第012話 予定

「まず8時から昨日の続きの会議、これは最大で4時間を想定しています。もし早く終われば昼までは執務室でご自由にお過ごし頂けます。昼休憩後に13時からは4次予算会議がありその後にはカラベン地区からの陳情に対する説明会があります。その後は財務局と建設局との意見交換会があり、さらに誠に恐れ入りますが運輸局から先の山林路拡張に関するご意見が急かされております」


リーニキッジ秘書官が読み上げる本日の予定に対してアルバートは一見無反応だった。しかしよく見れば目が半開きになって目尻が上がっている。その美しい灰色の瞳には既にこの家の風景は映ってはおらず、数時間後に起こるであろう激論の応酬を見据えているようであった。


門前の小僧ではないが、毎度このような予定を傍で聴くのでノエルにもそれがどれだけの激務なのかはだんだん判ってきた。


ノエルもこの家に来てから時事報ニュースペーパーくらいは読むようになった。カラベン地区とはミクレンド川下流の地域で絹染物を主な産業としている。そして先代のウィリアム・リングフォードからミクレンド川ダム建設事業により水質が変わる可能性が示唆されており、地区住民の死活問題になっているのである。

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