5月19日 11:00 グラウンド

 15分のハーフタイムに入った。



「よくよく考えたら」


 滝原のところに挨拶に行こうかと思ったところで、後田が口を開く。


「3年だけのチームの戦い方は最初の年でオープンになっているけれど、2年が2年だけで戦うのは今回が完全に初めてだった」

「そういえば確かに……」


 サイドの稲城、颯田に好き勝手させても瑞江と戸狩をどうにか塞いでしまおうというのが2年前の選手権で相手がやってきた方法だった。


 それは2年も情報として持っている。


 一方で2年が2年だけで戦うのは、後田の言う通り今が初めてだ。


 陽人も後田も見落としていたが、事前情報という点で、2年がかなり有利な状況だった。


 末松と聖恵という、長い間試合映像を見ながら過ごしていた人間がいるだけに尚更だ。



 ただし、2年の弱点は選手層が薄いということだ。


 ベンチにいるのはGKの真榊と、守備中盤の田中、栗畑、FW要員の大井である。それぞれが大分成長してきてはいるし、明確に足を引っ張る存在ではないが、現在試合に出ているメンバーと比べるとやはり一枚落ちる。


 とはいえ、起用せずに済むということはないだろう。


 戎と聖恵、おそらくは末松も体力的にやや弱いから90分は無理だ。


 終盤はかなり落ちるはずで、替えずに引っ張った場合でも瑞江と戸狩が入る3年に一気呵成に攻められる展開が予想される。


(終盤は3年が一気に攻めて、2年は守り切りを図る展開になるだろうな……)


 2年の終盤のスタミナ面はもちろん気になっていたので、3年がリードしているようなら草山を2年側に入れるなどの措置も採ろうかと考えていた。


 この展開ならそれは不要そうだ。



 滝原や大溝夫妻のいるところに向かった。


「いやぁ、予想外だねぇ。2年がこんなに凄いとは」

「鹿海の起用はしっかり繋いで前からアプローチをかけてのものですから、中盤を支配されると厳しいですね」


 そして、陸平の言う通り、3人を起用しただけでこの優劣が簡単に覆るとも思えない。


 とはいえ、陸平がいるならキーパスを止めてそこからカウンターの布石を打てる。それがどれだけハマるかだろうか。



 2年のところに向かうと、聖恵と末松がボードを地面に置いて説明している。


「後半はスタミナ面が課題になるから、最初の15分はポイントを5メートルほど下げよう。そのうえでチャンスがあったら浅川を走らせる」

「分かった」


 なるほど、と頷ける部分だ。


 スタミナが不安な戎、聖恵、末松がいる反面、どれだけ走っても平気な浅川と、見た目に反してタフな加藤という2名がいる。馬力と推進力のある浅川を走らせて、他はスタミナ温存というやり方は賢明である。


「あとは瑞江さんと戸狩さんへのルートをしっかり塞ぎ続けよう」



 2年の方は大体分かったので、3年ベンチの方に近づいた。


 思わぬ展開に全体的に暗いが、後半に向けて話し合いをしている。


 まず、GKを鹿海から須貝に変えるようだ。エース3人は当然後半開始と同時に交代で入る。立神は右サイドバックとして出ていた武根に、瑞江は櫛木との交代のようだ。


 彼らが話をしているのは、陸平をどこに入れるかということのようだ。


 本来なら中盤の位置になるのだが、中盤の数的劣勢を1人で覆すのは難しい。


「中盤の人数があれだけ劣勢だと、多少リスクを覚悟する必要がある。バックラインから必要な位置をケアするよ」


 と、CBの位置に入るつもりのようだ。


 1年の時の深戸学院戦がそうだったが、中盤で支配されている時に少し下がり目からスタートすることでより広い範囲がカバーできる。林崎は中盤もできるので問題ないと思ったが、代わるのはその林崎のようだ。


(中盤の強度は護でキープしつつ、展開の広さと中盤の数的不利を怜喜でカバーするというわけか)


 そのうえで、瑞江と立神の個人の力で打開をし、15分以降はそこに戸狩も加えようというものだ。



 お互いの方針は理解できた。


 もちろん、中立の立場であるのでどちらにも「相手はこう来るだろう」ということは話をしない。


 ただ、3年サイドの選手起用は間が悪いものだったかもしれない、とは思った。


(前半はイーブンな展開が予想されたうえに、3人を起用しないとなると攻め込まれる可能性があった。その前半に優貴を使って、終盤は攻め込むだろう後半に康太を出すのは特徴とは逆になってしまったな)


 前半の失点自体はGKの責任とは言えないし、「須貝なら止められた」というものでもない。


 ただ、前半、厳しい時に須貝がいればもう少し下げることができたかもしれないが、鹿海だとそれは難しい。そうした心理状態が3失点に繋がった可能性もある。


(改めて難しいキーパーだよなぁ、優貴は……)


 第三者的に見ている試合では、そういう思いがより強くなる。


 ともあれ、両チームの後半に向けての準備は整った。


 あとは後半を見守るだけである。



後半開始布陣図:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093091636789344

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