第005話 金融

バークロンド伯爵アルバート・リングフォードは王族の末裔でもなければ天涯孤独の身でもない。むしろ一族は多い。彼は六代目の当主だが、なんとまだ三代目当主、つまりアルバートの曽祖父たる人物が存命中なのだ。いや存命中どころかバリバリの現役である。この状況について些か説明が必要だろう。


バークロンド伯爵家の初代はウィルホイザー・アルドという人物で、この人物は騎士でもなければ政治家でもなく財界人だった。いや有り体にいうと金融業者であった。ウィルホイザー氏はさらにその祖先から紡ぐ上流社会への金融業者であり、それは王家や王国に対してすらもそうであった。


この歴史的かつ巨大な貸借関係は実は双方に負担をもたらした。まず普通に考えてこの巨大な借金が精算されることはない。年利など一般国民の為替預金の利率より低いのにその額は下手な商会など一撃で吹き飛ぶほどである。これが国家間の債権ならむしろ双方が担保になるという謎の信用も生まれるが、貸し手が民間金融業者、借り手が国家となると不安材料が大きいのである。


つまり時の国王は、借金のカタというより、貸し手の担保のために廃絶されていた伯爵家を投げ与えることでこの貸借関係の信用を確保したのであった。

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