第20話 刺される予定なかったよ?

刺される予定なかったよ?



 俺が用があるのは、付き添ってた方だ。

 何ていう名前だったか.......。

 近づくと、顔を強張らせ、身を引こうとする。


 その心中を察せた俺は、彼女から4メートル程離れた場所で立ち止まり、

「俺はここから動かないと誓う。頼むから聞かれたことに答えて欲しい。近づいたら、これで身を守ってくれたっていい」


 持っていたナイフをそっと置き、俺は4メートルのラインにしゃがみ込んだ。


 

 そして、未だに少し怯えた様子の彼女と目を合わせ、口を開いた。


 


「無理矢理されたのは......お前だろ.........?なぁ....」


 


 俺のせいだ。

 俺が、クラスの奴らと別れたから。

 実際、興味がなかったから、別れてもいいと思った。


 

 でも.........。

 彼女のは、死を望んでいるかのように、生気を失い、何もかもが、どうでもいいと、そう言っているかのような。そんな目だった。


 

 .........あの時の、俺の目と同じだ。

 


 どんな目にあったのだろう?

 誰がやったのだろうか?

 仮にもクラスメイトで。

 俺がいなくても、力を合わせてどうにかするだろうと思っていた....いや、そうのに。




 


 みんなも、ピーピーうるさいも、再び驚いているのが分かった。


 

「はっ.........?」

「嘘......」

 


「乱暴な事されたのは私だよ!?どう考えたって分かるじゃん!こんな酷い服装なんだよ!?」




 怒りで何も考えられなくなりそうだ.........。

 確かに汚くボロボロの制服だなぁ?


 

 だけどな?

 


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 


 長いため息をついて。

 


 振り返った俺は、『冒険家』スキルでロープを作る。

 


 未だに喚き続けるソレを俺は人とも思わず、冷たい視線を送りながら近づいた。


 

「やっと分かったの!?私だって言ってるじゃん....酷いよ.........」



 

 ロープを握りしめたまま近づいている事に気づいたのか、

「えっ?何するつもりなの!?ねぇ近づかないでよ!まってまってまってっ!」


 


「黙れって、言ってる意味が分からないみたいだな。お前、媚でも売って楽しかったか?自分から処女失っといて、その三文芝居。バレないとでも思ったのか?」


 

 詰めが甘いんだよ。

 あぁもう.........。

 威圧するスキルが欲しいな....と願ったら手に入れることが出来た。

 


 強い感情も関係しているのか、簡単に手に入りすぎて拍子抜けだ。


 

 『威圧』スキルで威圧しながら問いかけると、


 

「ぁあっ.......ひぃぃぃ.........」

 


 ガタガタと震え、逃げる素振りを見せたのでロープで遠慮なく縛り上げ、すぐ側の木に吊るしておいた。



 

 再び、彼女の元へ戻った。


 

 彼女は先程の一連の流れを見て、俺に恐怖心を抱いてしまったらしい。

 ナイフはこれまでの間に取っておいたのか、胸の辺りで握りしめている。


 

「怖がらせたか.........。俺はお前に、何もしない、とは言えない」


 

「.........」

 


「俺はお前の名前が知りたい。いつまでも「お前」呼びなのは、嫌だろ?」


 

 精一杯優しく声をかける。

 本当は、女子が話を聞くべきなんだろうが、状況を理解出来てるのが俺だけなんだから仕方がない。


 

「......... んざき」

「ん?」

 


「........神崎 紗蘭かんざき さら


 

「悪ぃ、教えてくれてありがとう。神崎」


 

「.......」

 


「ごめん.....ごめんな.......神崎.....俺がクラスの奴らと別れたばっかりに.......」


 

 これは本音だ。

 例えあの時どんな態度を取っていて、俺について行く意思が無かったとしても、こんなことをされていいはずが無い。


 


「どんな事があったかは聞かない。誰にされたかと、今何が起きてるのかを教えてくれないか?」


 

「なっ、なんでっ....あたしだって.........」


 

「ああ、それか.........」


 

 

 少し、考えて。

「似てるんだ」

「......?」

 


「昔の......絶望した時の俺と、目がよく似てる」

「......!」

 


には、それがなかった。どうせお前は、逃げた先で俺らを見つけたから、居場所を知ってるからって案内役にされたんだろ?ご丁寧にアレが犯された事にするとはな.........」


「まだ、.........」


「大丈夫だ。ゆっくりでいい。俺は何もしないし、情報があれば何でも言ってくれ。ちゃんと聞くから」


 

「まだ...他のみんなが....いる.....」

 


「.........あぁ」

 


 神崎がまた体を強張らせた。

 勝手に『威圧』してたか.........。

 怒りをコントロールできないみたいだ......。


 

「よし、分かった。助けに行きたいんだが、説明と案内、してくれるか?お前の安全は保証する」


 

「分かった」


 首洗って待ってろよ、クズ共。


 ――絶対に、許さないからな。





 


    ◇

 


「......つまり、その白井?は異世界の言葉が使えて、鑑定したり物を収納したりしてた、と」


「そういうこと。あたしは......すぐみんなと離されたから、あまり分からないんだけどさ....」


「大丈夫だって、お前が気にすることなんてひとつも無いんだからな?」



 少しずつ、この心の中でとぐろを巻くように頭の中をぐるぐると渦巻いていた怒りも落ち着いてきた。

 冷静にいかないといけないことは分かってるんだ、ただ感情のコントロールが難しすぎると思うほどに腸が煮えくり返ってただけで。


「ふむ....「鑑定」とか「収納」みたいなスキルは、召喚された人間全員使えるってことか......?しくった、その線は考えてなかったな.....」



『鑑定』


 で、できるのか.........。


 体から力が抜けた。

 ただ、まあ『看破』より見れる範囲は少ないな。

 隠蔽さえしてればこっちは問題ないな。


 あとは.........。


 『収納』


 手に持った荷物(体育の時に傍に置いてた鞄)が俺の掌に現れた黒い靄の中に消えていった。


「はぁぁぁ.......気づかなかった俺馬鹿すぎるな.........」


「そんなことない」

「碧くんはすごいよ!」


「励ましてくれてありがとう。でもまぁ....自己嫌悪みたいなもんだよ。すぐ切り替える」



 ひとまずこれで、多くの荷物が持てるようになったし、それに伴って武器も隠し持てるようになった。



 というわけで、話も終わった事だし.........。


「よし、話は終わりだ。腹減ってるだろうし、微妙なラインナップかもしれんがご飯、食べるだろ?」

「....うん。ありがと」


 神崎は、そう返事をしたものの、力が抜けたのか立ち上がれないみたいだな。


 


「ほら、掴まっとけよ」


 神崎を抱えて、さっきまで飯を食ってた場所まで連れてく。

 もちろんみんなも戻る。

 徒歩数秒だしすぐだけど、仕方がない。


「っ!ぇっ!?」


 なんか驚いているのか顔が強張ってしまった。それも当然か。男に触れられるのも嫌なんだろう.........ごめんな、もう少しだからな.........。

 


「着いたぞ。ごめんな急に。嫌だったよな」


 

「ぅ、うぅん。ありがと」

 


 あ、そうだ。ついでにもしとくか。早めがいいよな。

 嫌がるかもしれんがこの際仕方ない。


「先に謝っとく。ごめん」

「何?ひゃっ!」


「痛っっ!刺すなよ痛いな」

「いっ!今のは絶対アンタが悪い!」


 腹を手で少しだけ触れただけだけど、流石にダメだったか。

 渡してたナイフで肩を刺されてしまった。


 傷は何も問題なく魔法で治療して済んだ。


 神崎はすっかり怖がってしまって、俺の傍から離れてしまった。


 そしたら、物凄く嫌な予感がした。

 

 .........マズい。やっちまった.........。


 みんなの前でやるべきじゃなかったか......?

 いやでも、みんなの前じゃないともっと怖がらせるよな?


 唸っていると、予想通り――


「今、何したの?」

「ねえねえ、私たちがいるのに何してるの?また女の子捕まえるつもり?」


 そうなっちゃうかぁ.........。



 2人の後ろで、「うわまた修羅場......」と頭を抱える一ノ瀬だった。

 いや、助けてよ。






     ◇



「え....え〜っとだな?」

「何?」

「理由があるの?あってもダメだと思わない?」


 確かに!!


 なんて同意してたって意味ないんだけど?


「あぁ...えっと.........うーん。ごめん神崎、お前に言わずにしたのは悪かった。理由はあるんだ」


「.........アンタが、あたしに、セクハラする理由.......が?」


 ぐぅ、嫌われた.........。いや別に好かれたいわけじゃないんだけど、複雑だな。

 ちゃんと説明しても納得してくれないと思って何も言わなかったんだけどさ。


 

「神崎?耳貸してくれたら理由言えるんだけ「...いや」.......さいですか」

 


「私たちに言えない理由でもある?」

「.........」


 

 2人の目が死んでいる!!怖い!怖いよ2人共!!!


 

 周りに助けを.........って、田村の野郎、俺を見て笑ってやがる!!!くっそ後でしばく!!


 

「俺ただのセクハラ野郎になってるんだけど」

 


「実際そうだしね」


 おい一ノ瀬、お前もか。

 後ろで男子も頷くな!


「だああああ!もういいよ!分かった!言うから」



 

 シュッ。


 俺から離れて体を小さくしたままの神崎に縮地で近づき、

 耳元で囁く。

 だってこれしかないんだもんよ。

 

「魔法で避妊しただけだ。こんなことみんなの前で言えるわけないだろ。」

「っ!?.........!!」


 驚いて顔を逸らした神崎だったが、俺の言ったことにさらに驚いて固まった。


「あ、これ誰にも言うなよ?フリじゃないからな?」


「えっ?え.........?」


 しばらく困惑していたようだったけど、やっと理解してきたのか、


「ほんとに.........?」

「ああ、ホントだ。言うなよ?」


 すぐ傍で2人がうるさいな。


「ほんとに.....?ありがと......ほんとに......ありがとう...これで.........」


 おっと。

 

「言うなよ?頼むから。それはそうと、体洗ってこい。汚れてるだろうしさ。あ〜、橋津たち暇ならついて行ってやってくれよ。場所分かんないだろうし」



「あっ」

 今気づいた。2人連れて行かしちゃだめだ――


「あ、やっぱり一ノ瀬――」

「行ってくる」

「覗きに来ないでね、今日だけは」


 今日だけはってやめい。

 覗かんわ!


 あ〜っと.........。

 こりゃ、バレたな..................。

 俺は頭を抱えた。

 

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