第019話 菓子

話はすいすいと進み、翌月にはもう修道院を後にすることになった。ささやかな送別会が行われ、年に一度のおやつであるイチジクのケーキも振舞われた。そしてそれがそれまでに食べた中で一番美味しいケーキだったのをよく覚えている。


後に振り替えれば何てこともない。それは美しい思い出や悲しい別離の味ではなく、ましてや修道院が大盤振る舞いしてくれたわけでもなく、バークロンド伯爵家がヴァン・ド・ネーブルの高級ケーキを差し入れてくれただけだった。そりゃ美味しいよ。


そして小姓ペイジ──当時はもっと偉い人だと思っていたが──と共にバークロンド伯爵家、今だと「本家」と呼ぶ荘厳極まる城に連れて行かれたのであった。


ノエルの第一印象は「お城だ」であり、続く感想は「大きなお城だ」であった。そしてそれ以上の感想はなく、そもそもここに一体何しに来たのか判らなかった。私はどこかの御屋敷で働くと聞いていたけどなぜお城に来たのだろう。

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