5月13日 17:30 東海PL第5節
『引き続きまして、深戸学院高校対高踏高校の後半戦をお送りしたいと思います。このハーフタイムで高踏高校は選手を替えてきています。中盤の8番稲城に替えて21番の草山が入りました』
『彼は一年ながらパス一本で局面を打開する力がありますからね。長いシュートを見せられているところにスルーパスのある草山が出てくるのは厄介ですよ』
一方の深戸学院は後半スタートもメンバー交代はない。
チーム方針も前半と同じようだ。
『深戸学院はセットプレーを取りたいところですね』
セットプレーであれば、高踏の戦術的な部分は影響しない。純粋に1対1の局面となるので可能性が増えてくる。
しかし、そこまで行けない。
中盤までどんどん上がってくる久村と陸平のカバー範囲の広さに、キーとなるパスが完全に止められている。
前線の形と個の力による影響もあるだろう。
突破力のあった下田が卒業し、近い能力をもつ左ウィングの松原がこの試合はフォーメーションの問題で中央に近い位置にいる。サイドに開いて受ける形なら、立神とのマッチアップに持ち込めるが、中央に近いためボールを受ける段階で囲まれてしまう。
大型FWの竹内もキープができないので、動き回る鈴木がもしいい位置でボールを受けることができれば、というくらいしか可能性が見えない。
一方で守備に関しては危機的状況という感はない。
高踏が遠目のシュートを意識していて、そこまで攻め込めても攻め込まないところもあるが、7失点を喫した昨年の総体県予選決勝に比較するとかなり改善されている。
『ロングスローなどを併用する手はないでしょうか?』
佐久間が質問する。
セットプレーが取れないのなら、前の方で取ったスローインをセットプレーに類似したものにすれば良い。そういう考え方もありうるが。
『どうでしょうか……私は先程、セットプレーが取れればいいということを申し上げましたが、ひょっとするとこの試合ではそうしたこともやってこないかもしれませんね』
『と言いますと?』
『やはり重要なのは総体県予選と選手権予選です。隠し持っているプレーをこのリーグ戦で使うことはないかもしれません』
『なるほど。仮にこの試合を落としても、リーグ戦ですので次があります。特別にデザインされたプレーがあったとしても、この試合ではなく、絶対に落とせないトーナメントでの試合で使いたいということですね』
『そうです』
『藤沖さんもそうしたプレーを用意されているのでしょうか?』
佐久間の問い掛けに、藤沖は苦笑した。
『それはまあ……ご想像にお任せします』
『高踏高校がいつもとやや違うプレーをしているのもリーグ戦だからということなのでしょうね』
『そうですね。昨年、県1部では珊内実業と鳴峰館に一度ずつ負けていることも含めて、リーグ戦では試験的なことも試していると見るべきですし、この試合についてもそうしたところはありますね』
後半15分、高踏はいつもの通り鈴原を外して戸狩を投入した。
同じタイミングで深戸学院も選手交代を行う。中盤で走りまわっていた清水と外山に替えて、坂山と宮城を入れた。
戸狩が入ったことで、高踏は従来のプレーに戻していき、前へと行く機会が増えた。
しかし、先制点はこの試合取り組んでいた中距離砲から生まれる。
『浅川がパスを受けて、シュート! 宍原取れない……ところに瑞江! 後半23分、高踏高校がミドルシュートから先制点を奪いました!』
『浅川君のシュートがちょっとイレギュラーしたみたいですね……。あとは戸狩君の投入で深い位置への意識がより向いていて詰めも遅かったですね。その分、浅川君が落ち着いてシュートを打てましたよ』
後半終了間際には通常のプレーから2点目が入る。
草山のスルーパスを受けた戸狩がサイドでかわしてクロス、瑞江が詰めてこの試合2点目を取った。
『瑞江はこれで5試合6ゴール。ドルフィンズU18の田中順輝に続いて得点ランキング2位です。昨年はU17も含めてパスの出し手にもなっていた印象がありましたが、今年はストライカーとして戻ってきましたね』
『瑞江君は必要に応じてどちらにもなれますからね。相手からすると本当に厄介ですよ。今後と総体予選を考えると加藤君がどう使われるかも気になるところですね』
『高踏Bチームにいる加藤賢也ですね。同じ日の県2部の岡崎城南高校との試合で6ゴールをあげ、この3試合で13ゴールの大爆発、リーグ戦通算15ゴールというとんでもない数字を残しています。昨年の颯田五樹選手のような急成長を遂げるとなると藤沖さんにとっても大変なことになりそうです』
『本当ですよ、全く』
藤沖は大きな溜息をつくだけだった。
試合はこのまま2-0で終了した。
『概ね実力通りの結果と言えそうですね。高踏高校にテストモードな部分もあっただけに深戸学院サイドとしてはできればドロー以上の結果が欲しかったでしょうが、総体県予選のこともありますし、仕方ないところでしょう』
目の前の試合に必死になり過ぎて、本当に勝ちたい試合のための武器まで使うわけにはいかない。
やむを得ないところだろう。
そういう諦観めいた様子で藤沖は試合を振り返っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます