第6話 状況整理・スキル開示
「端的に言うと、お前達は『言語理解』っていうこの世界の言語が使えるようになるために必須なスキルを持っていない」
再びざわつく。ああもう、一々だるいな、静かに聞いてくれて構わないんだけどなぁ。
「なんでそんな事が分かるんだよ」
「何でお前は持ってるみたいな言い方なんだ!!?」
持ってるからだよ。うるさい奴らは適当にあしらって空気になっててもらいたい…。
「持ってるからな。『言語理解』」
「「「!?」」」
「そこで、だ。提案があるんだけどさ」
「提案って何?」
「ステータス・ボードは個人情報なんだよ。そいつがどんなスキルを持ってて、どんな行動を取るか、健康状態までひと目で分かるだけど、ここから察せるかな?」
「?どういうこと?」「結局何が言いたいんだ??」「時間を無駄にするな!」
なんて察しの悪い…まぁこんなもんか.........。
「俺がステータスを開く手伝いをしてあげようと思ってさ」
「は??なんでお前の手を借りないといけないんだよ」
「うっざ。調子乗んな」
…………へぇ。ガチで分かってねぇんだ。
「そもそも、もしステータス・プレートが開けたとしても読めないんだけど、分からなかったのか…?」
「「「「!!」」」」
「だからステータスを俺が見てもいい、って人は俺が開く。その時ステータスが読めるのはこの中で俺だけだから、必然的に俺が読んで伝えることになる。多分スキルとかもあるだろうから、自分の強さ、弱さがバレたくない奴はいるだろ?それが嫌な奴はやめとけばいい」
…………あ、ちょっといい?俺の声1/fゆらぎになってない??『話術』どうなってんの〜〜〜!?やばすぎでしょ。
「俺は別にいい!お願いできる!?」
「お、俺も!!」
「わ、私はちょっと…」
「うちも…」
「何の話してるか全っ然分かんないんだけど!」
「…………これ、スタイルも載ってるのかな…」
「「「「!?!? 」」」」
と、クラスの奴らはそれぞれの意見を言い始めた。まぁ、当然だけど、
「あいつイキってね?」
「何なんあいつ」
「自分が知ってるからって」
陰口を叩く奴もいるよなぁ。勝手にしてくれていいんだけどさ。
◇
結局、ラノベ仲間の7人と、それ以外には3人しか頼んでこなかった。クラスの中でも特にクールで可愛いと有名な橋津円香と、サブカルチャーが好きだったらしい陽キャグループの村田、などだ。残りの女子は様子を伺ってるらしくて近くでこっちをチラチラ見てる。石井はもう壊れてしまったようで誰からも見向きもされていない……。ごめんな、俺も全ては守りきれないから。俺は全てを守る最強系主人公にはなれないから。
「だから、俺は村田じゃなくて田村だって!!」
「あ、そうだっけ?ごめん」
「.....あぁもう…それで……どうすればスキルが使えるようになるんだ…?」
面白いことに、俺らから離れていった奴らも聞き耳をたてているみたいだ。あいつらにプライドとか人間性とかってないんかな?
「順序立てて説明するけど、1回しか言わんからちゃんと聞いとけよ、いいか?橋津」
クラスの中でもトップクラスの美少女であるはずの橋津だが 、何故俺の陣営に入ってきのかマジで分からない。スパイではないだろうし、何より例えスパイでも俺にしかできないことがばれるだけだ。
「うん、大丈夫」
「それならいい。……まず1つ目。俺は、――――」
ここで重要なのは、
1. この国の人間が俺らを呼んだのか
2. 1が正しいなら、その人間は教会、つまり宗教と関わっているのか
3. 女神の話は2の件があるから地雷となる可能性がある
の3つ。だから女神の事は話せないし、宗教から遠ざかるために教会の人間と距離を置かないといけないことから、自ずと話す内容は決まった。『話術』結構すごいスキルだ……。
ま、それは置いておいて、だ。
「じゃあ手っ取り早くステータス・プレートを見る方法を検証していこうか」
「「「検証??」」」
「や、俺も異世界なんて来たの初めてなんだからほとんどわからん所だらけよ?」
「そ、そりゃそっか」
「なんかごめん、変に慣れてるからか勘違いしてた」
慣れてる、か.........。こういうのも全部、スキルの恩恵なんかねぇ…。.........汎用性高いなぁ。それにしては使用言語が固定される、みたいなルールもあるようだから、一概に楽な世界だとは言えないんだけどさ。
「とりあえず、皆もう1回ステータス・ボードを開こうとしてみて。う〜ん、最初は「ステータス・ボード」、次は「ステータス」、それもだめそうなら…そのとき考えよう」
「「分かった」」「分かった。」「了解!」
「「「ステータス・ボード」」」
……何も起きない。だめっぽいな。
「「「ステータス」」」
.........これもだめか…。
「出来ない.........」「どうすればいいん…」「…」
悩んでても仕方がないな。
「じゃあ皆は、俺が今から言う言葉がなんて聞こえるか、言って。英語のディクテーションみたいに聞こえたのをそのまま言えばいいから」
「英語ずっと赤点の碧君に言われたくないけどね」
「はははっ!それは言えてる!!」
「でもお前、「言語理解」手に入れたんだろ?英語出来るってことなん?ずるくね??」
「「ホントじゃん!!」」
「…………バレたか.........ふっふっふ。これで俺は英語の長文と古文漢文の訳に困ることはなくなるんだ!!スキル万歳!!」
「ず、ずりぃ.........」「うぅ、戦闘系のスキルを持ってたら威張れるのに…」
「まぁ、持ってても俺がいないと使えないんだけどな……」
みんな悔しい顔をする。ちょっとからかい過ぎたか。
「まぁまぁ。いざ戦う時はお前達のスキルがないとどうにもならないんだ。とりあえず、最終手段に移ろう」
「「「最終手段??」」」
こっちの陣営じゃない奴らも耳を澄ましているようで、少し遠くにいても動きですぐに分かった。単純だなぁ。
これからやることは俺にすっげぇ負担がかかる事になるだろうから、面倒なんだけど…ステータスのシステム?の裏をつくことが出来る策なんてこれだけしか思いつかないし、やるしかないよな。
ひとまず、夜を越すために、俺たちは水場を探すことにした。話はそれからだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
◇
場所は移って、川の近く。さっきまでいた所は近くに木しかなかったので、飲み水で体も拭いたり洗ったりできる水場を探したんだ。これが大変だった…。森を歩く経験なんてまともに無いし、ましてや俺以外に9人いる訳で。時間がかかるのなんの。この世界に来たのが朝の10時くらいだったとすると、多分今は16時とかだ。多分、なのは、この世界の時間の進み方とか数え方が全く分かってないから。持ってきた時計が役に立ってるかどうかも分からない。自信を持って信用していいとは言い難い。
「ここらで休憩にしようか」
「……休憩…万歳.........」
「きつ…すぎ.........」
「はぁ…はぁ.....はぁ…....」
結構皆の疲労度的にも限界は近かっただろうし、水場が見つかってよかった。体育の授業で使う予定だったタオルを川の下流で濡らして、首にかける。
「ぁぁ涼しいぃぃ」
「あっ、ずるいぞ碧!俺もやりたい!」
「俺のギャッ○ビー昨日無くなったんだった!ちくしょう!」
いやぁ、極楽極楽。なんなら、メンズビオレも俺の鞄には入ってるし、無敵だな。これからだけど.........さて、どーすっかねぇ.........。
「ん」
「橋津。「ん」ってなんなんだその手は。」
「ん」
「タオル?欲しいって?」
「ん」
「いや、だから「ん」だけじゃ分からんて.........。つーか、このタオル俺が汗拭いた後だし、いるなら汗ふきシートあげよっか?」
「あれ、臭い。タオルがいい」
「いや、だから、タオルだって俺が汗拭いてんだから変わんないだろ」
「もうっ」
「あっ」
俺の首からタオルをスルッと抜いて、自身の首にかけた橋津。涼しいから…だよな?凄く嬉しそうなのが見て取れる…。
「そんなに涼しい?」
「それだけじゃない。でも、柚右は多分分からない」
.........俺が分かんないこと?なんだそりゃ…。
閑話休題。とりあえず今後の予定について考えて話し合っていかないといけないわけだ。
「みんな着替えて準備終わったか?話するぞ」
「おけ!」
「わかった!」
「すぐ行く!!」
……残りのクラスメイトはどうしてるんだろう.........。心配じゃない、なんてことはない。あいつらに、罪はないんだからな、まだ。やらかしかねない奴らもいるから一概には言えないけど…。
そうぼんやり考えながら、俺はみんなが集まるのを待った。
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