1月16日 20:27 グラウンド

 記者会見が終わった後は、コールズヒルのリポーターからインタビューを受けることになる。メジャーリーグで見るような、黒人系の女性リポーターだ。


 おそらく、公式サイトなどで流されるのだろう。


 スタッフやカメラマンとともにグラウンドに移動すると、コールズヒルのエンブレムが入ったジャケットを渡された。それを着こんで、まだプレーしている風景をバックにインタビューが始まる。


『この度、コールズヒルFCの新しい一員となりましたハルト・アマミヤにインタビューしたいと思います。その契約内容ですが……』


 と、しばらく沈黙となる。


 おそらく、後で編集し、テロップなどで契約内容を差し込むのだろう。


『あらためて、よろしくお願いします。歓迎しますよ、ハルト』

「ありがとうございます」

『ハルトは昨年、U17ワールドカップで日本を優勝に導くという快挙に貢献しました。そしてつい先日には日本のハイスクール大会で優勝を達成しました。しかもただ勝つだけではなく世界の誰もが見たことないようなサッカーを展開して勝利しました。ただし、先程の通り、当面は大学に通いながらチームを分析するスタッフとなるかと思います』


 そこからしばらくリポーターが展望を説明する。


 大学に行くため、現時点のチームには影響がないこと。


 卒業後、U-21など若い世代から始まり、いずれはトップチームにも上がるだろうこと、だ。


『ファンは、何年か後に、コールズヒルがあのようなプレーをしてくれることを期待していると思います。ハルトが目指すサッカーというものを教えてください』

「そうですね。オーストラリアで日本代表がやったサッカーはすっかりニンジャサッカーとして有名になってしまいましたが、あれが最終的に目指したいサッカーというわけではありません」



 リポーターだけでなく、カメラマンも「おっ」と目を丸くする。


「サッカーは無数の局面がありますが、結局のところボールがあり、スペースがあり、両チームの選手達がいます。それらは適切なスペースの使い方とボール扱いからなるものだと思っています」

『なるほど』

「これを徹底的に追求していけば、最終的にはポジションというものは必要なくなるのではないかと思っています。ですので、ニンジャシステムもあくまで過程であり、今後大学、クラブで勉強することでより上を目指していきたいと思います」


 2人はしばらく絶句する。


 ややあって、リポーターが口を開いた。


『ハルトの目指すものがかなり高いものだということは理解しました。是非、それをコールズヒルで達成してほしいと思います。さて、現マネージャーのコアル・メナイからのメッセージビデオがありますので見てください』


 と、スタッフが端末を開いた。


 そこにメナイが映し出される。


『初めまして、ハルト。ワールドカップの日本代表と、コウトウ高校の試合ビデオを見せてもらったよ。素晴らしいサッカーにただ、ただ舌を巻くばかりだった。チームは素晴らしいマネージャー候補を見つけてきて、いつでも簡単に私をクビにできるようになって、今後安心できない日々を送ることになりそうだよ』


 と言って、ニヤッと笑う。


 陽人は苦笑するしかない。


『まあ、それは冗談だけど、君と一緒に仕事ができることはただ、ただ、楽しみだ。私もまあまあの年季があるから色々なことを教えられると思うし、逆に私が君から教わることも沢山あると思う。歳は離れているけれど、お互いサッカーの高みを目指す者同士、一緒に頑張り、コールズヒルがもっと良いチームになるようにしましょう』


 最後に日本語で「ヨロシクオネガイシマス!」と笑い、手を振ったところで映像が終わる。



 陽人は大きく息を吐いた。


「僕もメナイのような大先輩から色々勉強できると思うと非常に楽しみです。良いものを吸収して、より高いレベルのサッカーを目指していきたいと思います」

『プレミアリーグには世界中の名将が集まっています。話をしてみたいマネージャーはいるのでしょうか?』

「いや、もう全員です。あれだけ高いレベルでやっていくのは、サッカー面はもちろんメンタル面でも非常に大変だと思います。どのように過ごしているのか、生活面も含めて聞きたいことは一杯ありますね」

『ありがとうございました。ハルト・アマミヤでした!』



 この日の予定が終わり、ようやく帰路につくこととなった。


 その時には学校側の会見も終わっていたようで、既に体育館も明かりが消えていた。


 

 翌日にはコールズヒルの公式サイトにインタビューの動画が出される。


 この中で陽人が口にした「ポジションが必要なくなる」という言葉は大きな反響を呼び、しばらくの間、ヨーロッパ各地の監督達が「このような考え方をどう思いますか?」と好奇心に満ちた問いを向けられ、その対応に苦慮することになる。

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