第006話 経緯

ウィルホイザー・アルド氏は爵位と領地を与えられバークロンド伯爵家を継承した。厳密に言うとウィルホイザー氏はバークロンド伯爵としては八代目、リングフォード家の当主としては二十二代目になるのだが、もちろん廃絶された七代目バークロンド伯爵ともリングフォード家とも何の関係もないので、そのまま初代バークロンド伯爵ウィルホイザー・リングフォードとなった。


叙勲当初ウィルホイザー氏は真面目に領地経営を行い、いささか偏向はあっても実力主義の人事評価や政策が良い方向に出てバークロンド市の財政は潤った。しかしそれも技術進歩により外海船の航行域が拡大し、塩・白砂糖・胡椒・茶・絹・錫・銀・金などの流通が過熱すると本人曰く「貴族ごっこ」などに興じていられなくなった。


ウィルホイザー氏は伯爵位叙勲以降も大河商会の代表取締役会長であったが、爵位のほうを次男のロスターに継がせて自身は企業経営専任となった。そして叙爵に続いて外海船の船団を組織したことによりアルド一族の中興の祖といういさおしを抱いてその豊かで実りある生涯を終えた。


そしてアルド一族、というより新生リングフォード家はこの先例に倣い、大河商会──現在のパン・サンライズグループの経営を一族の「本物」の当主に任せ、バークロンド市のほうは本家後継者候補「見習い」を擁立し、組織運営の勉強も兼ねて雑に任せているのであった。

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