第19話 ブチ切れて
ブチ切れて
日が完全に登ってから更に時間が経って、昼前くらいになった頃。
俺は解放された。
搾り取られた.........。
おかしいだろどうなってんだあのスタミナ.........。
俺は、この時のためにって言うとなんか期待してたみたいで違うな、万が一のために準備していた秘策によって、ある事態を防ぐことに成功したんだ....。
あ、貞操は守れなかった。うん.........(泣)。
それは、『避妊魔法』だ。
文字通り避妊するために使う魔法だけど、『中級魔法適正』のお陰で中級避妊魔法が使えた(創ったんだけど)ので、何とか「異世界から帰る前に妊娠エンド」は無くなりました。セーフ....。
.....そもそもこんな事になってるのに今更びっくりなんだけどね。
おっかしいな俺現実世界でモテたことなんて1度もないんだけど.........。
と、回想はここまでにして、みんなと話し合ってから食糧調達に行かないと。
休む前とは違う意味でふらふらする足取りで、みんなと集合した。
あ、俺も、橋津と松下も、水浴びは終わらせてきてる。
ベトベトになったからな.........(諦観)。
さて、会議といこ――――
「ちょぉぉぉぉおおっっと待ったぁぁぁ!!」
「なんだよ田村、でかい声出すな、うるさいだろ」
田村が大声を出すので、みんなびっくりしてるじゃないか。
「お、お前っ!昨日!何してた!?」
「え?俺?魔力の操作してて.........えっと」
「ほらな!?言えないようなことしてたんだな!!くっそぉぉぉ!!!」
「あ、いや、死にかけたって話なんだけど.........」
「ってえぇぇぇぇ!?」
「また?馬鹿なの?」
「ん。馬鹿」
「自覚ないんだよね.....困ったね.........」
「あ、あれ?またこんな感じ?」
地の声が漏れてしまった。
「誰のせいだと思ってんの?」
「すんません」
返す言葉もなかった。
「と、とりあえず話し合い始めたいんだけど」
「話逸らしてんじゃ......ごふっ」
田村が一ノ瀬にボディーブローされて悶絶&撃沈。
あれいい一撃だったな.........。
「田村は死んだが、始めるぞ」
「ん」
「遅いっ」
「しゃーないだろ。えっと、今後の大まかな予定と、今日することをまとめて、すぐに取り掛かるぞ」
「今日やることは言葉にするとすごく簡単だけど、どうなるかは未知数だから安全にいきたい。昨日みたいな事がないようにしたいからな」
「そうだね」
「食糧調達だ。木の実、イノシシ、兎、葉っぱ、木の根。何でもいい。テレビとかで見た事あるような食べられそうなものを集めたら、俺が「看破」で毒がないか確認する」
「分かったよ」
「了解!」
「最終的な目標は、分かってると思うけど日本に帰ることだ。この中の誰一人として欠けずに。いいな?絶対に無茶するなよ?」
「はいブーメラン」
「1番言われたくないなぁ」
「自分で言ったこと自分に言い聞かせたら?」
マジで辛辣!!!
「ぐっ、まあいいや!始めてくれ」
オーガを倒すときにみんな走り回ったし、目星がついてる奴もいたから、スムーズにいくはず。
「.........かはっ、はぁ....はぁ....はぁ.........。死ぬがど思っだ.........」
田村の声が悲しく、森で響いた。
◇
食糧調達は順調に進んだ。
みんなオーク(のような敵)から逃げた時に散らばった事もあってか、結構広い範囲で採集することができた。
「じゃ、分けてくか」
「うぉーー!」
「点数つけるとかどう?」
ふむ......なんか結果が見えてる気がするけど、アリだな。
「有害な物なら-2、美味しい物なら+1、量が多かったらその分加算してく感じでいいかな」
「賛成〜!」
「俺が勝つ!」
「ん。負けない」
「勝ったやつは.........現実的な要望を1個言ったら俺が頑張ってやろうかな」
「現実的......俺に彼女を......」
「それクソ非現実的じゃね?」
という訳で、
「これ何の根っこだよ、トリカブト見てえなやつじゃねえか!はいボツ。-2な。これは...ぶどう?みたいなやつだな、酸っぱそうに見えるけど、+1だな..................」
「ぐおおお!トリカブトとか知らねぇよぉぉぉ!!」
田村、-3点。
「おっ、これゼンマイか?この世界の名前は発音し切れないし、俺の頭の中にある知識だけで補ってくしかないな.........。+1と。え〜っと、これは自然薯か!?すっげ.....+3でもいいんじゃないか?........」
橋津、12点。
「ぶい」
「ドヤ顔可愛いなくそ....」
「柚右?もう1回言って」
「いや言わん」
◇
そんなこんなで、まぁ、察しの通り田村が最下位、橋津が1位だ。
2位以降は一ノ瀬、山野、小野、松下。同率で川上、文乃、星野、大井が5位。点数は2点だった。
もちろん、俺は参加してない。
俺が1位になっちゃうし、俺はそもそもみんなの見つけたものを採集する係だったからな。
崖の上とか木の上とか色んなところ行かされた.......。
疲れたな。
イノシシ、ウサギ、魚(ただし最後に「のような生き物」とつく)は、俺が人数分取ってきた。
名前がそれぞれフィア・ボアル、ラビルメ、ヤマロフカ。
多分イノシシ、ウサギ、ヤマメだろう。なんで英語じゃないんだ、テンプレに従ってくれよ......。
そんなことより.....
「げっ、橋津か......」
「ん。約束。守って」
「.......ちなみに、何?」
「......まだ、秘密」
「え、それいつに使うつもりなんだ.........?」
俺の反応を見てクスクスと笑う橋津。
それを見てぐぬぬぬしてる田村と文乃、そして松下.........。
お前もなのか......松下.........。
ま、気を取り直して。
「これだけあれば、色々作れそうだし、暫くは食糧に困らなそうだな」
「よし!ってことは料理は.........」
「俺も手伝うけど、頼んだ。大井」
「うん、料理は家事の中でも得意じゃないんだけどね....スキル?の力で上手くなってるかも」
パッシブスキルだし、『家事』スキルは使えるだろうな。
大井はワクワクしてるみたいだ。
火は俺が起こした。
魔法はこういう時便利だな....。
申し訳ないけど、大井が遅めの昼ごはんを作ってくれてる間に、俺は頭の中で状況の整理をし始める。
俺らのゴールは、日本に戻ること。
少なくとも、ここにいるメンバーは誰一人欠かさずに。
その為にも情報が必要だし、十分な影響力がないといけないのは言うまでもないよな。
例えば、あるとするなら冒険者ギルドとか商人ギルドとか.......。
欲を言えば、国王に後ろ盾についてもらう、とか。
街に行った方がいいんだろうな....。
ここでの生活だけだと何も進まないことは明白だし、俺にあるのは『言語理解』だけ。
あっ、思い出した、スキルで隠蔽しとかないと。
『ステータス』
「『隠蔽』っと」
こんな感じにしてみた。
============================
碧 柚右 17歳 男 レベル:31
筋力:72(+64)
体力:80(+50)
耐性:84(+44)
敏捷:56(+94)
魔力:126(+48)
魔耐:96(+42)
スキル:言語理解(Lv.5)・話術(Lv.4)・序盤支援・料理・家事
=============================
そもそも、後で看破してみたら、注意深く看破したりしない限り俺の【隠蔽】と、加算されたステータスは見れない様だし、こんな感じでいいかなって思った。
「ステータスが偽装できたらなぁ......」
と、ぼやきながらステータス画面を弄っていると、
============================
碧 柚右 17歳 男 レベル:31
筋力:72(+64)
体力:80(+50)
耐性:84(+44)
敏捷:56(+94)
魔力:126(+48)
魔耐:96(+42)
スキル:言語理解(Lv.5)・話術(Lv.4)・序盤支援・料理・家事・偽装(新!)
=============================
ぽんっ、と。
マジで文字通り、ぽんって感じでスキル『偽装』が手に入ってしまった。
それでいいのか、スキルよ....。
これが『序盤支援』の力なのかな?
スキル習得までの時間早すぎだって.........。
あと、「new!」って翻訳されずに日本語で「新!」って出るの面白いな、、、。
という訳で完成したのがこちら。
============================
碧 柚右 17歳 男 レベル:3
筋力:14
体力:13
耐性:13
敏捷:15
魔力:17
魔耐:14
スキル:言語理解・話術・序盤支援・料理・家事
=============================
今のスキルレベルだと、1の位を消すことしか出来なかった。
まぁ、これで相手が嘗めてかかって来てくれたら御の字だ。
と、文乃がペンを走らせているのに気づいた。
「文乃、何書いてんの?」
周りも釣られて文乃を見た。
文乃は、いきなり注目を浴びてびっくりしたのか、一瞬縮こまった後、
「に、日記を書いてるんだ。ノートと、筆記用具を持ってきてたから」
「なるほど.....いいアイディアだな」
「日記か......昔書いてたな〜」
そこで、事は起きた。
「柚右」
「ん?」
「昔の事が....んっ、ぐぅぅ....思い出せない....っ」
日記というワードに、過去を回想しようとした橋津が、頭を押さえながら頭痛に耐えている。
ってどういう事だ!?
「昔?........っっ!」
「みんな、どうしたの!?」
「どうしてだ.........!??」
俺は、みんなの事が心配だったけど、昔の事を思い出してみることにした。
「あれ......俺、お父さんもお母さんももう死んでる。でも、家族がいなかったわけじゃない.........っっっ!!!」
本当に頭が割れると錯覚する程の激痛。
何かを思い出させないようにしているかのように、執拗に襲ってくる。
「ぐぅっ、.........はぁ...はぁ.........」
「うぅ....」
昔の事を思い出そうとするのをやめると、痛みは治まった。
周りのみんなもそうみたいだ。
「何.....?今の.........」
「....分からねぇ」
とりあえず、
「今言えることは――――俺らの記憶が戻ることを良しとしていない奴がいる、ってことだ」
◇
そんなこんなで、色々あったものの、昼ごはんができあがったのでみんなで食べることにした。
当然のことながら、大井は何も知らないから、急に雰囲気の変わった周りに戸惑っているみたいだ。
「いただきます」
「ぁっ、えっと、いただきます」
「「......いただきます」」
考えても仕方ない。
俺がいただきますしてから、みんなも食べ始めてくれた。
「うまっ」
思わずそう口に出すくらいに、大井が作った料理は美味しかった。材料が材料なのに凄いな.........。
何故か知らないけど俺も『料理』スキル持ってるし、料理を学んでみようかな......。
何か別のことを考えてる間だけ、さっきのことを思い出さないで済む。
気がかりではあるけど.........。
昼ごはんは、鍋が無いので木の枝に指して焼けるものしかない。
当たり前ながら、塩もない。
献立はヤマメの塩なし焼きと、ゼンマイなどの山菜を煮たりしたもの。ぶどうジュース。
塩が無いのはいよいよヤバいな.........。
塩分が無くて死んでしまう。
煮るのは大変そうだったな。
偶然持ってきてたノートのページを切って、器の形にして煮たんだ。
紙って、発火点が沸点より高いから、実は紙の耐久力はさておき、器にしてお湯を湧かせるんだよね。
そしてぶどうジュース。これが曲者だった。
同じように紙で器を作ったから、ノートのページがもう心許ない。
水筒は各自持ってるけど、飲み水に使ってるからなぁ。
酸っっっっぱかったんだ、これが。
それはもう、めちゃくちゃに酸っぱいもんだから、ビタミン補給だと分かっていても、飲みながら涙が出た。
それにしても、適当に塩なしで焼いたり、煮たりするだけでこんなに美味しく感じるのは、大井のスキルと、この状況、そして疲れのせいなんだろうか.........。
食事も終わり、談笑していた時。
ガサッ。
とっさに俺と小野が、『危機察知』を発動させ構える。
「みんな離れろ!」
さっきまで探索してて、危険そうな生き物はいなかったはず。
だけど、油断は禁物だ。
ガサガサッ。
緊迫した空気の中、
「はぁ......はぁ.........。た、助けて。お願い」
見るからに痛々しい様子の女子と、それを支えるもう1人の女子が姿を現した。
みんな警戒を解いた。
が、俺だけは違った。
信じたくない。
でも、本当なら........。
俺の心の中に、ドス黒い感情が渦巻いていく。
勘違いじゃないはずだ。
逆にそれが、俺の怒りを更に助長させた。
「大丈夫か!?」
田村が駆け寄ろうとする。
「田村!!!!動くな!!!!!!!」
「でも!」
「全員!動くな!!!!!!いいな!?!?」
俺が突然大きな声を出したことに、みんな驚いているようだったが、その変わり様に、みんな一旦は様子見してくれたようだ。
「えっと...碧くんだっけ.......ここの、リーダーって......。わ、私....男子に....無理矢理っ.....されてっ......うぅ.........」
痛々しげな見た目の女子、名前は知らないが、クラスで男子に媚び売って持て囃されてたはずだ。
何故かこの記憶は思い出せるんだな。
何がトリガーになってるのかが分からないが、今はそれどころじゃない。
「柚右、怒ってる?」
「き、キレてる......のか?何に.........?」
そうだな。俺は今、これまでになくブチ切れていた。
「お前は黙ってろ」
「!?!?」
「えっ!?」
「は!?」
「.........!」
近づいてくる女子をばっさり切った俺に、本人もみんなも、そして付き添っていた女子も驚いたのが分かった。
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