第14話 起死回生と孤独
目の前から黒装束が消えた。
目で追えない。
敏捷値で圧倒的な大差をつけられてる時点で勝ち目が薄すぎる。
どこから来る.........。
冷や汗が頬を伝う。
「がっ!!!」
正面から首を掴まれ、地面に押し倒された。
首を絞められ、息ができない.........。
「っ.........っ.........」
じたばたしても、極められてる以上どうしようもない。
頭に酸素が回らない。
.........最後に.........悪足掻きでも.........。
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???? 達人級(レベル換算36)
筋力:64
体力:50
耐性:44
敏捷:94
魔力:48
魔耐:42
スキル:????????【隠蔽】
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ステータスから読み取れることは......ないか.........?
『(看破)』
ステータスを見るんじゃなく、一箇所を注視して看破を.........。
そこで俺が見つけたのは.........
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???? 達人級(レベル換算36)
性別:女
筋力:64
体力:50
耐性:44
敏捷:94
魔力:48
魔耐:42
スキル:????????【隠蔽】
適正:解体・暗殺・使役・(手芸)
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.........見えたっ!
黒装束は女性だ.........
つまり、『魅惑の所作』が使える.........っっ!
起死回生の一手.........ッッ!!
『何か言い残すことはあるか?背神者』
「ガハッ.......ごほっ........ケホッ..........」
首を絞める手が緩まった。
今しかない。
『...けほけほっ......貴方の顔を見せては貰えませんか?お姉さん』
動揺。
バレたことに驚いてるのか?
『何を......さっさと言わないと殺すぞ』
『俺の遺言は、貴方の素顔と、素の声を俺に披露して欲しい、です』
こんなこと言いたくないけど、こいつは俺らを狙った暗殺者だ。
キザな野郎というかもうただのナンパ野郎??
「君の瞳に乾杯」とかいうタイプの男になってるって!!
なってるとしても、こいつを許しちゃおけない。
話術で俺と違う口調になってるからキモイけどな......。
遺言でこんなこと言う奴いねぇだろうけどさぁ.......
俺の手は黒装束のお尻をさすさす。
あ、これセクハラですか?ごめんなさい。
スキルの『所作』の為に必要かなと。
『.........うーん、スタイルも良くて、とてもいいお尻だな......』
揉みしだくとぶっ叩かれた。
ナイフの柄は痛てぇよ!!
『ほ、ほんとにそれだけならもういい、殺す』
お、少し照れたな?
「ぐっ.........」
再び首を絞められる。
が、もう俺の策の中だ。
マウントを取っている黒装束の体を強引に剥がし、立場を逆転させる。
これで、俺がマウントを取ってる構図になるな。
『馬鹿な.........何故急にこんな力が......』
『スキルの効果だよ』
『そんな効果のスキルは、知らない.........』
『お前が女性だったから、俺は勝てた』
『地元でも、組織でも!どこでだって女だからと侮られた私に、そんなことを言うのか!!愚図が!』
「お前の事情なんて知るか」
.........俺らを襲ったのはこいつだ。
情けをかける必要なんて、ない。
『.........??』
俺は冷静だった。
この時は、冷静"過ぎた"。
『まずそのローブを取ろうか』
『.........っ』
ローブには『認識阻害』とかでもついていたんだろうか?
フードみたいになってるやつを取っただけで、見えなかった顔が.........という訳ではなく、仮面もついてたので外した。
ローブの中には短刀やはり針、毒など様々な暗器が隠されていた。全部取り上げる。
仮面にはボイチェン機能がついてたんだろう。
このローブも、仮面も、便利だな。
『普通にかわいいんだけどさ....』
『また適当なことを言ったな!』
.........そんな事どーでもいいんだ。
俺はマウントを取ったまま、黒装束と目を合わせ、
『お前の名前は、目的は、味方はどこだ?人数は?全部吐け』
『言うわけなかろう』
まぁそうだよな。
で、
『ゴフッ』
死のうとする、と。
勝手に死んでいいわけないだろ?
『はい解毒』
『......何故生きている.....?あの毒は特別性だったはず..』
『特別性でも中級解毒魔法で解毒できるんだな』
と言うと、
『お前!今なんと言った!?解毒魔法だと!?』
『ああ、そう言ったな』
『この世界で中級の解毒魔法が使える存在なんて、「治癒の聖女」しかいないはず.....』
へえ。いいことを聞いたな。
まぁいい。ひとまずは情報収集だ。
『俺の求める情報を言いさえすれば、お前を解放してやるし、お前の上司がお前を切るなら、俺が使ってやる。俺は、お前を強くできるからな』
『そんな言葉を信じると思うか!』
ふぅ。だるい。
手っ取り早いのは.........
『ステータス・オープン』
ここで開くのは、この女のステータス・ボード。
声帯模写も、声を聞きさえすれば問題なく使える。
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サーレ・グレリテス 達人級(レベル換算36)
性別:女
筋力:64
体力:50
耐性:44
敏捷:94
魔力:48
魔耐:42
スキル:暗殺術・抜刀術・短刀適正・使役・縮地(派生:重縮地・天歩)・加速・隠密・隠蔽
B: 68 W: 54 H: 80
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『サーレっていう名前か。スキルも多いな......。派生スキルってのがあるのか?まだまだ知らないことだらけだな』
さっき見た時は「適正」ってのが見えたのにな.........あれ?
『.........お前、他人のステータスを、見れるのか』
『条件が揃ってたらな。他人のステータスをいじったりもできる。勿論、お前のも』
『なるほど......やはり危険だ.........』
『何で俺らを襲ったんだ?それが知りたいだけなんだ』
『.........お告げが下ったからだ』
『ほうほう。お告げ。で?』
『え、いや、それだけなのだが......』
『たかが駄神の戯言で?俺らの命が脅かされたと』
『駄神だと!?貴様!リテュエリーズ様を愚弄するのか!』
『ふーん、そんな名前なのか。女神?』
『っ、貴様はどこまで自分勝手な......ああそうだ女神様だ!』
『女神はなんて?』
『黒髪で黒瞳の少年少女が豚魔の森にいるが、いずれ世界に危機を及ぼす背神者だから殺せ、と仰せられた』
なるほど。
狂信者の言うことをこれ以上聞いても無駄だな。
じゃあもうこの世界の常識さえ聞ければいいか。
『あとは、この世界のことを聞きたい。それさえ聞けたら、俺はお前を解放するし、強くしてやることだってできる』
『....ふん。端から信用していない』
すると突然、
『ぐっ.........あああっ』
サーレの力が強くなった。
これはっ.........脳のリミッターが外れてるのか?
普通の状態なら間違いなく出せない出力の力だ。
『魅惑の所作』がないと絶対に耐えられてないな。
それでも、拮抗しているのは、所作に抗っているからなんだろうか。
『何が....目的っ.........だ!』
サーレは無言だ。
『っ......!まさかっっ』
サーレは操られてる。自害させられそうになっている。
俺の情報源なんだからまだ死なれると困るんだよっ.......!
中級解呪魔法をかけてみるけど.........少し力が弱くなった......?
気を失ってるみたいだけど、時間がないんだ。
叩き起す。
『.......っ、ぐ。な、何が.........』
『強制的に自害させる呪いがついてたみたいだな』
『そ、それを.....どうやって......』
『中級解呪魔法だけど。情報教えて欲しいだけなんだけどさ、早くしてくれ』
『中級解呪魔法......!あ、ああ。具体的に何が知りたいんだ?』
『ここはどこだ?』『大陸はどうなってる?』『冒険者ギルドとかはあるのか?』『レベルという概念は人間に存在しないのか?』『考古学は発展してるか?』『これまでに異世界から召喚された勇者とかって、いたか?』...........................
◇
とりあえず、聞きたいことを全て
なるほどな。
.........まぁ、聞けてはいないけどな。
『ああ、ありがとう。解放してやらないとな』
『......た、助かる』
かれこれ30分くらい説明を聞いていた気がする。もっと長いかな?
結構疲れたな.........。
だがそれより.........
『最後にステータスをいじってやる』
『い、いや.....いらない』
『これからは裏切り者扱いされるんだから自衛手段は大事だろ。そもそも、俺と戦う時に思ったこといっぱいあったぞ?』
『な、何がだ.........?』
『【隠蔽】は全部のスキルを隠すのは弱いだろうが。強いスキルを隠して、弱そうだったり、普通そうなスキルだけ出しとくんだよ』
『なるほど.......お前に賭けてもいい気がしてきたな』
えっ、チョロ.........。
『どうすればいい?』
『簡単だ。ちょっと待てよ? 『ステータス・オープン』 これでよし。弄るには許可が要るから、『許可する』と言ってくれたらいい』
『許可する』
これで、ステータスの
よし。こいつは.........
ザクッ。
用済みだ。
頸動脈を短刀で傷つけ、サーレは呆気なく死んだ。
一撃で死なせてやっただけマシだろう。
サーレは嘘しか吐かなかった。
どこまで嘘を重ねられるのか疑問なまでに、全てが矛盾の少ない嘘だった。
そもそも、俺たちにオークをけしかけといて、許す義理なんてない。
情に絆されるはずもない。
あそこまで組織に見放されて、尚俺を信用しないのはもう、どうしようもない奴だった。
だけど...........................
手が、.........震えが止まらない。
手の震えが、1秒ごとに早くなって、頭も真っ白になって.........
俺は今更ながら自覚した。
人を、殺した。って。
レベルが上がった音も、体に漲る万能感も、今は本当にどうでも良く、ただひたすらに、恐怖だった。
人を殺すのは悪いことか?
悪いからしない、というのもあるんだろうが、
俺にとって本質はそこじゃない。
人を殺すのが悪い事だと断定された社会で生まれ育ってきたからこそ、人を殺した自分を、自分が信じられず、許せないんだ。
怖いんだ。人を殺した自分が。なんとも思わずに、殺せた自分が、自分じゃないように思えて.........。
悩んでいてもしょうがないので、拠点に帰ることにした。
暗器は全て持ち帰って使うことにした。
.........皆が待っている。
待っているのだろうか?人を殺した俺を。
拠点に戻るのが、言葉に表せない程怖くなる。
嫌われたら、責められたら、.........したらどうしよう。
悪い想像だけずっと思いついて、足が動かない。
橋津と松下の顔を思い浮かべた。
彼女たちは、自分のことを好きだと言ってくれた。
ただし、それは今の自分もだろうか。
人殺しを好きになれるはずなんてないのに。
でも、拠点に戻って安否を報告しないと、勝手に探しに行きそうで危ない。
ローブと仮面を身に纏った。
それだけが、俺に出来る贖罪だと思ったのか、罪を自身に再認識させようとしているのか.........
俺には分からなかった。
ただ、気づけば身につけていた。
深く悩まず、便利だからって言えたら良かったんだろう。
ひとまず拠点に向けて歩き始める。
レベルが上がって強くなったはずなのに、とてつもなく足が重い。
俺の心は、既に誰も信用していなかった。
特に、自分自身を。
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自分で説明していたことに矛盾している事に気づいたので訂正しました。(2023/10/01)
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