第5話 異世界で目の当たりにした"死"の危険
視界が戻ると、再びクラスメイト達のいる森に帰ってきた。未だにクラスメイトは騒いでいるみたいだ...。うん、魔物か何かに見つかったらどうするんだろう?
……まぁ、問題点はたくさんあるんだけど、1番はやっぱり、召喚された場所だと思う。城の中とか街に転移させられるのとは違って、森の中に召喚されたわけだし。勝手が分からなければこれからの行動をどうすれば良いのかも分からない。
――ガサッ。
ぐりん、と、自分でも驚くような音を立てて振り返った。木と草むらの中に、何がいる。冷や汗が流れる。クラスメイトも、息を合わせたかのように動きを止めた。
――ガサガサガサッ!!
「ーーひゃっ」「.........っ!」「ひぃっ!」
小さな声が出る奴もいた。
…………。
息を…呑む。――ゴクリ、と誰からともなく喉の音が聞こえた。クラスの奴出す音がやけに大きく感じる。
チュー。
茂みから出てきたのは、…ネズミに似た小動物だった。
ほっ。 と安堵する。クラスメイトも脱力したようだった。俺、生でネズミ見たの初めてかもしれん。意外と可愛いもんなんだな…。と、クラスの男子の中でも動物好きで通っている…石田だっけ?石川だったか?が、ちょこちょことネズミに近づく。
「うわぁ、ネズミだ。可愛いなぁぁ」
そう言いながら足元のネズミに手を伸ばした。緊張感の欠けらも無いな…。
「っっっっっ!!!」
――嫌な予感がした。冷や汗がダラダラと流れ、時間が早く感じる。そうだ、
――シュッ。
ネズミと、石森の右手首が消えた。
「.........は?」
触手か!?いや、何だ!?考えろ!森にいる動物、魔物.........!
「……ぁ.........ぁあ.........ああああああああぁぁぁ!!!僕の手がぁぁぁ!!!」
「石井!早くこっちに来い!!」
陽キャが石井(らしい)を呼ぶが、石井はパニック状態で逃げようとしない。
――ガサッ
茂みから姿を現したのはーーー
「スラ、イム…?」
思考が追いつかない。スライムが森にいるかも、という可能性自体はラノベ展開的にも全然間違ってないし、既にここが異世界である以上想定もしていたことだ。だけど――
スライム、想像してたのより強すぎやしないか。
そこなんだ。いくら俺達が戦闘経験がなくてLv(Lvの概念がある世界なら、の話だけども)が1だとしても、スライムにあんな動きなんて出来るのか?人間の手首を一発で切り飛ばし持っていく、なんてことが。
ラノベの読みすぎだからか、注意を怠っていた。スライムが雑魚なんて、それは俺TUEEEE系主人公だからこその評価であって、今の俺たちはスキルのないただの一般人なんだ.........っ。
「とっ、とりあえず走ろう!こっちだ!」
陽キャの指示は正しい。クラスメイトを連れ逃げる。情報も戦力も足りない以上仕方ない。というか、何で統率が取れているのかが疑問だ.........俺もこんな状況なのに妙に落ち着いてるし…。とりあえず、スライム踏んずけとこう。核さえ何とか出来たらスライムは敵じゃない.........と思うし。
プチュッ。
俺が右足で踏んだことで、石井の右手首を切り落としたスライムは呆気なく死んだ.........はずだ。.........少し体が軽くなった気がする。レベルの概念があるのかも。
100…200メートルくらい走っただろうか。
「はぁ…はぁ……はぁ……」「疲れた.........」「なんなんだあのバケモノは…」
クラスの奴の限界が近く、ひとまず隠れることにした。かくいう俺もインドア派だし結構辛いな…。日頃から運動しとくべきだったな.........。
石井は、力の強い奴に運ばれてここまで来たようで、自身の失った手首を見つめながらブツブツ言ってた。壊れたっぽい…しゃあないっちゃしゃあないんだけど。
「ぁあのさ!」
オタク仲間の皆だ。異世界だとオタク(俺この言い方好きじゃないんだけど、、ラノベ好きって呼ぶか)、ラノベ好きは戦力だ。俺もそうだけど、コミュ障が多いだけで。
「どうした?」
陽キャの反応、クラスメイトの視線に怖気付く出口。ただでさえこんな状況なんだから殺気立っていたり焦っているのは仕方ないと思うべきなんだろうなぁ…。
「い、いや…ここ、多分異世界、だから.........ステータス、っていうのが…あって、それで、さっきのを…倒すんだと思うんだ、けど.........」
うんうん。少しずつ自信がなくなって声小さくなるよな。分かる。
「そっか、あざす」「どうやってやるんだ?」「分かんなーい」
軽い感じで返す。イラつく…。というか皆石井の件を見たあとなのに何で焦燥感とかが無いんだろう…パッシブスキルとかなのかな?
「どうやるん?」
「「ステータス」とか「ステータス・オープン」って言えば出てくるのが定石だけど…」
俺もやってみるか。
「ステータス・オープン」「ステータス・オープン」『ステータス・オープン』
お、できたみたいだ。俺の目の前に青く光るステータスボードが出てきた。
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碧 柚右 17歳 男 レベル:5
筋力:14
体力:20
耐性:18
敏捷:16
魔力:30
魔耐:30
スキル:言語理解(Lv.5)・話術(Lv.3)・初速支援
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レベルがもう5になってる.........。スライムの分の経験値かな?『初速支援』強いな⋯。
ふと、周りを見渡すと、
「は?出てこなくね?」
「出てきた?」「全然」
「間違ってるんのかな?」「出口〜どうすんの〜?」
――はぁ???
俺以外開いてない?嘘じゃないよな??それってつまり――――
――俺しかスキルが使えない、ってことじゃないか。
出口は予想外の展開に口をパクパクさせている。
.........緊急事態なのは分かってるのに、口角が上がるのを止められない。これは、どういう笑みなんだろう。
ーーすぅ、と息を吸う。とりあえず現状から考えるに俺がなんとかするしかなさそう、だよな。
「全員、聞いて欲しいことがある」
びっくりした。自分のコミュ力に。いや、高い方にだよ?これが『話術』の力なのかなぁ。
「どうした?」
委員長や陽キャを筆頭にこっちに視線を向けた。
「今から言わないといけないことがある。これからの行動にも関わってくることだと思う。分からないことだらけだけど、覚悟して聞いてな」
「なんだ碧?」
「なんなんだろ」
「イキってね?」
うるさいな。少し黙ってて欲しい。
――しー。
口に人差し指を当てこう言うと、皆一斉に黙った。なんか別のスキルも貰ってない?カリスマ性上がりすぎでは…
「残念ながら、お前達全員、ステータスボードは開けないし、スキルは恐らく使えない」
ざわつくクラスメイト。当然だろうが、皆結構こういうのに理解あるんだな。漫画とかで見たのかな?
「何を根拠に言っとるん?」
「何でお前は使えるみたいな言い方なん?」
「使えないとか嘘だろ!?」
根拠か…言うしかないよな.........。
「俺たちはこの世界から見て異世界人だ。異世界の言語がここでは多分主流なはず。ここまでは分かるよな?」
うなづいたり、声を上げたり、多種多様な反応を返すクラスメイト。
「端的に言うと、お前達は『言語理解』っていうこの世界の言語が使えるようになるために必須なスキルを持っていない」
クラスメイトを取り巻く空気が、凍りついた。
ただ――――その中で1人の口元が、三日月の如く裂けたのを俺は気づかなかった。
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