むかしのお話
第018話 孤児
ノエルの最も古い記憶は既に修道院の孤児であった。それ以前の記憶はない。なので後に疑問に思える水汲みや週に一度の水浴びだけの入浴も当時は特に不便を感じなかった。信仰に対する疑問もなかった代わりに神という存在を本当に信じていたのかは今でもよく判らない。現実には修道女や年上の先輩が絶対者であり、さらにその上の修道院長こそが神そのものだったように思える。
あまりにも規定されすぎた世界で育ったノエルは将来に対して何の展望もなかった。後にメイドとなった時にさほど困らなかったのは、あくまで修道女見習いとしての職能が活きただけであり、そもそもそんな仕事がある事もよく判っていなかった。
17歳になった年に修道女から妙な話が出た。バークロンド伯爵家で人手が足りないのでノエルをメイドとして雇いたいという話だった。名指しでである。はて一体どういう事なのか?とは思いはしたが、その頃のノエルはそういう疑問を上位者に投げかけるような事はしなかった。いやむしろそういう質問をすると返って面倒になるという経験則で唯々諾々と従ったのかも知れない。
それに修道女見習いが全員修道女になるわけではない。近い世代の修道女見習いの半分は既に還俗して就職なり結婚なりで修道院を後にしていたので、自分もそういう形でここを出ていくのだと思っただけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます