1月14日 15:36 国立競技場
選手交代後の最初のチャンスは北日本側に来た。
代わって入った高本がボールを持って左サイドを攻め上がろうとする。
ここには立神と浅川がいるが。
「おおっ!?」
2人の僅かなズレを見て、中を突破した。そのままスペースを攻め上がろうとするが、立神が反転して迫ってくる。
中にいる七瀬に渡して、更にスペースを突こうとするが神津の戻りも早い。
結局、七瀬は遠目からシュートを打つことになった。
「さすがにこの時間になってきて、高踏も少しスペースが空くタイミングがある。陸平が前に位置している時に、高本がギャップを突いてドリブルで攻め上がればチャンスが出来るかもしれないな」
「それでも、シュートまでは神津という山を越えないとダメそうに思いますが」
終盤に向けて、どうしても今までと同じようには完璧に機能しない。
そのギャップをどう突くか、どう持ちこたえられるか。
「陸平にはワールドカップのメキシコ戦で見せた、空けているフリをして戻ってカウンターという手もありますしね」
「あったなぁ……」
続いての北日本のボール保持。
高本がまたもドリブルで上がろうとするが、今度は移動していた戎がかっさらった。そこから素早く左サイドに回される。
「北日本も高踏も左サイド側に回してくるな」
北日本の右サイドバックの斎藤は192センチの長身だ。その長いストライドでスピードもあるが、細かい動きは苦手としている。時間が進んできて、更に足運びが大味になり、細かいプレーに対応しきれていない。そこを瑞江や戸狩が狙っている。
斎藤をかわして内にきれこむと、前半使い切れなかったオウンゴールを呼び込むような斜めの折り返しが出せるかもしれない。
「動きそうになってきたな」
高本のドリブルと、瑞江や戸狩の崩し。
まだ、大きなチャンスとまではいかないが、後半20分を回り、前半以上にチャンスに至りそうな雰囲気が広がってきている。
22分の段階で北日本・夏木が動いた。
三角形の右側の辺にいた2人、筑下と石代を下げて祭田と大崎を入れる。
「崩されそうな斎藤というよりは、その周辺のサポートの運動量を強化してきたか」
「斎藤は長身で、セットプレーで使えますしね」
「ここまで北日本はセットプレーがないけど、な」
佐藤の言う通り、北日本はほとんどの時間は守備的に構えている。セットプレーは後半半ばまでで遠目のフリーキックが一本あっただけ。コーナーキックはゼロである。
「ただ、ここからゴール前に行くシーンが増えそうですし」
セットプレーが増えそうな時間帯に、一番頼りになる長身の斎藤がいないというのはもったいない。
本人が完全にバテているのならともかく、そうでもない。瑞江や戸狩に苦戦しているのは事実だが、そもそもこの2人と互角以上に渡りあえるDFはいない。北日本のベンチにもいないだろう。
北日本が右サイド側にフレッシュな選手を入れて、斎藤のサポートを強化する。
すると5分もしないうちに高踏ベンチも動いた。
背番号14の司城蒼佑がベンチへと呼ばれる。
「誰と替えるんでしょう?」
司城も戸狩と同じくパスもドリブルもできるアタッカーだ。絶え間なく左サイド側から斎藤を攻撃するつもりということはうかがえるが、交代要員が見当たらない。
稲城は依然としてダイナミックに走り回っている。攻撃面で物足りないところはあるが、彼を下げることは難しそうだ。
陸平と瑞江も外せないはずだ。
といって、途中から入った浅川や戎を外すこともありえないだろう。
線審のボードに9と映し出された。
「園口か」
「確かに、瑞江と戸狩がつっついている時、ちょっとサポートがないですね。疲れているんでしょうか」
「しかし、誰が左サイドバックになるんだ?」
「おそらく稲城では? リーグ戦では時々左サイドバックで出ていましたし」
潮見の言葉に佐藤も「そういえば」という顔をする。
「ただ、巧い選手ではないが……」
「細かいテクニックはないですが、キック力は強いですから強い弾道のクロスを送れますよ。誰かが斎藤をつり出し、裏に稲城を走らせることはやるんじゃないですか」
「なるほど……」
28分、園口に代わって司城が入った。
これで両チームともに交代枠は4人を使ったことになる。
「残り1枚は延長戦からPK戦もあるし、中々切りづらいな」
潮見の予想通り、稲城が左サイドバックの位置に移動した。園口から稲城に代わることで左サイドに持続的なエネルギーが加わっていく。
「両チームとも左サイドからの攻撃が顕著だが……」
佐藤が腕組みをする。
「こういう時こそ、反対サイドからの攻撃も入れたいところではあるな」
「そうですね」
どちらも左から攻撃しているので、ボールがない側も自然そっちに意識が向かう。
そういう時にこそ、反対サイドから攻めることで、仮にその攻撃がうまくいかなくても、相手が守りづらくなる効果を呼び込むことができる。
「中央を突破するのは難しそうだから、どちらがどのサイドをうまく使うか。決勝点が生まれるとすれば、そこじゃないかな……」
時計は後半30分を回った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます