第16話 誰が何と言おうと
仮面とローブで身を包んだ俺は、アンデッドにならないように、サーレの死体を燃やしてから拠点に向かおうとしていた。
その時だった。
ガサッ。
咄嗟にナイフに手が伸びた。
誰だ?追手か?
警戒心を強める。
「えっ、はっ?う、うそだろ.........?」
怪我をして、治癒の精霊アキュールに治療してもらっていた川上だ。すっかり忘れていた......。
「これって、死体っ.........じゃ、じゃあ、碧は.........」
仮面のせいで俺だと分からないんだな。
この状況的に、敵が俺の死体を焼いてるように見えるのか。
.........バレたくない、な。
無理だろうけどな.........。
でも、できるのなら、俺が人殺しである事なんて、誰にも知って欲しくない。
..................あんなに小説読んでも何も思わなかったのにな........。
「お、俺が相手だ!みんなのっ、所には行かせないぞ!」
川上が俺の前に立ちはだかった。
こいつはすごいな。
みんなの為に格上に見える敵に立ち向かえるのか。
能力もなく。
自分がどれだけ小さい存在か、突きつけられているようで胸が苦しい。
これ以上仮面をつけたまま口を出さないのも無意味だな。
..................外さないと。
..................外したく、ないなぁ。
これを外せば、俺がサーレを殺して燃やしていたことがバレる.........。
ふぅ。
俺は、覚悟を決めて、仮面を外し、ローブについてるフードを取った。
「川上。元気になったのか。良かった」
「お、お前だったのか!?よ、良かった、てっきりやられたのかと......。っ..............................。」
気づくか。鋭いな。
一方俺は表情筋を酷使して、川上に心の内を悟られないようにと、心がけた。
..................俺の居場所は無くなったみたいだな。
荷物をまとめないといけない。早く拠点に戻らないと。
「..................とりあえず、拠点に」
「..................分かった。着いたら、俺が先に皆と話したいんだが、いいか?」
.........皆に共有するのか。
.........それだけはやめて欲しかった。
いずれ自分で言うつもりだったのに。
いずれ.........。
ただ、逃げてるだけなのは分かっていたけど.........
自身の自己中さに更に自己嫌悪に陥る。
それも、誰にも分からないように、隠し通そうとする。
「..................分かった」
「おう。じゃあ、行くか――」
◇
拠点に行くのに、何の障害もなかったことに驚きだ。
まるで、さっきまでの戦いが夢のようで――――。
「.........。」
「...........................!」
「...............?」
「....................................!?」
川上は、さっき俺に言った通り、先に皆と話し合いをしに行った。
その間、俺は荷物をまとめていた。
ここは、居心地が良かったなぁ。
.........
人殺しがいていい場所じゃ、ない。
ラノベで、人を殺して病んだりしていた異世界人に文句を言っていた俺が本当に恥ずかしい。
リアルである限り、俺が人を殺せば、その感触、光景は、俺にとってはリアルに伝わる。
「碧~~~!!」
川上が呼んでいる。
もうお別れか。
ふぅ。
「川上。皆。じゃあな」
フードと仮面を取り出し、今の俺の顔を、誰にも見られないように隠しながら、拠点から離れようとして――――
出来なかった。
橋津と松下が、俺のローブの端っこを指でつまんで、引っ張ってきたからだ。
「..................離してくれ」
「いや」
「いやだよ.....行かないで.........碧くん...............」
2人とも、涙を浮かべ、俺が皆から離れようとしているのを嫌がっている。
.........俺には勿体ないくらいだ。
どうしようか戸惑いつつ、口を開こうとした時、
「碧!」
「この馬鹿野郎が!!」
「馬鹿碧め!!」
「ホントに.......ばっかじゃないの.........?」
いきなり男子と、一ノ瀬に罵倒された。
え?
なんでだ.........?全く心当たりがない。
「はっ?え.........?」
「お前は!俺らが!自分たちを守るために戦ってくれた奴に、人殺しって言って避けるような人間だと思ってんのか!!?」
「嘗めすぎだろ!お前にキレてるのはその思い込みしてるとことちゃっかりハーレム作り上げてるとこだけだ!畜生!!」
「..................私たちのこと、信じられない?」
地面に膝をつき、項垂れた俺は、
口を開き、
「俺、人を殺して.........」
「うん。......それで?」
橋津の返しに言葉が詰まる。
「えっと、.........殺す時.........何とも思わなくて..................」
「思わないといけないの?絶対?」
松下の言葉にも、どう答えたらいいのか分からなくて、
「柚右.........泣いてる?」
「あれ?」
気がついたら、涙が頬を伝って流れていた。
次第に、ボロボロと流れ始め、止まらなくなった。
「俺.......ここに居て.........いいのかな?人殺しなのに..................いいのかな?」
皆の心は、さっき川上と話し合ってた時から決まってたのか。
「「「「誰が何と言おうと、俺(私、ウチ)たちは碧(君、柚右)に離れろとか言ったりしない!!」」」」
「それは、柚右自身の言葉も含まれるから」
そっか。
俺は.........考えすぎてたのかな。
「あっ、でも、罪悪感を抱くなって訳じゃないからね?抱いてもいいけど、この世界は――――そうしていかないと、私たちも死んじゃうでしょ」
「橋津.........一ノ瀬..................」
「離れろって言っても、離さない」
「後で、全部終わったら。謝りに行こうね」
「お前、俺らに隠し事はなしにしろよ、いいな?」
「..................ああ、分かった」
「おっ、いいんだな?じゃあ隠すなよ?いつから2人も惚れさせたんじゃゴラァァァァ!!!」
「そうだそうだ!ずるだろ!俺ら一生童貞同盟結んでたじゃんか!」
「おい碧お前、卒業してない、よな?な?」
.........この感じが何かどうしようも無く楽しくて、
「ふふっ、くくく.....あははははははっ」
「おっ、おい!笑って誤魔化すなよ!隠さないって言っただろ!!」
ぷいっ。
それに関しては。
そっぽを向くことにした。
「あっ、てめ、碧!お前卒業しやがってんな!?いつだ!1発殴らせろぉぉぉぉ!!」
◇
「はぁ.........柚右、気にしすぎ」
「そうだね、もうちょっと、信用して欲しかったな」
仲良さそうに話す女子3人。
だが、一ノ瀬にとっては、
「(しゅ、修羅場だぁぁぁ!!)」
ただの修羅場だった。
「柚右、かっこいいから困る。ほら、もう引っ掛けられてるし」
「んん?それってウチのこと?何それ?自分のこと棚に上げてるの?っていうか橋津さんだって彼女って認められてないんだし、お互い様でしょ?」
ぷちっ。
一ノ瀬は、何かがちぎれる様な音が聞こえたという。
あ、これ、ヤバいやつだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
そのあと2人は、柚右が話し合いをする為に声をかけるまで、くすぐりあっていたのだという。
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