第11話 涙する少女たち(三人称視点)
◇
柚右一行が寝床につき、寝始めた頃。奇遇にも同時刻、柚右のいる国、シグルム王国の2つの場所で助けを求める少女たちがいた。
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◇
「誰だっけ……思い出せない……うぅ…………」
シグルム王城の客室にて、日本語で呟く少女の名は、三島菜々。
彼女たちは王城に召喚され、勇者として出迎えられた。
『我がシグルム王国へようこそ!勇者様方!!』
だがしかし、致命的なことに、この国の母国語のシグルム語が分からなかったのである。
「えっ、誰あのおじさん」
「えっ、ドッキリ!?」
「ここどこ.........」
「おい!ここどこだよ!」
『.........セバス』
『……はい、陛下』
『何と言っておるか……分かるか?』
『……申し訳ございません。この大陸にある全12ヶ国語が全て扱える私でも、理解できない言語にございます』
それを聞いた召喚魔術師、家臣、国賓や王家の者は半狂乱になり、謁見の間は騒然となった。
初めての召喚であり、失敗や代償は計り知れないものだったのだ。
息子を、娘を!夫を、妻を、孫を返せ!
大勢の憤怒怨嗟の声は、言語の壁を隔てながらも、菜々たちに伝わった。
「ひっ」
「もう…なんなの.........」
「こっち来ないで!」
恐怖である。年上の、それもとっくに成人している見知らぬ大勢から、わけも分からぬ怒りを、知らない言語で捲し立てられているのだから。
『………………ひとまず、客室にて保護しておくのだ』
『御意』
シグルム国王、ブリュッセル・カージナル・シグルムは、言語の扱えぬ勇者たちを言外に軟禁することを命じた。
説明無しに客室に連れていかれ、客室に着くまでに悶着あったことは、察せるだろう。
客室に着いてからも、菜々たちは状況が把握出来ていなかった。否、ライトノベル、漫画等で知識のある者たちが、こぞって言った事はただ1つ。
「言語が通じないはずがない」
だ。当然、ライトノベルでは主人公たち勇者が無双する、等のシナリオであるため、どう考えたって言語が理解できないと話が進まない。
図らずも、彼らは、これが現実であるということを、再認識させられることになったのであった。
それはそうと、菜々は自身の客室の窓際で
そう、何か――――自身の生活の過半を占めていた存在。
思い出せない。思い出そうとする程に、その記憶の手がかりは薄れ、遠のいている気がするばかりであった。
両親との唐突の別れ。寂しさで涙した。涙が出て、それでも考えていたのは、両親よりも大事に思っていたのに、何故か頭に浮かんでこない、忘れてしまった存在のことだった。
◇
柚右と別れた1組一行。逃げ込んだのは召喚された森林の最奥。魔物はおらず、しんとしている。まるで、嵐の前触れかのように。
ここに、生きることに疑問を抱いた少女が、独り。
「やめろって!離せ!」
「いやっ!いやっ!」
クラスメイトの男子から見せしめに襲われ、
「おい待て!お前ら!逃がすなよ!」
何とか逃げた先で、彼女は思ってしまった。
「はぁ……はぁ…はぁ……」
「……何であたし、未だに生きてたいと思ってるんだろ」
死んだ方がマシだと、そう思わされたのに。
このわけも分からない世界に連れてこられ、生きる理由なんて見いだせないのに。
不良ぶった生き方をしてきたことを、少しばかり親に謝りたくなった。
「あぁ」
涙が溢れてくる。自分は、同じクラスの猿みたいな男子に犯される為に生まれてきたのか。
どんな高貴な存在が、それが許されるような世界に自分たちを飛ばしたのか。恨み言も溢れて止まらない。
そんな傷心で――。
そんな傷を負っている時に――。
男子たちに、見つかった。
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「ウチ」→「あたし」に変更しました。(2023/10/11)
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