第11話 涙する少女たち(三人称視点)

    

  ◇


 

 柚右一行が寝床につき、寝始めた頃。奇遇にも同時刻、柚右のいる国、シグルム王国の2つの場所で助けを求める少女たちがいた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

   ◇

 


「誰だっけ……思い出せない……うぅ…………」

 シグルム王城の客室にて、日本語で呟く少女の名は、三島菜々。1である。クラスは4組で、人数は27人。この世界へ来たのは柚右達だけではなかったのだ。

 彼女たちは王城に召喚され、勇者として出迎えられた。


 

『我がシグルム王国へようこそ!勇者様方!!』


 だがしかし、致命的なことに、この国の母国語のシグルム語が分からなかったのである。


「えっ、誰あのおじさん」

「えっ、ドッキリ!?」

「ここどこ.........」

「おい!ここどこだよ!」


『.........セバス』

『……はい、陛下』

『何と言っておるか……分かるか?』

『……申し訳ございません。この大陸にある全12ヶ国語が全て扱える私でも、理解できない言語にございます』

 それを聞いた召喚魔術師、家臣、国賓や王家の者は半狂乱になり、謁見の間は騒然となった。

 初めての召喚であり、失敗や代償は計り知れないものだったのだ。

 息子を、娘を!夫を、妻を、孫を返せ!

 大勢の憤怒怨嗟の声は、言語の壁を隔てながらも、菜々たちに伝わった。

「ひっ」

「もう…なんなの.........」

「こっち来ないで!」

 恐怖である。年上の、それもとっくに成人している見知らぬ大勢から、わけも分からぬ怒りを、知らない言語で捲し立てられているのだから。


『………………ひとまず、客室にて保護しておくのだ』

『御意』

 シグルム国王、ブリュッセル・カージナル・シグルムは、言語の扱えぬ勇者たちを言外に軟禁することを命じた。


 説明無しに客室に連れていかれ、客室に着くまでに悶着あったことは、察せるだろう。


 客室に着いてからも、菜々たちは状況が把握出来ていなかった。否、ライトノベル、漫画等で知識のある者たちが、こぞって言った事はただ1つ。

「言語が通じないはずがない」

 だ。当然、ライトノベルでは主人公たち勇者が無双する、等のシナリオであるため、どう考えたって言語が理解できないと話が進まない。


 図らずも、彼らは、これが現実であるということを、再認識させられることになったのであった。

 


 それはそうと、菜々は自身の客室の窓際でような違和感を覚え、物思いに耽っていた。


 そう、何か――――自身の生活の過半を占めていた存在。

 思い出せない。思い出そうとする程に、その記憶の手がかりは薄れ、遠のいている気がするばかりであった。


 両親との唐突の別れ。寂しさで涙した。涙が出て、それでも考えていたのは、両親よりも大事に思っていたのに、何故か頭に浮かんでこない、忘れてしまった存在のことだった。





    ◇


 柚右と別れた1組一行。逃げ込んだのは召喚された森林の最奥。魔物はおらず、しんとしている。まるで、嵐の前触れかのように。



 ここに、生きることに疑問を抱いた少女が、独り。

 

「やめろって!離せ!」

「いやっ!いやっ!」

 クラスメイトの男子から見せしめに襲われ、


「おい待て!お前ら!逃がすなよ!」


 何とか逃げた先で、彼女は思ってしまった。

「はぁ……はぁ…はぁ……」


「……何であたし、未だに生きてたいと思ってるんだろ」

 死んだ方がマシだと、そう思わされたのに。

 このわけも分からない世界に連れてこられ、生きる理由なんて見いだせないのに。


 不良ぶった生き方をしてきたことを、少しばかり親に謝りたくなった。


「あぁ」

 涙が溢れてくる。自分は、同じクラスの猿みたいな男子に犯される為に生まれてきたのか。

 どんな高貴な存在が、それが許されるような世界に自分たちを飛ばしたのか。恨み言も溢れて止まらない。


 そんな傷心で――。

 そんな傷を負っている時に――。


 男子たちに、見つかった。

 

 

 

 



***********************


「ウチ」→「あたし」に変更しました。(2023/10/11)



 


 





 


 


 


 

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