5月18日 16:40 グラウンド
5月第三週は、総体県予選が開催されるが、高踏高校はシードされているため試合日程がない。
リーグ戦はここまでの5試合をAチームBチーム共全勝で来ている。しかも全試合、ほぼ圧勝している。
昨年、Bチームのスタートはバタバタしていることを考えると相当な違いだ。選手層が厚くなったということもあるし、新1年のレベル高いこともあるのだろう。
「今年の1年は、今の2年以上に高踏が風変わりなことをするということを理解して来ていますから、そういう点で戦術的な成長も早いですね」
この日、取材に訪れている三尾日報の滝原に話す。
高度な練習になると「何なんだ、これは?」と弱音を吐くこともあるが、それでもこなしているうちにどうにかなってきているところがある。
「それがBチームの強さに繋がっていると?」
「もちろん、Bチームを引っ張る2年の成長も大きいです。特に加藤、聖恵、末松の3人は見違えるようになりました」
「加藤君は県2部で得点王。5試合で15ゴールということは毎試合ハットトリックをしている計算だ。最近3試合が特に凄いけれど、何があったんだろう?」
昨年は同じ県2部をメインに戦っていて、14試合で4点だ。
1年の成長というにも大きすぎる変化である。
「去年1年で意識が少しずつ変わってきたこともありますが、一番はシュートレンジが伸びたことですね」
元々ゴールエリア付近まで行かないとシュートを撃たなかった。より正確に言うなら撃てなかった。
しかし、足の筋力が向上してきたことでエリアの外からでも枠に入れられるくらいの力がついてきた。そうなると密集地帯を無理矢理ドリブルで切り崩す必要がなくなり、1人かわしてサッと撃つ選択肢もある。
シュートをより楽に撃てるとなればゴールを意識して顔もあげる。それにより周囲のこともしっかり見えるようになる。
元々、やろうと思えば効果的なパスを出すこともできる選手だ。視野を確保できれば更にプレーの幅が広がり、そこから結果を残すことでどんどん自信もついてきている。
「あとは聖恵と末松のサポートも大きいですね。2人がうまいこと万丈と加藤のためのスペースを作ってくれています」
「この2人については、去年1年チームを外から見ていたことが大きいのかな」
「そうだと思いますね。去年は2人ともそれぞれの理由でプレーはできませんでしたが、できないなりにしっかり成長しようとしていたから、今、いいプレーが出来ているのだと思います」
「そうなると、Aチームに入れようという風にはならないのかな?」
「……入れるチャンスを考えてはいますが」
この3人を含めて、2年の二番手クラスと1年は成功体験を増やして自信をつけている印象がある。
だから、このまましばらく伸ばしたいという気持ちもあるし。
「Aチームに入れて活躍すると、彼まで代表に持っていかれることにもなりかねませんので」
「なるほど……」
滝原も苦笑した。
U20がエース3人を連れていき、U17が更に連れていく。現状は5人だがプレーの幅が広がりつつあり、馬力のある浅川はU17の戦い方に向いている選手だから連れていかれる可能性もある。
「つまり、加藤君は選手権予選の切り札になりうる存在として考えていると」
「現状はそうですね。残りうるメンバーを考えると、もちろん真治が一番の柱ですが、当然対戦相手も警戒してくるでしょう。加藤と草山、戎がどれだけ頑張ってくれるかが10月以降の鍵になりそうです」
滝原がメモをとりつつ、グラウンドを見た。
「ちょっとさ、ミーハーなことを聞いてもいいかい?」
「何でしょう?」
「エース3人衆は別格かもしれないけれど、彼らに多少ハンデをつけるような形で現在の高踏3年と2年が試合をしたら、どっちが勝つかな?」
「……それは何とも言えませんね」
陽人にとっては考えたこともないことであったようだ。
少し考えて、陽人はニヤッと笑う。
「実際にやってみますか」
練習が小休止になると、陽人は全員を集めた。
「滝原さんが面白いことを聞いてきた」
陽人の言葉に、メンバーが一様に渋い顔になった。陽人にとって「面白いこと」は選手にとっては「良からぬこと」であることがほとんどだからだ。
「3年と2年で紅白戦をしたら、どっちが勝つだろうかと。達樹、翔馬、怜喜がいれば3年だろうけれど、仮に3人が45分だったらどうなるか、と」
3年はムッとした表情になった。「2年の方が強いかもしれない」と思われて面白いはずがない。
2年はオッという顔をした。「あの3人が常時いないなら勝てるかも」と期待をもったようだ。
「ということで、明日紅白戦をやってみようと思う。45分ハーフで交替は無制限だが負傷など例外的な場合以外退いた選手の再登場はなし。俺も雄大も結菜も我妻さんもどちらにも加担しない。メンバーとか布陣とか交替策はみんなで決めてくれ。で、3人は前後半どちらかのみ。全員一緒でも別々でも構わない」
「陽人、ちょっと待った」
陸平が待ったをかける。
「2年は聖恵に末松とコーチ役がいるのに、こっちは不在なのは不公平じゃないか?」
陽人は苦笑した。確かにその通りだが、と頷きつつも。
「……それを2年側が言うならいいけど、3年側が言う?」
「僕達3人が前後半片方のみというのがハンデだと言ったわけで、それなら他は同等であるべきだよね? ということで、雄大はこっちに入れてほしいんだけど」
「分かったよ。明日の10時から始めるから、早めに来て作戦会議なり練習なりはしてくれて構わない」
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