いつもこんなかんじ

第014話 掃除

この官邸は小さく住人も夫アルバートと自分だけである。そして夫はかくのごとく週の半分も居ないので、ノエルにとっては半ば一人暮らしのような感覚である。新婚夫婦の愛の巣というより、通い妻ならぬ通い夫とでも言うべきか。


──貴族のお妾さんってこんな感じなのかな──


寂しくはないがヒマである。それでも主婦としてノエルはこの小さい官邸の家事の一切を行うが、貴族のお妾さんって普段なにしてるんだろう?


家事の一切を取り仕切ると言ってもノエルにとってはさほど手間はかからない。一階は近侍たち自身が炊事や掃除をやるのでそっちは何もしない。二階と三階はノエル自らが掃除をするがノエルのキャリアでは掃除など当然のことだし、三階の夫人部屋はアルバートがしなくていいと言ってくれたのでそこも手つけずだ。


玄関、応接、書庫、食堂、各水場を巡りハタキで埃を落として箒で掃き、一度三階に上がって主人部屋を同じように掃除する。主人部屋とゲストルームと居間にはそれぞれテラスに続く硝子戸があるのでこの三部屋は硝子戸磨きも一緒に行う。


主人部屋の掃除が終われば二階に降り、ゲストルームに行ってまた硝子戸を磨き、アルバートが脱ぎ捨てた衣類を一旦まとめて部屋の外に出して室内を掃除する。自分とアルバートの洗濯物を一緒に浴室に入れ、風呂に水を足して浴室の竈に火を熾し、最後に居間の掃除をする。集めた埃やごみは大きな袋に入れて一階の車停めの横にある集積所に出せば掃除は終わりである。その際に詰所に居る護衛官と軽く立ち話をしたりすることもあるが今日はお互い会釈だけだった。

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