4月21日 13:55 上野駅近くレストラン
成田空港から特急で上野までの所要時間は40分ちょっと。
12時台のうちに終点の上野についた。ここから東京まで行って、新幹線というのが成田から高踏へ戻るルートだ。
「東京駅で食べるんですか?」
ついてくる1年達は上野から東京まで戻って新幹線という発想になったようだが、陽人は上野で改札口を出た。
改札口の外にやや小柄な青年が立っている。
司城と神田を含め1年組は全員「誰?」という顔をしている。
「やぁ、天宮君、久しぶり」
「お久しぶりです。甲崎先輩」
「甲崎先輩?」
神田が反応した。
「と言いますと、天宮先輩はじめとする3人衆の才能の前に上級生全員を引退して自らも引いたという、あの甲崎先輩ですか?」
進み出て尋ねる神田の頭を軽くはたく。
「おまえな、先輩にそういう失礼な言い方をするな」
「ハハハ、面白い後輩が増えたね。あ、そうそう、アジアチャンピオンになったんだっけ。おめでとう。ついでに選手権の優勝もおめでとう。メッセージでは送ったと思うけど」
そう言って、駅前の商店街をざっと見渡す。
「このあたりは飲み屋が多いんだけど、さすがに高校生を連れて飲み屋はないから、近くのレストランにしようか」
そう言って先頭で進みだす甲崎が随分重そうに鞄を持っていることに気づく。陽人は「持ちましょうか?」と尋ねたが、「いや、いいよ」と拒絶された。
近くのファミリーレストランについて、席に着いた。
「さて、改めて自己紹介となるのかな。大稲田大学法学部2年の甲崎恭太。2年前は高踏サッカー部のキャプテンだったんだけれど」
そう言って肩をすくめる。
「3年時にいきなり強豪樫谷の監督がやってくるとなって、入学してきたのも巧そうなのばかりだ。これは威厳も出番もあったものではないとさっさと引退して、今に至るわけだ」
「大稲田ではサッカーはやっていないんですか?」
司城の問い掛けに、とんでもないと首を横に振る。
「君ら……まあ、君達は僕が入学した時にはいなかったから、彼の世代か。いきなり『高踏サッカー部』の敷居をあげまくってしまったからね。テレビで練習の様子を見たけれど一日もついて行けないだろう。とは言いつつ」
鞄の中から取り出したものは資料の束だった。
「肩書自体は残っているので、今回、サッカー部から資料を渡してきてくれと言われて渡された」
そう言って、店内を見渡す。
「ここの支払いも、サッカー部……正確にはア式蹴球部? が出してくれるらしい。だから、僕の懐は気にせず、何を食べてもいいよ」
「なるほど、その費用の代わりにこれを、ということですか」
陽人は資料の方に目を向けた。
上に「瑞江君」と書いてあるから、部員全員にあてたものなのかと思ったが、そうでもないようだ。
「基本的にはU17のメンバー入りしていた人だね。あと、チームとして篠倉君も来てほしいんだとさ」
「純はどこからも人気なんですよね……」
レギュラーというわけでもないのだが、ブロチームを含めてかなりのチームからオファーがある。
大型で懐が深いプレイヤーで、機敏さや俊敏性にはやや疑問符がつくが、ニンジャシステムで問題なく回れるくらいにはどのポジションでもやれる。
高踏ではどうしても瑞江はじめとしたエースクラスの引き立て役という印象だが、それも彼の場合は高評価になっているようだ。大型でマルチロールのうえにチームブレイヤー、そう思われているらしい。
結菜に言わせると、「篠倉さんにはちょっと申し訳ない言い方になるけど、チームの根幹戦術を担ってくれそうだけど、海外移籍しそうとか代表の主軸になるといった、ずば抜けた感じはないから、長期プランにはまると思われているのかも」とのことだ。
「個々人に対して作ったみたいだよ。プロに行くかもしれないような選手だから、条件的には微妙かもしれないけれど、とりあえず誠意は見せないと、というところなんだろうね」
「……分かりました。本人達に渡しておきます」
「確か今日は、部の担当者が高踏に行っているはずだけど、仮にこっちに来ることがあれば、僕も出向くことになるんだろうね」
「でしょうね。今年の世代は全員、甲崎さんのことが分かるわけですから」
陽人の言葉に神田が応じる。
「それならマネージャーとか主務でしたっけ、学生スタッフでも良かったんじゃないですか?」
大学の部活ともなると、主務やマネージメント業務、広報業務に関わる者もいる。
そうした中には入ることができたかもしれないし、仮にその立場にいればより誘いの説得力も上がったのではないか。
甲崎はまた肩をすくめた。
「今年が新一年だったらそんな手もあったかもね。去年の段階では、主力五人くらいはともかく、全員がここまでビッグになるとは思わなかったし」
「あぁー、確かに去年春の段階ではワールドカップ優勝も選手権優勝もなかったですからね」
「ただ、多少美味しい思いはさせてもらっているよ。来年から日本政経新聞にも行く予定ではあるし」
「あぁ、石綿さんの」
昨年以降、メディア側の高踏番という印象もある日本政経新聞の石綿であるが、元々は高踏OBであるというだけで取材に来るようになった縁だ。
高踏OBでありサッカー部主将である甲崎が、石綿などを通じてメディアの世界に行くということも普通にあるのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます