2月16日 9:42 国立競技場
2月16日。
陽人の姿は、東京・国立競技場にあった。
この日、Jリーグスーパーカップの前座として、高校選抜対みなとみらいU18の試合が開催される。その観戦に訪れていたのである。
本来なら陽人もこの試合に参加するはずだった。
選手権の後、高踏からは高校選抜に7人選ばれた他、陽人もチーム指揮を任される予定だったからである。
ただ、試験などの日程が多忙という理由を主張して、現2年生についてはどうにか辞退という形にしてもらった。高踏からは司城と神田が入り、その他地元からは深戸学院の宍原と谷端が高踏のメンバーに代わって入ることになった。
このため、県の新人戦決勝は一週間延期となり、23日に開催される。
前日から東京入りしていた陽人は、この朝、関係者に頼んで控室に待機させてもらっていた。
そこにメンバー達が現れる。
「おっ、天宮じゃん」
七瀬が気づいて声をかけてきた。神田と司城も「おはようございます」と寄ってくる。
「調整はどんな感じ?」
軽く尋ねると、七瀬はじめ全員がげんなりとなる。
「調整も何もないよ。トレーニングマッチ連発でさぁ。一昨日も大学生と試合だぜ。勝ったけど」
「それは凄いな」
とは言うものの、ネットニュースで結果も得点者も発表されている。
一昨日とその前日、二日続けてのトレーニングマッチを2-0、2-1で勝利していたようだ。
「おぉ、天宮君じゃないか」
指揮官の夏木もやってきた。
陽人は挨拶がてら頭を下げる。
「すみません、合流を断ってしまって」
「いやいや、君達は色々忙しいし、仕方ないよ。真田先輩は元気?」
「相変わらずです」
「天宮君が辞退した以上、本来は真田監督が来るべきはずだったんだけどねぇ」
夏木が冗談めかして言い、司城が「それやったらボロ負けですから」と言ってメンバー達も笑う。
挨拶が終わった後、陽人はボックス席に向かう。夏木が連絡して、一緒に見ようという話になったからだ。
席に行くと、2人のスーツ姿の人物もいる。1人は協会会長の古賀で、もう1人は理事の戸磯だ。
「高踏高校には毎度毎度お世話になっていて、申し訳ないと思っています」
挨拶をすると、古賀がそう言って頭を下げた。
恐らく、昨年のU17、今年のU17に加えて立神がU20に行っていることだろう。
「……いえ、大変ですけれど、やりがいもあることですし……」
そう答えて、席に着いた。
しばらく雑談していると、選手の練習が始まった。
戸磯が説明を始める。
「今回の高校選抜は高踏勢がいない分、戦力ダウンしているけれど、一方のみなとみらいU18もダウンしているんだよ」
「そうなんですか?」
「ディエゴ・モラレスと原野については聞いていると思うけれど、来年に関してはユースよりも高校のレベルが高くなりそうだ。選手達もそういうところには敏感だからね。3人が高校に転籍してチームを離れている」
「なるほど……。少し前に韓国のチームも挨拶に来ていましたけれど」
「東韓高校だね。あれはどうかと思うんだが、強く来られると僕らの一存でダメだとは言えないからね」
戸磯は古賀に「何とかしてくださいよ」と言っているが、古賀は「向こうの政府が入ってくるとねぇ」と弱気だ。
一方、峰木は「やらせておけばいいんじゃないですか」とあまり気にしていない。
「優秀な子供を集めたとしても1年ですぐ結果が出るなんてことはないでしょう。下手すると東京予選すら勝ち抜けないかもしれませんよ」
そんなに甘いものではない。
優勝した去年まで、県予選を中々勝ち抜けなかった峰木の言葉だけに、全員説得力を感じたようだ。
「……その県予選なんだけど、来月の高体連との会合で一つの議題が取り上げられる予定だ」
古賀が話題を変えるように切り出した。
陽人は自分達とは関係ない話題だろうと思い、特に何も答えないまま練習の様子を眺めている。
古賀が咳払いをした。こちらの話を聞け、ということのようだ。
「……何でしょうか?」
「今回の高校選抜には深戸学院から辞退者の代替二名が選ばれている。深戸学院は元々全国ベスト8くらいまで出て来てもおかしくないところだし、鳴峰館や樫谷も実力を伸ばしてきている」
「そうですね」
「一方で高踏高校には、今年もかなりの負担をかけることになるだろう。U17には4月と11月を呼ぶことになる。また、昨日のU20の北朝鮮戦でも立神君の貢献が高かった。本戦には瑞江君と陸平君も呼ぶことになるかもしれない」
無言で頷いた。
そこは確かに頭が痛いところである。特に新一年が入ってきて融合を図る段階で二年が何人か抜かれるだろうということは、どうしようと考えているところだ。
「高体連にも、高踏の負担を軽減したいという気持ちはあるようで、前年度優勝校について特別枠で参加させるか、あるいは優勝校がいるところはプラス一校増やしてはどうか、という案が出ている」
「えっ?」
陽人は絶句した。
前年度優勝校の枠ということは、すなわち自分達のことだ。
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