はほんのちょっとした物音でもよーく聞こえるし、思いの外遠くまで見えるし、動くものがあればすぐ分かる。


特にその日は灯りがなかったからな…。


当然まだ現場には電気も通ってなかったし、発電機で充電したりライトを付けてたりしてたんだけど、その日は新人が燃料を車に積んでくるのを忘れたせいでなんもできなかった。


携帯の充電だってできなかったし、暗くなってからは投光器も勿体無くてつけてなかったから本当に夜空がきれいだった…。

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