5月19日 10:45 グラウンド

 翌日、陽人が部室に入ると、既に3年も2年もそれぞれ集まって戦術などについて話をしていた。学年ごとのチームで対戦するというのは初めてであるので、いつもの練習とは比較にならないほど真剣な様子だ。


 9時30分の段階で両チームともグラウンドに出てアップを始めて準備をする。


 そうしているうちに昨日、この紅白戦を提案した滝原が二日連続でやってきた。


 しばらくすると、大溝夫妻もやってくる。滝原から聞いたらしい。


 1年達は隣のピッチで別の練習をしているが、気になるのだろう。チラチラと視線を向けてくる。


 中々賑やかな日曜日になりそうだ。



 主審は結菜と我妻がピッチサイドの半分ずつを併せ持ち、副審は卯月と高梨が受け持つことになった。


 まずピッチに立った3年の布陣を見て、陽人は目を見張る。


 瑞江、立神、陸平は全員ベンチだ。


「何、3年は後半勝負で行くの?」


 陽人の問いかけに陸平が頷いた。


「真治も含めて後半一気に、って感じかな。2年がどのくらいやるのか見てみたいのもあるし」

「なるほどね」

「俺のところを駆がどのくらい出来るかというのも注目だ」


 立神の言う通り、右サイドバックに武根が入っている。


 南羽が抜けたため、右サイドバックの控えは不在となった。メインのポジションではないが、2年組では神田や神津、浅川も出来るし、1年の矢島や李もプレー自体はできる。ただ、代表で目まぐるしく抜けたり変わったりする可能性があるので、武根がどの程度までできるかは興味深いところだ。



 https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093091566917481



 一方の2年は3バックで臨むことにしたようだ。


 目新しいというわけではない。新人戦でも敷いていた布陣である。


「まあ、水田は身長以上に高さもあるし、サイドをある程度与えても大丈夫という思いがあるんだろうな」


 立神がそう分析すれば、瑞江は前の方を見た。


「前は左に司城、右に浅川か。中央に加藤が入っているけれど、どう動くのかな」



 結菜が笛を吹き、紅白戦が始まった。


「おおっ?」


 ベンチの3年が全員声をあげた。


 2年は加藤がCFの位置にいる。


 ただし、彼がその役割を果たすと思った者は1人もいない。Bチームでも万丈がCFを任されていて、その周囲を動くような形で良さを発揮しているからだ。


 加藤が下がったりサイドに動いたりして、そのスペースを別の者が生かす。


 そういう方針だろうと誰もが予想していた。


 しかし、実際のやり方はその想像を超えていた。最前線を含めた中央のスペースは前も真ん中も加藤、弦本、戎、末松、聖恵の5人が入れ代わり立ち代わりとなっている。ボールの保持・非保持関係なく、入り乱れて中央のスペースに入ってくるようにも見えるが、といってバランスが悪いわけではない。


 開始5分の時点で、陸平が嘆声をあげた。


「これは凄いね。3バックと右の浅川と左の司城という外のフレームだけ構築して、その中は全員自由ということか」


 戎に聖恵、末松と周囲と状況を常に察知できる選手が揃っていることも大きいのだろうが、中央の位置にいる5人は完全に無秩序、自由奔放に動いている。


 いたるところから現れてプレスをかけ、ボールを回している。


 しかもウィングにいる2人も時々中に入ってくるので、中央では常に数的優位な状況を作れている。


 8分に早くも加藤のミドルシュートを鹿海が弾いてしまい、そこに浅川が詰めて先制すると、17分にもショートパスの連続から左サイドの司城に出すと完全にフリーになっていた。


 そのまま切り込まれてシュートまで持っていき、早くも2年チームが2点リードとなる。


「あ~、駆が思わず中に入ってしまっていたね。司城も時々中に入るけれど、周囲とのバランスで中に入っている。今の駆は元々センターであることと中央の劣勢であまり考えずに中央に行ってしまったね」



 0-2となり、3年チームはサイドの稲城と園口、篠倉を起点としようとするが。


「サイドはOK、中へのルートは切るというやり方だね」


 かつての深戸学院や北日本短大付属のように、2年チームは中を徹底的に抑える方針で、サイドを深く行かせること自体はそのままやらせている。


 むしろ、サイドで押し込む分、水田がしっかりとゴールエリアに下がってきてよりチャンスがなくなる印象だ。


(3人がいないのはもちろん、右ウイングだった五樹も抜けたからな)


 サイドの質だけを見れば、昨年より下と言ってもいいかもしれない。



「こうなると、純に持ってもらうか、何発か繋いで隆義が抜け出るかだけど」


 中央は明らかに劣勢でそこまで至らない。


 そうこうするうちに35分には加藤のドリブルから、戎が繋いで、いつの間にか前に出て来ていた神津がエリアの中からシュートを決めて0-3となった。


「これはシャレにならなくなってきた」


 瑞江が真顔になり、立神も厳しい顔になる。


「中央を完全に支配されている状況はきついなぁ。この部分は、僕達が入ったからといって改善できるわけでもなさそうだ」


 陸平はそう言いながら、後田と小声で話を始めた。最初の交代策ではダメだということで、何らかの修正を求めているのだろう。



 結局、前半はそのまま0-3で終わった。

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