1月14日 15:49 国立競技場
終盤の布陣:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093088610243193
後半40分を回った。
準々決勝までなら、既に試合が終了している時間だ。
しかし、この決勝はまだ5分残っているし、延長戦もある。
スコアは動いていないままだが、両チームとも少し間延びした中でチャンスを探り合っている。
左サイドの稲城からのパスが浅川を狙うが、少し長い。
カットした平が下がってきた高本に送る。途中交代からドリブル突破を試みている高本がまたも中央左寄りの位置をドリブルで上がる。ここに瑞江が戻ってきて、神津と挟み込むようにマークしようとする。
ここまで、高本はそれでもドリブルを試みていたが、ここで初めて右サイドを狙った。そこに大橋が上がってきている。
『おーっと、ここで右サイドにボールを流す。これを大橋が……あ、いえ、陸平が止めました!』
どこにいたのか、一直線にコースに走る陸平がボールをカットしてすぐに林崎に渡す。
林崎から右サイドの立神に出た。
『右サイドの立神の前にオープンスペースがある。さあ、カウンターか?』
ただし、北日本も戻りは早い。サイドの位置にいる立神にプレッシャーはないが、クリスマスツリーがそのまま下がっていく。
立神は大きく左サイドに蹴った。
『やはりここも左サイドだ。戸狩がボールをキープし、斎藤とマッチアップする』
後半、何度も見られた形だ。
斎藤はしっかりマークしようとしている。
縦はある程度捨てているようで、背後に抜かれないように足の配置を工夫して向かい合う。
戸狩は縦に向かうフェイントを入れ、そのまま大きくクロスボールを蹴り込んだ。
『おっと、戸狩、ここはシンプルに中に入れてきたか? いや、反対サイドへの展開だ!』
戸狩からのクロスボールはペナルティエリアの右隅に鋭く飛んでくる。
そこに瑞江が走りこんできた。
「相手7、警戒!」
瑞江ならダイレクトで狙ってくるかもしれない。
シュート警戒でDFが1人飛び上がるように入ってきて、キーパーの新条も一歩下がって構えを取る。
「おおっ!?」
瑞江はシュートを打たずにトラップした。そのトラップは流れたかと思ったが、DFの裏に絶妙なタッチで送られる。
そのボールの向かうスペース……ゴールエリアの右端にCFの位置にいた戎が走り込んでいる。
一方、中盤左側にいた浅川が、反対サイドのスペースにまっしぐらに走る。
先週練習していたパターンだ。
練習の時は戎がスルーパスを出し、浅川が折り返す練習をしていたが、今は戎がスルーパスを受けて折り返す位置におり、浅川が最後押し込む立場となっている。
「行けぇ!」
高踏ベンチから歓声が沸き起こる。
次の瞬間、スタンドの藤沖が叫んだ。
「あぁ、ダメか!?」
瑞江のスルーパスを受ける戎の視線だ。
スペースに入るタイミングは完璧だったのに、ボールと反対サイドを交互に見ており、自分の目の前にあるゴールを全く見ていない。
これでは誰が見ても折り返すつもりだと分かってしまう。新条も戎のシュートはないと見たのだろう、DFに任せて反対サイドの浅川側に飛んだ。
戎は平より早くボールを中に折り返して、そのまま吹き飛ばされた。
折り返されたボールに浅川が詰めるが、新条の反応も早い。
「うわ、不規則なバウンドだ!」
佐藤が叫んだ。
浅川が先にボールに触れられそうだ。
しかし、連戦で傷んでいるピッチのせいか、ボールが変なバウンドをした。
ゴールの真正面であるが、このボールをミートするのは意外と難しいかもしれない。
浅川はインターハイでも似たような位置でシュートを外している。
「光琴、決めて!」
我妻が叫ぶ。
浅川が前のめりになり、身体を前に投げ出した。
膝くらいの高さのボールに向けて頭を伸ばす。
ほんのわずか遅れるタイミングで、新条も矢のような速度で止めに入る。
「うわー! 危ない!」
結菜が叫んだ。
地上を這うように滑り、浅川がボールを頭で合わせた。
一瞬後、新条が横から衝突する。
ボールは新条の手の先を転がっていき、二度弾んでゴールラインを超えた。
全員が主審を向いた。北日本のDFの選手は手をあげてファウルをアピールしている。
ボールはゴールネットに吸い込まれたが、ゴールエリアで浅川と新条が倒れている。
ゴールなのか、ファウルなのか。
主審はセンターサークルを指さして笛を吹いた。
一瞬後、スタンドが爆発したように湧き上がる。
『入ったぁ! 後半43分、浅川が戎からの折り返しを頭で押し込んで、高踏高校が遂に先制! 決めたのは10番の浅川光琴! 高踏高校の10番が大一番で大きな、大きな仕事をしました!』
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