2月9日 14:44 TSリセット港競技場
第二試合の前半が終了した。
20分に神田が直接フリーキックを決めて2-2となったが、29分に相良がヒールでスルーパスを通す。これを受けた藤井が決めて樫谷が再度勝ち越した。
それでも終了間際にセットプレーから浅川が決めて、3-3。
同点のままハーフタイムを迎える。
チェックしている河野達のところに、第一試合を勝利した深戸学院の佐藤が合流してきた。
「おぉ、佐藤さん」
「今、来たところですが中々すごい試合になっていますね。どうですか?」
「そうですね。高踏は中盤から前に若干緩さがあるかもしれません」
決してダメというわけではない。ポジショニングなどは全員秀逸なものがある。
ただ、稲城のようなとてつもない運動量があるタイプはいないし、陸平のような読みや駆け引きの名手もいない。
現状、高校トップ相手なら隙を見いだすことができるような印象だ。
「まあ、高踏にそういう問題があるにしても、樫谷の16番は本当に良いですね」
相良は1ゴール2アシスト、高踏相手に1人で互角に持ち込んでいるという印象すらある。
「高踏は1年しかいないので控えがどうしても手薄です。もしかしたらが、ありうるかもしれませんね」
「それは、それは。楽しみではあるものの、樫谷も侮れないということになるわけですね」
強敵が増えるかもしれない、ということになる。佐藤は苦笑していた。
ハーフタイムの高踏のベンチ。
前半、一瞬、怒る時間もあった結菜だが、今は平静な様子だ。
「3点目は相手がうまかったので、仕方ないでしょう。1点目と2点目はこれまでの楽勝ぶりが祟って、何となく守りに行っていたのが良くなかったですが、30分以降は問題ないのでこのまま行きましょう」
「相良はどうします?」
尋ねたのは聖恵だ。
「誰かが見ておいた方が良いのかも……」
「いや、後半もこのままでいいです」
結菜はあっさりと却下した。
「この試合が全てというわけではありません。色々な選手とマッチアップして経験をつけていく方が後々のためになるでしょうし、後半もこのまま回していきます」
ベンチに入ってだけはいる鹿海が手をあげた。
「今の意見に補足して……。前半ちょっと気になったこととしては、加藤と弦本だ」
2人が少し緊張した表情になる。
「無難に、無難にとプレーしているのは分かるし、例えばサッカー雑誌的に評価するとして悪い点にはならないだろう。ただ、2人の長所はそういうところじゃないだろう。もう少し仕掛けても良いと思う」
「確かに、崩しを司城君や戎君に任せきりな感じはありますね」
結菜と我妻も同意する。
加藤はドリブルで持ちすぎるきらいがあるが、それで簡単に取られないという強みもある。ただ単にボールを叩いているだけなら、彼を起用する意味がない。
弦本はショートパスが主体とはいえ、縦パスが全くないと相手がマークをしなくなり、守りやすくなる。陸平のように守備に専念するためにパスの労力を惜しむというのならともかく、パスが武器の選手なのに横パスしか出さないのではこれまた出ている意味が少なくなる。
「失敗したとしても、それが後々のためになるのだから、仕掛けるべきところはしっかり仕掛けていいと思う。遠慮はいらない」
「分かりました」
鹿海のアドバイスに2人が大きく頷いた。
後半になると、このアドバイスが如実に威力を発揮した。
開始すぐに弦本の縦パスを受けた加藤がドリブルで2人をかわしてシュートまで持っていく。
これは得点にならなかったが、樫谷の守備から余裕がなくなった。鹿海の見立て通り、樫谷は司城と戎をしっかり押さえることに専念していたが、この一撃で加藤も無視できなくなる。
その結果として、司城が動きやすくなり、弦本からのスルーパスを受けて勝ち越しに成功すると、更に加藤が追加点。
ラインが雑になったところを浅川が突いて2点を追加し、後半25分までに7-3までリードを広げた。
その後は戎がへばって末松に代わるなど、選手交代で若干規律が乱れた高踏の隙をつくように樫谷が2点を返し、更にセットプレーから神沢が決めるなど出入りの激しい展開となった。
結局、試合は8-5という野球のようなスコアで終了した。
試合後、藤沖と結菜はそれぞれ苦笑しながら握手をかわす。
「やられそうだ~って思いましたよ」
「前半は行けるかなと思ったけれど、やっぱり高踏の一年はみんな巧いよ」
「でも、お互いまだまだなところがありますね」
「そうだね……」
一試合通じて見ると、高踏が苦戦しつつも実力通りに勝利した、という形となった。
もっとも、翌朝の地元スポーツ紙のサッカー面を飾ったのは相良である。
『愛知にニューヒーロー! 樫谷の新二年が高踏相手に大善戦!』という写真とともに2点目のシュートの写真が掲載されていた。
また、この試合の活躍以降、河野和一郎が高踏だけでなく樫谷の練習も視察するようになった。
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