第12話 食料がないなら来てもらえばいいじゃない


 ――――――――――。

 これが、朝チュン、か。まさか異世界来るだけでこんな事になるとは思わんかった.........。

 隣を見ると.........うん。円香さんの笑顔。あなた、幸せそうですね。おい。


 ちょっと絞られすぎて元気がないが、そんなことは言ってられない。橋津をテントに置いて、今日の予定を話し合うための机や椅子の準備を始めることにした。なんてったって魔力量も増やせて一石二鳥だからね。

 『冒険家』だけじゃなくて、一ノ瀬の『魔法適正(中級)』もめちゃくちゃ便利なんだ。土属性の魔法があるから、それを使えばある程度の地形はならせるし、簡易的な椅子なら土台作るだけだしね。

 …………作りながら、昨日の事を思い出すと、……悶々としたところじゃねえ!スキルのところだ。

 パッシブスキルは、そのスキルが何かを把握出来ていれば、この世界の言語が使えなくても効果を発揮するのか。『看破』は便利で、他のスキルの情報を詳しく教えてくれたんだけど、


=======================


 『魅惑の所作』・・・行動の全てで主に異性を誘惑する。

      特殊: 自身のステータスを、一定の範囲にいる誘惑した相手の全ステータスを加算したものにする。



 

 ………………は?いや、どゆことよ、これ。文字通り受け止めたらチートなんだけど。例えば、筋力とか魔力とか、全ステが100の化け物が居たとする。そいつの近くにいる橋津は全ステ107とかになって上回るってことだろ!?ちゃんとぶっ壊れすぎだろ.........。

 他は.........そんなに気にするようなことも無さそうだな、今のところは。『看破』のレベルが低いのもあると思う。早くスキルレベルを上げないとだ。

 だか、今はそれどころじゃない。朝だ。なんで皆こんなに起きるの遅いんだ?


「起きろ!!!お前ら今日は忙しいんだから早くしろ!」


 怒鳴って起こすことにした。朝ごはん用意できてたら良かったんだけど材料が何も無いから、獲物が来るまで待つしかない。

「……お、おはよ」

「……っす」

「……っ」

 なんか皆ぎこちないというか、なんというか.........。え?なんでそんなに気まずい雰囲気なん?あと松下、なんでお前目を逸らして顔赤くしてんだ??


 ……もしかして昨日の、バレてる?

 えっと、、恥ずすぎるんだけど、。

 こんな気まずい雰囲気じゃ作戦会議出来ないんだけど.........と途方に暮れていると、その元凶が姿を現した。

「柚右」

「お、おう。なんだ?」

「ん。おはよ」

「あぁ……おはよう」



「……むむ」

「ギリギリギリ……」

 後ろで難しい顔をしてる女子、歯をギリギリしてる男子。状況はカオスだ。どうしたらいいんだ.........。

「とにかく!作戦会議を始めるから、黙って椅子に座ってくれ。食料が無いのはまずいだろ?」

「…………そうだな」

「ん」

 皆大人しくなってくれた。良かった……って、円香さんや、なんで俺の隣に座りたがるんですかね!?なんで俺の右腕に腕を絡めてくるんですかね!?

 ちょいちょいちょいちょい!全然始まらないんだけど。これラノベだったらだるくなって読者ブラウザバックしてるよ?

「とりあえず、話してくから、集中して聞いといてな。まず一つ。――――――。」



  ◇


 策は練った。荒削りなところも多いとは思うけど、何とかカバーしていきたい。

 そして――

「今だ!全員走れ!!」

「「うおおおおぉぉぉ!!!」」

「「「きゃあああぁぁ!!!」」」

 俺が皆に伝えたことの1つ目は、「俺が絶対助けてやるから、魔物が来たら拠点の中央まで引きつけろ」だ。

 結構な無茶振りをさせているとは思うんだけど、こうでもしないと皆のレベルも体力もそのままだし、困ることが多いからこうしてる。

 皆の後ろから爆速で一直線に突っ込んできてるのは、フィア・ボアル。ボアってついてるのはそういう意味もあるのかな?イノシシの魔物だ。知能が低くて、一直線に突っ込んでくる性質を利用して、右往左往しながら走ることで追いつかれずぶつかられないように誘導してもらっている。

 ちょうど良く、近くが生息域だった。本来イノシシが出やすいのって10月辺りなんだけど、ここは異世界だし魔物だからずっと居んのかな.........。


「はぁ……はぁ……」

「碧!!まだか!!」

 皆体力の限界が近いみたいだな。拠点には既に、俺が倒すための場所は作ってある。なるべく皆から近いところにした。

「よし!皆よく頑張った!ここまで来い!俺が倒すから!」

 このイノシシ、右往左往されて木の幹とかにぶつかったのがストレスだったのか、木がなくなって開けた場所に出た瞬間、スピードを一気に上げてきた。

 馬鹿だな、この速度だと急に止まれないだろ。

 土属性魔法で槍を作ってファランクスみたいにして、イノシシが突っ込んでくるのを待てばいい。楽だな。

 3秒ほどでイノシシはファランクスの壁にたどり着き、次々と壁に突き刺さっていく。

「はははっ!」

 思わず笑いまで出てしまった。これで猪肉ゲットだぜ!

 流石に同じ場所に2頭も刺さらないから、最初だけなんだけど、思ったより効果あって楽しいな、これ。

 中級魔法まで使える適性を(不正で)手に入れたとは言っても、魔力が無くなるのはこの世界において結構ヤバいことだし、何より使いこなせない。今はひとまず初級の魔法を効果的に使って、敵を倒すことを目標にしていくつもり。




  ◇


 .........どうしよう。イノシシの肉なんて食ったことないし、料理もまともに出来ないし.........。猪肉って臭みがヤバいって聞いたことがあるから、血抜きとかちゃんとしないといけないんだよな?酒があればな....柔らかくできるんだろうけど。

 冒険家グッズに食器はさすがに無かった。干し肉とか食ってるからなんだろうね。

 土属性魔法で食器作るか.........?いや時間かかりすぎるんだけど。

 って思ってたら、この世界でドロップしたフィア・ボアルの肉を見てみると、


=======================


 フィア・ボアルの肉(中級)・・・フィア・ボアルを即死させると出る肉。体内の魔力が旨みと一緒に外に流れ出ないので、とても美味しい。魔物なので寄生虫はつかない。


 


 …………なんて優しい世界なんだろうね。ありがたい。問題は皆が文句を言わないかなんだが.........。


「うめぇ、うめぇ!」

「美味しい.....なんでこんなに美味しく感じるんだろ.........」

「(もぐもぐ)」

 

 うん、言わなかったね。肉焼いて出しただけなのは申し訳ないな。海とかが近くにあれば塩作れるんだけどな.........。塩がないのはヤバいから、見つけておかないと。やるべき事が多すぎるんだけど、メモ用紙誰か持ってたりしないかな?


 俺も食うか、猪肉。

「あむ」

 思ったより固くないな。採れたてだからか?肉食えたのはでかいけど、野菜無いのは健康的にまずい。早めに街とかに着きたい所だな。

「あ〜、食った食った!ただの肉なのに、日本で食った飯より上手く感じたわ」

「それな、俺も思った」

「……スイーツ食べたい」

「言わないで…ウチもだから.........」


 ふむ。いつか食べさせてやりたいな。再現魔法があれば理論上可能だし。


 ワイワイ騒いで、作戦会議なんて名ばかりになっているけど、まぁ大体の目的は達成できそうだしな。

 毛皮は貴重だから、大事に取っておく。鞣すのだるいな、嫌だな.........。


「っっ!!!」

 『狩人の直感』の危機察知。

「お前ら全員動くな!静かに!」

 俺の様子を見て、ヤバさに気づいてくれたようで、みんな迅速に行動してくれた。

......なんだ?この気配は.........。

 すると、

「ブモゥ!ブヒ!!」

 と日本語で。

『ニク、クウ!!』

 と異世界語で聞こえてくる。オークか!!まずい、本当にまずい。

 今の状況で戦力なんて俺しかいないのに、俺だって魔法もまともに使えてないし、体力が無いのは自明の理だ!!

 木の茂みからオークが5……6、7……。8体、か。無理ゲーかな?

 イノシシの匂いに釣られたのか!?全く考えてなかった。俺のミスだ。

 自分を責めていると、皆が一斉にオークのいる方向に飛び出していった。

 

 ……は?え、あいつら何を.........。

「お前ら何をするつもりだ!?行っちゃダメだ!」

 すると。あいつらは。

「碧!お前ならやれんだろ!引き付けてやっから、頼んだぜ!」

「碧君、お願いね!」

 と言い残して、行ってしまった。


 .........あいつら。無条件にこっちを信頼してくれやがって。オークは人数が多い方へ向かっていこうとしたので、俺の所には1体だけしか残らなかった。

「1体なら雑魚だな」

 バチバチ、と俺の手元が唸る。やめろ、これ黒歴史にしたくない!と思っている俺をどうにか封印し、左手を右手で抑えて叫ぶ。

飛雷ドナ・ウォラー!!』

 電流が左手から指向性を持って飛んでいき、オークの心臓を正確に貫いた。

 即死だ。よし。勝てる。

 俺はみんなの元へと急いだ。



 敵がオークだけじゃない、なんて考えもしなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る