1月14日 15:06 国立競技場
この試合も、愛知の三人衆の姿がスタンドにある。
もっとも、その三人の近くが今日は騒々しい。
彼らに気付いたファンが……
残念ながらそうではない。
近くにモーリス・ヘーゲルと峰木敏雄が協会役員といるため、そちらにファンが寄ってきているのだ。
場所を移りたいのであるが、指定席であるためそれもままならない。
ハーフタイム、それぞれスタンド裏に向かい、ビールなどを買い込みながら前半を振り返る。
「予想以上に北日本が良いな」
佐藤が言う。
「とは言っても、終盤の決定機一つ以外はシュートすら打てていないのも確かですが」
潮見が言う通り、ボールキープ率やシュートなどは高踏の方が上である。
それでも、「北日本の前半だ」という思いなのは三人とも共通している。
準決勝まで好き放題やってきた高踏が、そうできていないからだ。シュートは打てていても、全てGKが対応できるものだった。
北日本のGK新条功が冷や汗を流したようなシーンは一つもないはずだ。
「やはり瑞江以外に、1人で崩せる選手がいないというのが大きいかな」
「そうですね。この部分は戸狩が入れるならある程度解消できるでしょうし、司城や戎にも期待できるところですが」
藤沖がそう言って、首を傾げる。
「ただ、個人技で崩せていないというより、今までシステムで崩せていたので、そちらにこだわりすぎている嫌いもありますね」
「なるほど……。これまでニンジャシステムで相手がガタガタに崩れてきていたから、それ待ちになってしまっているのもあるかもしれないな」
佐藤が頷いた。
言われてみると藤沖の言う通りでもある。個人技で対抗できる瑞江にしても実際に突き崩しに来たシーンは思い出せない。
今までが必ずフリーの選手を作れていたために、そちらに意識が向きすぎていて、個人で仕掛けるというシーンが戦略で想定されているものに行き過ぎている嫌いもある。
この藤沖の見方からすると、高踏のチームの問題というより意識の問題となる。
「そうなると、その部分に気付かないと、戸狩を入れても解決しないことになるわけだな」
「そうですね」
「高踏の面々はしっかりしているが、そうは言っても、秋からニンジャシステムで連勝続きだったからな、果たして意識の問題と気づけるか、気づいたうえで改善できるか、問題だな」
「一方の北日本側から見た場合、どこで仕掛けてくるのかということがありますね」
潮見の言う通り、北日本は試合のコントロールができているが、チャンスが少ない。
前半の決定機は芦ケ原が如実に落ちていたことによるものだった。
さすがに前半途中での交代には踏み切れなかった陽人だが、後半は積極的に交代していくだろうし、警戒してくるだろう。
「……北日本はいつか来るかもしれないもう一回のチャンスを待つのかもしれませんが、その前に自分達が疲労してしまう可能性もあります」
「そうだな。攻める高踏も疲れているが、守っている北日本も同じく疲れているわけだからな」
高踏はポジショニングの修正に頭を使い続け、北日本は隊形の維持に頭を使い続けている。体だけではなく頭の疲労も相当なものだろう。
彼らの集中力が90分間続くのかという問題も出て来る。
「武州総合が無理矢理ニンジャシステムをやろうとしていたこととは異なる。特殊クリスマスツリーは北日本はチーム方針に合ったやり方で選手交代をしても問題ないだろうが、フルタイム高踏とやるという経験はもちろん初めてだからな」
最後まで続くのか、それはどうしても疑問になる。
北日本の厳しいところはベンチに打開策が少ないところでもある。
「恐らくコンディション不良なのでしょうが、下橋と石塚がいないのは辛いですね」
「冬のこの時期だ。仕方ない。高踏の芦ケ原にしても、あの落ちっぷりは小さなトラブルを抱えていたんじゃないだろうか」
「……起用される選手達の状態も後半を左右することになりそうですね。まあ、当たり前のことではありますけど」
「その幅は高踏の方が広いだろう。意識改革さえできれば、やはり高踏の方が有利だろうが、こちらはこちらで交代枠を使い切れるかという問題があるな」
延長戦まで終わってPK戦になった場合、新条と鹿海では差がありすぎる。
鹿海は前半にビッグセーブがあったから乗っているかもしれないが、総体のPK戦も止められそうな気配は全くなかった。あれから数か月経っているが急激にうまくなっていることはないだろう。
だから、PK戦になる場合には職人の水田に替えたいところだが、そのためには枠を一つ残していないといけない。
その枠を残すのか、使うのか。
「どうなるかな」
お互いの駆け引きが楽しみな後半、その点では認識が一致した。
「あっと、もう二本くらいビールを買っておきますか」
「そんなに飲むと、肝心のシーンでトイレに行っていたとかなるかもしれんぞ」
暖冬傾向で冷え込みは緩やかだが、それでも当然に寒いは寒い。
ビールを飲んだら、当然トイレが近くなるはずだ。
「大丈夫ですよ。慣れていますから」
藤沖は全く気にせず、列に並んだ。
佐藤と潮見はやれやれといった様子で、自分の席へと戻っていった。
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