1月17日 17:20 クラブハウス

 選手権が終わり、コールズヒルとの契約も終わったが、サッカー界のスケジュールに休みはない。


 早くも10日後には新人戦が開催されることになる。



「去年も1年しか試合に出ていなかったし、今年も1年生を出すことにしようか」


 クラブハウスの中、陽人がメンバー表を眺めて言う。


 登録メンバーはもっとも大きな大会でも30人であり、現在の高踏高校にはそれ以上のメンバーがいる。ここまでほとんど出番がなく、スタンドからの応援だけになってしまう学生も10人近い。


 後田は「去年は1年しかいなかったから、1年が出るしかなかっただけだけどな」と陽人の言葉に修正を入れるが、方針そのものには賛成のようだ。


「それじゃ」


 陽人は視聴覚室にいる結菜と我妻を呼んだ。


 やってきた2人に、新人戦は1年のみで戦いたい旨を告げる。



「……1年だけ?」

「そうだ。リーグ戦のBチームは2年も出していたけれど、今回は完全に1年だけで行ってもらうつもりだ」

「それで負けたら、総体は1回戦からになるけど?」


 新人戦の優勝チームは、翌年度のインターハイ県予選で準決勝からの出場となる。


 それ以外のチームは初戦からということで、そうでなくても過密日程なのが更に苦しくなる。


 この事態は避けたいところであるが……


「その場合は仕方ない」

「兄さんも後田さんも来ないわけ?」


 陽人は頷いた。


「2年は3月いっぱいまではオフにしようと思う」

「えぇっ!?」



 結菜と我妻のみならず、後田も驚いた。


「2か月も休みにするわけ?」

「休みと言えば休みだし、そうでないと言えばそうとも言える」

「……どういうこと?」

「新入生から今まで、うちのチームはチーム力を優先してやってきた。その結果としてチームとしての一定の成果を出せた。そうであるなら、チーム力は一旦置いておいて、個人の力を伸ばす時期を設けても良いのではないかと思う」


 高踏は型破りかつ多様な練習をしているが、チームという前提で練習する場合、どうしてもその方向に沿った能力が伸びることになる。


 それだけで解決すれば良いが、そうはいかないのがサッカーだ。


 個々人がしっかり自分をトレーニングする期間も必要である。


「少年漫画風に言えば、2ケ月後から新たな戦いが始まるから、各々修行せい、決戦の時にまた会おうぜということだ。4月5月に決戦はないけどな」

「それ以前に、別に少年漫画風に言わなくていいんだけど」


 そうは言いつつも、陽人の言い分は概ね理解したようだ。


「確かに、推薦にしてもプロにしても、チームじゃなくて本人も見られるわけだしね。個人の能力をしっかり2か月伸ばすのも重要なのかも」

「ま、全員がきちんとやるかどうかは分からないけど」


 2か月間オフとなれば、自然とさぼる人間も出て来るかもしれない。


 人間の心は弱い。全員が頑張っているから何とか食らいついていたところから、解放され、一気に緩んでしまう可能性もある。


「ま、それも含めてトレーニングになるだろうということだ。もし、さぼってしまうのがいたら、当然、他の奴や新2年、新1年がポジションを奪うだろうし」

「なるほど……。今まではライバルが一緒にいたけれど、これから2か月は見えなくなるから、ある意味ではよりしんどくなるかもしれないし、伸びる人はもっとドドーンと伸びるかもしれないってわけね」

「そうなればいいなと思っている。例えばフィジカルに不安があるなら、大溝さんのところに入り浸ってもいいわけだし、個人技術なら大学やプロチームに練習参加なども申し込めるだろうし」



「天宮さんはどうするんですか?」


 我妻が不安げに尋ねてきた。


「部室に顔は出すし、試合にも帯同はするけど、基本的には全部結菜と我妻さんに任せるつもりだ」

「個人トレーニングするわけ?」

「トレーニングというよりは、色々な発想の元になるものを蓄積したいというのが正直なところかな。アイスホッケーとかバスケットとか見に行って、サッカーに活かせるものがないか考えてみる」


 もちろん、旅行するのは春休みに入ってからだが、と付け加える。


「なるほど……。となると、1年も春休みはオフでもいいのかな」

「それは任せる」

「分かった。じゃあ、今から新人戦のメンバー登録変えないと。あ、そういえば」


 結菜がはたと何かに気付く。


「南羽さんはどうするの?」

「聡太か……」


 南羽聡太は来春から野球部でコーチ兼監督のような立場を引き受けるということで話がついている。高校サッカーからは引退するので、個人練習用のオフ期間を設けても意味がない。


「ある意味、引退試合になるわけだし、本人が望むなら聡太は入れてもいいんじゃないかな」



 かくして、1年部員14人と南羽、更には緊急用の数合わせメンバーとして2年が数人登録された形で新人戦に臨むこととなった。



新人戦メンバー:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093089092296724

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