第13話 襲撃と黒幕
◇
【田村 陸】
俺はサブカルが好きな17歳。ステータスは、
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田村 陸 17歳 男 レベル:1
筋力:8
体力:9
耐性:8
敏捷:7
魔力:10
魔耐:10
スキル:狂乱怒濤
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こんな感じらしい。せっかく異世界に来たのに、俺はスキルが使えないなんて、悔しすぎるぜ。いいなぁ、碧の奴は。俺のスキルも使えるんだよな。
オークが俺の方に2匹向かってくる。走って逃げるけど、俺は日本にいた頃から運動なんてほとんどしてない。体力もない。
……ああ、スキル使いたいな…。誰だよ使えなくした奴。絶対許さないからな。
森に逃げ込めば小柄な人間の方が有利だ、と思う。
「はぁ…はぁ.........はぁ…」
イノシシの時よりも死が近いからか、疲労の色も濃い。
残り5メートル。
走る。息ができない。
でも、走る。こんな所で死にたくない。
走る。残り2メートル。
あ、これ無理だ。と思った時、
「悪ぃ!遅くなった!!」
碧が来た。赤いオーラを纏ってるって事は、俺のスキルかな?
「はぁ.......はぁぁ……遅せぇよ、馬鹿野郎」
例え当てつけだとしても、今回だけは許してやるか。
目の前のオークが一瞬で消し炭になったのを見て、少し怖気付いた俺だった。
◇
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『狂乱怒濤』・・・紅いオーラを纏い、効果終了後に自身の魔力以外のステータスの上限値を半減させる代わりに、20分間全ステータス3倍。
伸び幅はスキルレベルに準拠する。
何とか間に合った。『狂乱怒濤』を使った反動で魔力以外の全ステが半減した。まずいけど、田村を助けたら後は松下だけ.........。
松下が見つからない。
彼女以外は全員見つけて、オークも倒した。バラけてくれてたおかげで、魔法の手数で押し切れたから。
ひとえに皆のお陰だ。
オークは残り2匹。その2匹が松下1人の元に向かっているのだと想定すると、悪い予感が頭をよぎる。
中級風属性魔法の
オーク7匹を殺し、レベルが上がった俺のステータスはこんな感じだ。
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碧 柚右 17歳 男 レベル:16
筋力:36
体力:40
耐性:42
敏捷:28
魔力:63
魔耐:48
スキル:言語理解(Lv.5)・話術(Lv.3)・初速支援
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どうなんだろう、高いのか低いのかも分からないけど、少なくとも松下よりは打たれ強い。
敏捷が低いのは、多分これまで運動をしてなかったから。
こんなことなら日々運動しとくべきだった.........。
というか、結構空から探しているけど……どこに.........。
「居た!!」
なんであんな所に。
◇
【松下 優菜】
ウチの所になんで2匹も来るのさ!雌だからかな?おかしいってばこれ絶対!
森に入れば撒けると思ったのが間違いだったみたい。
ウチ自身が道に迷っちゃった。
ウチがいる所は森の中でも周りが山に囲まれてて、谷みたいになってるから逃げ場もない。
それこそ、空を飛んだりしない限り、ね。
橋津さんはいいな。度胸があって。
ウチには気になる人を夜這いする度胸なんてない。
だから、言葉も通じない精霊さんたちに頼んで、2人の行為を覗いてた。最低、だよね。
頼れる人が定まってなかったこの世界で、碧君は皆を引っ張って生き残るために頑張ってくれる、凄い人だった。
学校にいた時はあまり目立ちたがらない性格だったからだと思うけど、ウチは気にしてすらいなかった。それなのに、この世界に来てから、碧君の顔が凄くカッコよく見えて、なんで学校にいた時アプローチしてなかったんだウチ、って自分で突っ込んじゃうくらい。
あれだけ目立ってなかった彼が、ここまでやってくれてるのは、何でなんだろう。目立つのは、彼にとって物凄く嫌だろうに。
オークが斧を振り上げる。
.........ウチ、どう死ぬんだ。漠然とそう思った。不思議と怖くなかった。
不良ぶってたりしてたけど、ウチは色恋沙汰に興味がなかったから、人を好きになれたのが嬉しい。
これだけで、ウチは生きててよかったって思え.........
思え..................るわけない。
生きたい!
碧君に「好き」って、言いたい!
絶対、橋津さんも言ったように、吊り橋効果だって言われるだろうけど、それがなんだ!
異世界に来て頼れる男の子に惚れる。悪くないじゃん?
走馬灯なんて見向きもせずに生きる道を探して....だけど、やっぱり現実は残酷で。
それでもやっぱり、最後には。
「碧、君........」
好きな人の名前を呼びたかった。
斧が振り下ろされる次の瞬間、目をつぶった時に。
ブワッ。
と強い風が吹いて、
「ごめん。遅くなった.....」
彼の声が、すぐ側で聞こえた。
空の上で。
◇
危なかった。あと4秒くらい遅れてたら、松下の命はなかった......。そう思うと、自身の背負う責任の重大さに怖くなった。
背負うと決めたのは、俺だ。最後まで、貫き通さないと。
松下を抱えながら、風圧塵乱で空を飛ぶ、というより跳ねて、オークから距離をとる。
8メートルくらい離れたら十分。上空から飛雷を撃って倒した。
オーク、全部倒せたな.........。脱力感がえぐい。これからは、もっとちゃんと策を練らないといけないと反省。
それはそうと、
「松下」
「ひゃっ、は、はいっ!」
松下さんの様子が、少し...変な気がする。
「どうかした?変なとこ触ってるとか!?ごめんね非常時だったから!気づかなかったかもしんねぇっ!」
「ち、違う、大丈夫.........」
違ったみたい........ふむ、じゃあなんなんだろ?
「ごめんな、遅れて.......全員の場所が把握できてなくて.....」
全部、言い訳だ。俺のせいで、松下は死ぬところだった。何と言われても俺は文句を言えない。
「え?いや、碧君は助けてくれたんだから、謝らないで!?」
「そっ、そう、か?」
空を飛ぶ魔法じゃなくて、下に風を叩きつける魔法だからどうしても集中していないといけなくて、話すのが難しい.........。
.........でも、松下はその.........胸が、.....大きいから、抱えている以上、少し当たってしまう。これが集中の妨げになるとか、俺どんなエロガキだよ........。
反応しない反応しない。
そう決意した直後、
「っっ!?」
押し付けられたんだけど!?いや、えぇぇ!?
「?どうしたの?」
わざとらしいニマニマ顔が苛つくぅ......。
反応したら負けだ!負け!
「.........ウチね」
「あ、ああ」
「碧君のこと、だーいすき」
ちょっ、密着して耳元で言わないで!って告白?え?えぇぇ???
「あっ」
「えっ」
風圧塵乱の魔力維持が切れた.........。
つまり.......自由落下..................。
「おおおおおおおぉぉぉぉ」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
えっとどうしようどうしよう!!1度中断したから風圧塵乱をもっかい使うには詠唱時間が足りない!
落下してる高さは20メートルないくらい。
無理だ、死ぬ!!
いや、あの手がある!!
「精霊さん!!」
「シルフィエット!!!」
松下のスキルを使わせてもらってるから、俺も精霊の加護を持ってる。
2人揃って呼んだ風の精霊は、俺たちの落下速度を弱めて.........安全に地面に着地する事が、できた。
いやあっぶな!
「ありがとな、シルフィエット」
「ありがとう、精霊さん」
精霊にお礼を言うと、
(シルフィって呼んで)
「松下?何か言った?」
「え?何も言ってないけど......」
(わたしよわたし!精霊のシルフィよ!)
(あぁ、精霊か。ありがとう、助かった)
(別にいいのよ!わたしは柚右の精霊だから!)
(そうか。これからもよろしくな)
(ところで.....柚右は精霊の言葉が使えるのね?)
(ああ、「言語理解」っていうスキルを持ってるからな)
(それにしてもよ!わたしが知ってる「言語理解」は精霊言語が話せたりなんてしないもの)
(そ、そうなのか......スキルレベルが上がったからかな......)
シルフィと話していると、松下がむっとした顔で、
「楽しそうだね」
と言ってきたから、
「ごめんごめん。お礼を言ってただけなんだけどさ」
「早く行こ!」
やれやれ。って、俺松下に告られたんだった!
気まずさを感じさせない松下すげえな........。
とはいえ、今はドキドキなんてしてられない。
そもそも、なんでオークが俺たちを集団で襲ってきたかだ。
魔王はなりを潜め、魔物も活性化してないと女神は言ってたのに.........。
ひとまず皆んなが心配だし、合流しないと。
松下を連れて、俺は拠点まで走って行った。
◇
拠点に着いた。皆無事だ。良かった.........。
息を落ち着けたり、怪我を洗い流したりしているみたいだ。
かく言う俺も、ここまで魔力を使ったのは初めてだし、『狂乱怒濤』の影響でステータスダウンしているから、体がだるい.........。
休みたい。
そう思った時だった。
殺気。
危機察知が警鐘を鳴らす。
森林の方か!
まだ敵は居たのか!!
だるい体に鞭を打ち、自分が出せる全速力で刺客の元へ駆ける。
が――
「うっ」
誰よりも近くにいた川上がやられた。致命傷では無さそうだけど、毒が仕込まれてるかもしれない。
そう思い川上に近づくと、
「がはっ」
肺から強制的に空気が吐き出された。殴られた!?
吹き飛ばされたりしなくて良かった.....。膝をつく。
目の前を見ると、1匹の....オーガ?
後ろには.........黒装束?強いのは間違いなさそうか.........。
これは困った。
『看破』してみると、
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【雄雄我】 オーガ レベル:20
筋力:84
体力:86
耐性:78
敏捷:12
魔力:0
魔耐:84
スキル:斧術、咆哮
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???? 達人級(レベル換算36)
筋力:64
体力:50
耐性:44
敏捷:94
魔力:48
魔耐:42
スキル:????????【隠蔽】
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「ははっ」
思わず笑いが漏れた。
勝てるわけない。
ネームドだって?
チートというよりか、中ボスを序盤に持ってこられた感じだ。
どうしろと?
逃げる?
川上が、皆がいるから無理だ。
戦う?
負けイベに参加したって勝てるわけない。これは現実だ。負けたら死。
.........じゃあ、どうすれば。
手が震えている。
体もか。
これで勝てたら、俺は主人公だって言い張れそうだな。
なんて冗談。誰も笑えない。
頭の中でごちゃごちゃ考えていると、
「碧!」
「柚右!」
「碧君!?」
目の前にでかい斧が振り下ろされてた。
まっずいな。
でも、俺の心は不思議と落ち着いていた。
負けイベって分かってて抗うのが人生だろう!?
全ステ負けてるけど、知能は低い。
大振りの攻撃くらいなら、全ステ半減してる俺でも避けられる。
「ガァ!?」
避けられたことにビビってんのか。当たらねえよバーカ。
中指を立ててみせると、
「ッッ!ガガァァァァ!!」
「伝わるのか」
知能低いのに分かるんだな。
戦略を練る。
俺ができるのはもう一つだけ。
(シルフィ)
(なーに?)
(他の精霊たちも、来てくれないか?)
(あ、ふしぎな子だ)
(オーガがいるよ〜?)
(あぶないねぇ)
(.........)
(皆の力を貸してくれ。頼む)
(いいに決まってるじゃない)
と、シルフィ。心強いな。
(いいよ〜)
軽いな。ありがとう、イル。
(オーガたおすの、てつだってあげる)
と、マキリ。優しい子だな。
(.........)
無口な子だな。どっちなんだろう.........。
不安を隠せずにいると、
(ファルナは喋らないけど、いいよって!)
(ファルナは、つよいんだよ!!)
(そうか。ありがとう、ファルナ)
(.........)
ぷいっ。
嫌われてしまった。
(もう!ファルナ?素直になりなさいよ!)
(敵......倒す)
おおっ。怖いな響きだけ聞くと。
でも、心強い。
「皆!奥の洞窟に向かって逃げろ!いいな!?ここに残るのは許さないからな!!」
日本語で言えば相手に悟られないし、この意味では便利かもしれん.....。圧倒的不便だけど。
「わ、分かった!」
「絶対生きて帰ってこいよ!!」
「柚右。頑張れ」
「碧君!!」
「俺は大丈夫だから」
皆俺の言葉を信じ、走り去ってくれた。
「後は川上だけか」
そこで精霊たちに聞く。オーガが襲いかかってくるのも時間の問題なので急ぎたいところだ。
(この中で治療ができる子はいるか?)
(う〜ん、私はできないけど.........イル、マキリ、あなたたちはできたっけ?)
(アキュールがいるよ!呼んでくる!)
(ありがとう)
とは言っても、悠長にしている暇は無いみたいだ。
「ガァァァァァァァ!!!!」
「ぐっ」
これが『咆哮』か。ただでさえデバフがかかってるっつーのにまたデバフか.........。
魔力以外全部6割5分引きされてるんだけど。
セールじゃないんだけど?
魔力も心もとない、ステータスは終わってる、、。取れる手段はひとつしかない。
精霊魔法だ。
シルフィの能力で記憶を読み取らせて貰ったが、なんと精霊魔法は人間の体を触媒のようにし、魔力は全て精霊が補うため、とてもコスパがいいらしい。
これなんか聞いたことあるね。
まぁ、一般の化学的な触媒と違って、「精神が安定している」事や、「精霊が心を委ねている」事などが必要条件なんだとか。
(アキュール......は来てくれたのか?)
(寝ぼけてるみたいだけど、やるべき事はわかったみたい。治療を始めてくれてるわ)
(そうか。あとでお礼を言わないとな)
(わたしたちにも、よ?)
当たり前だと言うのに。
(シルフィ、イル、マキリ、ファルナ。あいつらを倒すために、俺に心を委ねてくれるか?)
(当たり前よ!)
(い〜よ〜)
(はやくたおそ)
(.........)
ファルナは相変わらず無口だけど、拒否はしてないみたいだ。
(ありがとう)
「ガアァ!!」
堪えられなくなったように叫びながら突っ込んでくるオーガ。
「行くぞ。《精装天剣》」
俺の右手で光り輝くのは、風、光、闇、炎の精霊の混合精霊魔法で作られた1本の剣。
ユリ〇スみたいだな。最優の騎士なれるかもしれん。
勝手な親近感を抱きつつ、
「待たせた、悪ぃ」
その剣は、
「ガァァァ!!!」
振りかぶったオーガの腕ごと、切り飛ばした。
「ギギギギ.........ガァァァ!!」
斧を落としてしまったから、利き手じゃない方で殴りかかってきたが、何せこの剣、全ステ固定値で3倍盛ってくれるトンデモ性能なんだ。
つまり万全の状態で持ったら全ステ元の4倍ね。
「っ」
ただし.........精神への負荷がキツい。
偏頭痛の人をコーヒーカップで無理やり酔わせて、その人をさらに悪酔いさせてるみたいな、気持ち悪いをかき集めた気持ち悪さだ.........。
集中力がいるのと、4人の精霊の"存在"を感じ取り、畏敬しなければならないからなんだが。
「これでっ、.........終わりだっ!」
「グゥ......」
剣の圧に、怯んだ一瞬の隙。
ビシュッ。
オーガの首が空を舞った。
勝った。危なかっ.........っっ!?
(あなたの体が限界みたい...ごめんなさい.......戻るわ)
(あとはがんばって〜)
(頑張れ!!)
(.........)
ツゥ、と鼻血が垂れた。
脳への負荷はほんとにやばかったみたいだな。
手首で強引に拭う。
まだ、黒装束が残ってるってのに。
『お前は何者だ?』
ボイチェンのような低く作られた声。
『さぁ?なんだと思う?』
まともに答える奴っているわけねぇじゃん。
『そういうお前も、何なんだよいきなり襲いやがって。黒装束来て顔隠してる奴はカルト信者か暗殺者、又はその両方って相場が決まってんだ。誰の差し金なんだ?何が目的で?』
相手から動揺の色が見える。
テンプレとはやっぱり、すごいようだ。
『お前は生かしてはおけない』
『元から殺すつもりだった癖に』
売り言葉に買い言葉。
だけど、かく言う俺は満身創痍だ。最後の切り札の精霊も使ってしまったし。
『死ね』
――シュッ。
消えたっ.........。
俺は、暗殺者の動きに全くついていくことができなかった。
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