2月9日 13:16 TSリセット港競技場
新人戦も準決勝を迎えた。
TSリセット港競技場での二試合。
まず、午前中の第一試合で深戸学院が珊内実業に勝利し、決勝へと駒を進めた。
13時からの第二試合は順調に進んできた高踏と、鉢花に2-0で勝利した樫谷との試合である。
両チームのスターティングメンバーは、この大会通じて変わらない不動のものだ。
樫谷。
GK:①折舘
DF:③鈴木、④十森、⑤藤原、⑫谷
MF:⑥三賀、⑨藤井、⑪毛利、⑭ダニー、⑯相良
FW:⑩野市
一方の高踏。
GK:①水田
DF:②南羽、③神田、⑤神津、⑬神沢
MF:④聖恵、⑥弦本、⑭司城
FW:⑧加藤、⑩浅川、⑯戎
高踏の指揮官である天宮結菜にとって、ここまでの2試合はあまり面白いものではなかった。
相手が引きすぎていて、端から勝負を諦めているような展開である。共に5点以上取って勝利しているが収穫らしいものはないと言って良い。
であるからこそ、この試合の前は引き締める発言が多い。
「これまでは簡単に勝ててきたけれど、失礼を承知で言えば相手に勝つ気がないから簡単に勝てただけです。今日の樫谷はそんなことはないはずなので、絶対に油断しないこと。油断していると思ったら、即刻交代するつもりですので」
ベンチに入る末松が「俺は早く出たいしね」とニヤッと笑って言う。
13時。
試合が始まる。
樫谷は兄・陽人が言っていた通り、4-5-1のフォーメーションで相良蓮が布陣の中央から動かず、周囲がポジションを変えつつ陣形を維持する形だ。
高踏は弦本が軸となってボールを散らし、司城と加藤がスペースへ切れ込もうとするが、簡単にはスペースを与えない。
さすがに準決勝まで来ると、高踏も簡単には勝てないのではないか。
そう思わせた矢先、中盤でボールを奪った聖恵が前に出す。長身ながら動きが敏捷な聖恵は、セットプレーの時は大きく見えるが、オープンプレーでは目立たない場所から出現してボールを奪っていく。
素早い展開からボールを受けた加藤が縦に切れ込んでいく。マーカーが来たところにスルーパスを通した。反応するのは浅川だ。
ゴールエリアの左サイドから反対サイドに折り返したボールを司城が詰めて前半6分に高踏が先制。
全国選手権の決勝戦で浅川が決めたゴールを彷彿とさせるような、いや、それより更に洗練された速攻である。樫谷ベンチの藤沖が「うわ~」と頭を抱えた。
「凄いな、高踏の1年集団」
「北日本式に対する解決策を浅川の決勝点から完全にモノにしてしまった感があるな」
スタンドから眺めているU17代表監督の河野和一郎とスタッフ達も舌を巻く。
「これはこの試合も高踏の圧勝になるのではないか」
そんな雰囲気が漂い始めた10分、高踏ベンチが懸念していた要素が顕出する。
樫谷の中盤のパス回しに聖恵が追いかける。踏み込んでボールを取ろうとしたが、パスの間合いを図り損ねて届かない。
左サイドで受けた毛利に南羽が寄せるが、これまた直線的な寄せだ。少し横にかわされると時間ができる。縦に通して1トップの野市にボールが出た。すぐに神津が寄せるが、野市はゴールに背を向けたままスペースにボールを落とした。
ゴール正面エリアのすぐ外の位置に相良が入ってくる。
フリーのうえに、前にシュートコースが広がっている。
「チャンスだ!」
左足を小さく振りかぶろうとしたところに神沢が寄せてくるが。
「おおっ!?」
どよめきの声があがった。
相良はシュートではなく浮き球のパスをDFラインの後ろに送った。
神津と神沢が視線を上に向ける間に、長身の14番・ダニー浩市が背後から走り込んでいる。
キーパーの前で受け、水田と1対1になった。
さすがの水田もこの状況のストップは困難だ。かわされて決まり、1-1と試合が振り出しに戻る。
「シュートの振り足から、一瞬でロブボールに切り替えてラインの奥に送るとは、中々面白い選択をする」
スタンドの河野が感心する一方で、ベンチの結菜が不機嫌そうに叫ぶ。
「ほらー! プレーが雑です! しっかり集中!」
ピッチの中の選手も集中していないわけではないだろう。
しかし、一度できてしまったリズムを取り戻すのは難しい。
15分、再び樫谷がパスを繋ぐ。左サイドの毛利が今度は南羽を縦に抜いた。
南羽が全力で戻ったので深くまで切れ込むことはなく、一度戻すがラインが下がったので樫谷の選手のスペースがやや広がる。
またも野市からの落としに相良がボールを受け。
今度はそのままシュートを打って左隅に決めた。
「おぉー! 高踏がリードを奪われたぞ!」
「さっきのパスがあるから、キーパーとしてもポジション取りがしにくい。あの16番をゴール前で自由にさせると危険になりそうだ」
新人戦とはいえ、予想外の展開。
それほど多くない会場の熱気が上がっていった。
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