第4話 入学式
4月1日。小学校に行くと、これから時を一緒に過ごす仲間がいた。もう奏音の中から「行事に参加できない」という悔しさは無くなっていた。色とりどりのランドセルが机の上に置かれている。奏音と同じ赤の子もいれば、緑、ピンク、黄色の子もいた。
奏音が教室の入口の前で止まっていると、1人の女の子が声をかけた。
「おはよ!えっと…君の名前は…」
「海谷 奏音だよ」
「奏音ちゃん!よろしくね!あたしの名前は藤崎 奈緒!」
「よろしくね」
藤崎奈緒と名乗った女の子は、奏音の手を引っ張り教室の中へと入った。奏音は嬉しかった。自分に話しかけてくれる子がいてくれたこと、自分の腕を引っ張って教室の中に連れて行ってくれたこと、些細なことでもとても嬉しかった。
1人の女性が教室に入ってくる。とても若そうな先生である。
「皆さん、席に座ってください」
先生が子供たちに声をかけると一斉に座った。
「今日から皆さんの先生になります、峰田 咲良と言います!よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
と子供たちが揃って言う。元気な声が教室中に響いた。
その先生は、これから入学式があること、入学式では名前を呼ぶので呼ばれたら返事をして立つこと、などを子供たちに伝えた。
入学式までまだ時間があるため、先生は教室内であれば自由に動き回って沢山の子とお話してもいい、と言った。早速、奈緒が奏音に話しかけてきた。
「奏音ちゃんの好きな食べ物なぁに?」
「私の好きな食べ物…ステーキとポトフかな」
「ポトフってなぁに?」
「なんか、外国の料理でスープに人参とじゃがいもとウインナーが入ってるの」
「美味しそう!」
奈緒は目を輝かせて言う。
「ちなみに奈緒ちゃんは?」
「私はね、お茶漬け!お茶漬けの中に入ってるあのおせんべいが大好きなんだ!」
「美味しいよね!」
奏音も会話に慣れてきたらしく、段々と言葉に覇気が出てきた。
いよいよ、入学式の時間になった。体育館に全校生徒が集まる。体育館の外で、今か今かと入場を待っていた子供たちの目は輝いていた。
「新入生、入場」
この合図で子供たちは入場するのだった。先生を先頭に子供たちが入場する。奏音の番になり体育館に入場すると、割れんばかりの拍手が奏音たちを包み込んだ。奏音は歩きながら周りを見渡す。お母様とお父様はいるのか、それを考えながら歩く。すると、奏音に手を振っている母親と父親がいた。
「いた!」
奏音は嬉しかった。いつもはピアノに厳しい母親も満面の笑みで拍手している。父親はビデオカメラを構えながら手を振っている。
奏音の席に着いた。席の上には、入学式の式次第と分かりやすく平仮名が振ってある校歌の歌詞カードが置いてあった。
新入生着席の合図を待ってから座る。
「ただいまより、20××年度 桜ノ宮小学校 入学式を始めます」
教頭らしき人物が入学式の司会を行う。入学式は小学校1年生の子供たちにとっては少し暇なものだった。誰かわからないPTAの会長の話、長い校長の話、来賓の方々の話。寝ている子もいた。ただ、奏音だけは背筋を伸ばして真剣に聞いていた。
「新入生呼名」
校長の合図で一気に子供たちの間に緊張感が走る。ここで変な返事をしたり、返事に出遅れてしまったらこの後も残る黒歴史になりかねないからだ。
校長先生が名前を呼ぶ。クラスごとに名前を呼び、皆順調に返事をしていく。いよいよ、奏音のクラスになった。奏音の前の子達から順番に呼ばれていく。
「海谷 奏音」
「はい!」
奏音は胸をなで下ろした。変な返事にならなくて良かった、そう思ったのだった。その後の子達も変な返事になった子は現れず、無事に新入生呼名は終わった。
「校歌斉唱」
教頭の合図により、校歌が演奏される。
在校生が大声で歌うが、新入生にとっては難しいものだった。何が何だかさっぱり分からない、とでも言うかのような表情で演奏が終わるのを待っていた。
「以上で20××年度 桜ノ宮小学校 入学式を終了致します。新入生退場」
その合図で小学校1年生は退場していった。退場していく1年生の後ろ姿には希望が満ち溢れていた。
入学式が終わり、奏音は奈緒と別れを告げ母親と父親の元に行った。
「お父様!お母様!ただいま!」
「おかえり奏音!入学おめでとう」
「奏音おめでとう、パパすごく嬉しいよ」
2人の表情は明るく幸せに満ち溢れていた。
「奏音、帰ろうか!今日は奏音の大好きなステーキよ」
「やったぁ!!!」
奏音の表情は、他の小学生と変わらない可愛らしい表情だった。新しいランドセルを背負った奏音は、父親と母親と手を繋ぎ帰って行った。奏音の背負っているランドセルは太陽に反射して輝いていた。
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