第020話 侍女

ノエルの疑問に対して特に何の説明もなく、現実の手続きの中でノエルは徐々に自分が置かれた立場を理解していった。つまり自分はこの大きなお城で働く事になったのであり、それはマナーやルール以前にまず自分の行動範囲を理解する必要があった。


お城は内部も広く複雑で、最初の頃はしばしば迷子になった。慣れてくると少なくとも自分の担当区域や共同の寝室周辺では迷子にならなくなった。それでもたまに担当外のエリアに行くとしばしば迷子になったが。


修道院の頃と比べると仕事そのものは楽だった。水汲みという重労働はないし、薬草摘みも粉引きもなかった。その代わりに偉い人がたくさんいてその対応に戸惑った。


まず「偉い」と言ってもそれが上司なのか主人の家族なのかが当時のノエルにはよく判らない。修道院で過ごしたノエルには周りはみな修道服なので逆に服装で見分ける必要がなく、知らない人でも僧階章で見分ければ良かったのだが、ここの人はそういう階級章のようなものを付けていたり付けていなかったりする。まあもし付けて居ても当時のノエルには見分けがつかなかったが。


やたらと派手な衣服の人が馴れ馴れしく話しかけてきて、はてこれは恐らく大層な身分の方なのだろうと丁寧に接していたらただの道化クラウンだったり、逆に野良着のような恰好の男がやけに丁寧に接してくるので適当に接していたら当主の弟君だったり。


とはいえノエルはそれほどひどく怒られる事もなく、なんとなく恥をかきながらも周囲から暖かい目で見守られていた。その理由は20歳の時にようやく判明した。


その当時の当主、ウィリアム・リングフォード伯爵から直々の呼び出しがあった。もちろん会った事もないし実は名前も知らなかった。執事に伴われて恐る恐る書斎に入るとウィリアム様は笑顔で丁寧に、しかし不思議な出迎えをしてくれた。


お目に掛れて光栄です。アイ・フィール・オナード. ベスターフィールド姫プリンセス・オブ・ベスターフィールド

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