4月6日 12:15 食堂
2年チームのキャプテンに聖恵、副キャプテンを浅川という形で決定した後、全員を呼び寄せる。
「去年もそうだったけれど、入学式後に入ってくる1年生部員もいると思うので、戦術練習は15日くらいから始める予定だ。それまでは基本的なトレーニングと、あとは密集地帯を想定した練習を行う」
「密集地帯?」
「そう。実際の試合映像を見れば分かると思うけれど、対戦相手はゴール前に人を集めてくる。だから、狭いスペースでのプレーをきちんとやらないといけない」
狭いスペースでは当然のことながら、より正確なプレーを求められミスも多くなる。
ミス自体は仕方がない。問題は狭いからと言って慌てることだ。
慌ててミスをするのと、意図はあるがミスをするのとでは大きな違いがある。
「練習の中で狭い地域でのプレーを無数に経験することで、どんなシチュエーションでも慌てないようにするということが重要だ。当面は狭い局面を想定した練習を多めにやっていきたいと思う」
「ということは、3チーム編成でゴール3つを中央に集めたやつ?」
陸平の言葉に陽人は「それに幾つか変化を加えたものをやってみる」と頷いた。
「変化?」
「ボールを複数使うけれど、サッカーボールだけでなく、ハンドボールとバスケットボールも混ぜてみようと思う」
陽人の言葉に一年を中心に「えぇぇ?」という悲鳴のような声があがった。
悲鳴が落ち着いたところで午後の説明をする。
「で、午後はフィジカルトレーニングになるけれど、新しいコーチが来ることになっている」
「新しいコーチ?」
「大溝さんが連れてくるんだけどブレイキンの選手だ。あのクルクル回るダンス」
陽人の言葉に結菜が苦笑する。
「その紹介はブレイキンに失礼じゃない?」
「……いや、他にどう説明すればいいのかちょっと分からなくて。大溝さんの紹介文によると、アスリートのように鍛え上げ、アーティストのように考え抜く、ということらしい。単純なフィジカルトレーニングだけでは飽きるので、こういうのも取り入れていいんじゃないかと思う」
「ダンスは体幹も柔軟性もかなり鍛えられそうですしね。バランス良く鍛えるので成長途中の子がバランスを乱すこともなさそうで、良いと思います」
稲城が既に成人したコーチのような雰囲気で頷いている。
その横では陸平が逆立ちして、「これで更に回るんだっけ?」と周囲に聞いている。
「多分そんな感じだ。もちろん、できる人もできない人もいるだろうけれど、少しずつ良くなっていけばいい。試合はすぐにあるけれども、結果を出さなければいけないのは今というわけではないから。夏くらいまでに形を作っていければいい」
「一年目は試合も何もなかったから、10月まで形を作っていたからね。今にして思えば信じられない」
陸平の言葉に、3年が頷く。
陽人も同じで、「そのくらいじっくりできればなぁ」という思いもある。
とはいえ、あの時と異なり、今の1年は中学までに実績のある選手も多い。「試合なしで半年じっくり練習ね」と言えば、納得しない者も多いだろう。
2年間で環境が激変してしまったものである。
午前の練習が終わった後、昼食に入った
陽人は聖恵と浅川と今後のスケジュールについて話をしようと思ったが、聖恵は末松と草山とともに1年の
白籏はジュニアユースチームでは園口の後輩にあたる。
その園口が言うには、小学五年と六年時点では破格の強さを誇って、三桁単位でゴールをあげていたらしい。
「期待外れだった俺と違って、真のエースだと期待されて入ってきたわけだが、ケガばっかりでほとんどプレーできなかったんだな、これが」
中学三年の間に膝の3回を含めて、10か所ほど負傷したらしい。今もリハビリ中だ。
実力はあるのかもしれないが、これではさすがに強豪校は獲得に二の足を踏む。
そこで、聖恵なり末松なりといったすぐにはプレーできない選手もきちんと出られるまでに至った高踏に進学してきたらしい。
結果発表の後、すぐにやってきたから、復帰したいという思いは強いようだ。
そういう事情を知っているので、同じ立場にある聖恵や末松が話をしているのだろう。
(やっぱり聖恵で良かった感はあるな……)
それ以外の一年ですぐに試合に出て来そうなのは四人。
そして、中盤で新しいアクセントをつけられそうな草山紫月である。
去年から練習に参加しており、「草山がいれば」と思うようなシーンもあった。極度にシャイではあるが、一年の中では「自分が一番知っている」という自信もあるようで、積極的に引っ張っている。
(代表などでいない選手も多いだろうけれど、逆に全員集合したら登録メンバーを決めるのが大変かもしれない)
これから能力を発揮してくる一年もいるだろう。
楽しみでもあり、頭を悩ませる日々が続きそうだ。
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