第007話 建設

アルバートの激務の理由は単に政治家としての経験不足からだけではない。四代目バークロンド伯爵エドウィン──アルバートの祖父が行った政策の後始末である。


祖父エドウィンはミクレンド川のダム建設事業を宣言し、それがろくに整備されないまま息子──アルバートの父ウィリアムに爵位ごとぶん投げて、さらに父ウィリアムが三男アルバートにぶん投げたのであった。


ミクレンド川のダム建設は生半可な事業ではない。そもそもミクレンド川の存在自体が七代目まで続いた旧バークロンド伯爵家を廃絶に追い込んだといってもいい。この河川は国定一級河川ということになっているが、支流も多く交錯する海域も多く半分は海といってもいい。この複雑怪奇な水質により淡水魚と海水魚の双方を漁獲できるという漁業上のメリットがある反面、交配による雑種の増加、複雑な河川形態による氾濫および洪水および津波などの自然災害を巻き起こす要因にもなっていた。


そしてなにより周辺住民の説得が難題中の難題であった。場所によって淡水でもあり海水でもあるということは漁業だけではなく農業や居住地域としても重要地域だからである。そして度々氾濫が起こるという事は行政としても堤防の建設や避難地域の確保や維持もしなくてはならない。大いなる恵みを与えてくれる母なる大河は、同時に愚かで俗物的な人類に大きな試練をももたらすのであった。

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