1月14日 11:09 国立競技場

 1月14日。


 決勝戦当日の早朝を迎えた。


 午前6時に学校集合という予定で、陽人は結菜とともに5時30分に学校に着いたが、この時点で既に全員が揃っていた。


「うわ、俺達が最後か」

「それはまあ、決勝戦だからな」


 颯田が意気込み高く話す。


「正直、気が高ぶって夜、ほとんど寝られなかった」


 瑞江が苦笑した。


「おいおい、それで試合で寝ているなんていうのは勘弁してくれよ?」

「大丈夫だ。新幹線とバスの中で寝るから。着いたら起こしてくれ」


 颯田のマイペースな話に周りが苦笑した。確かに新幹線を降りるのは終点の東京駅だし、バスも貸し切りなので国立競技場で止まってくれる。多少起こす手間がかかったとしても問題はないのだが……


「試合前の夜は寝られないのに、新幹線とバスで寝られるのはおかしいだろ?」

「いや、電車やバスはちょうどよく揺れるから」


 颯田はあっけらかんとした様子で答えて、また周りが笑う。



 颯田の睡眠状況も全く気にならないわけではないが、陽人が一番気になるのは土曜日曜と来ていない三人だ。


「大丈夫か?」


 篠倉と芦ケ原、櫛木、三人の姿もある。パッと見たところは大丈夫そうに見えるが、本人達の表情も明るい。


「全然問題ないさ。昨日にしても万一を恐れて休んでいただけだし」


 そう言って、三人とも軽くダッシュしたり飛び上がったりしてみせる。


 運動している様子を見ても、支障があるようには見えない。


「分かった。まあ、最悪……」


 完全に治っていなかったとして、今日誰かに移ったとしても、今日のプレーには支障がないだろう。


 今日が終われば数日寝込んだとしても大きな問題ではない。


「よし、行こう」


 全員でバスに乗り込み、豊橋駅へと出発した。



 豊橋から新幹線に乗り、そのまま東京まで向かい、スケジュール通りに着くとバスで国立競技場を目指す。


「うわ~、既に列ができているな」


 鈴原の言う通り、競技場近辺には観戦に訪れたらしい観客の姿がある。


 まだ時計は午前9時にもなっていないのに、既に長蛇の列となっている。今日も満員に近い入りになるのだろう。



 国立競技場の控室についたところで、気の乗らない作業が待っている。スタメンの決定と、ベンチ入りメンバーの選定だ。この一試合のために会場まで来ているのに、スタンドに行ってもらうのは気が引けるが仕方がない。


「以下の通りだ……」


 と、まずスターティングメンバーをホワイトボードに書き込んでいく。



 GK:鹿海

 DF:園口、林崎、神津、立神

 MF:芦ケ原、陸平、瑞江

 FW:颯田、稲城、鈴原



「ベンチに入るのは……」


 ベンチ入り:水田、曽根本、久村、戎、司城、浅川、篠倉、櫛木、戸狩



「あれ、俺はスタメンなの?」


 意外そうに自分を指さしたのは芦ケ原だ。


 二日間休んでいただけに、ベンチかベンチ外だと思ったのだろう。


「……気を悪くしないでほしいが、試合展開を考えた時、替えやすい存在として入れることにした」



 中盤に一番入れたいのは戎であるが、90分は厳しい。


 弦本、司城、加藤はそれぞれに特徴があるが、これまた90分出来るタイプではなく、展開を見たうえで入れたいタイプだ。


 となると、スタメンとして信用できるが外しやすい存在として芦ケ原をそのまま使おうということになる。また、彼の出来は篠倉と櫛木を使ううえでの参考ともなるだろう。


 交代要員は疲労交代以外であれば、追いかける展開になるから前線の選手は多めに入れたい。戸狩と司城は当然で、残りは篠倉、櫛木となるが、この2人は土日出ていない。


 いざアップさせた時に使えないとまずいので、前線要員として念のため浅川を入れることにした。最近はサイドバックもこなすようになっているので他のポジションに入れることも出来るはずだ。


 守備要員は少な目で良い。複数ポジションができる曽根本と久村で充分であり、PKになれば水田の出番となる。



 11時、役員立ち合いの下で、両チームのメンバー表交換を行う。


「よろしくお願いします」


 そう挨拶して夏木にこちらのメンバー表を渡し、夏木から北日本のメンバー表を受け取る。


「あれ?」


 渡されたメンバー表を見て、陽人は一瞬戸惑った。



 GK:新条

 DF:斎藤、平、李、三戸田

 MF:小切間、石代、吉田

 FW:筑下、佃、七瀬



 というスタメンについては予想通りであるが、ベンチ入りメンバーが想定と異なる。


 高踏初の対外試合でハットトリックを決めた下橋や、身体能力の塊とも言える石塚の名前がない。もちろん、この2人がいないから安心できるわけではないが……



 陽人の戸惑いに気付いたのだろう。夏木が苦笑した。


「この時期になると体調を崩すのが多くて、さ」

「……そうですね」


 陽人もそれは痛感している。


 一週間という決勝戦までの長い時間は、疲労回復には役立ったが、別のコンディション調整の難しさももたらした。


 自分達も苦しいと思ったが、メンバーだけを見ると北日本の方がダメージは大きかったのかもしれない。もちろん、それは今、そう思っているだけで高踏側は病欠していた三人を全員ベンチに入れ、1人はスタメンとして起用している。


 三人のコンディションが予想以上に悪ければ、一転してこちらのダメージが大きくなるかもしれない。




改めて両チームスタメン(前回のものと同じです):https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093087764838294


ヘーゲルと夏木の対談については近いうちに近況の方で掲載予定

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