1月6日 16:11 準決勝
朝食が終わると、真田が指示を出す。
「よし、みんな、もうやっていると思うが荷造りしてバスに積めるようにしておけよ」
大会決勝は成人の日に開催されるが、今年は14日。
つまり、今日の準決勝から丸々一週間空くことになる。その間、宿舎に滞在するわけにもいかないし、そもそも学校も始まってしまう。
勝っても負けても、今日で宿舎を引き払い、試合をした後そのまま高踏まで帰ることになる。
高踏だけでなく、準決勝まで残っている4チーム全てがそうするはずだ。
「雄大、大丈夫か?」
部屋に戻る途中、陽人が後田に問いかけた。
昨日、「辻ともう一試合を見る」と言った後、夕食時からずっと無言である。今朝も色々考えていたようで、やはりずっと無言である。
「あ、あぁ……。大丈夫は、大丈夫だ」
返事も煮え切らない。
もう一試合……おそらく北日本短大付属だろうが……の試合内容が相当に凄いものだったのだろう。
気にはなるが、まずはこの後迫る試合、洛東平安との試合だ。
昨日の午後、一通り研究をした後に血液検査を行ってコンディション数値を測定した。
それと本人の自己申告も含めて、スタメンは決定している。
その決まったメンバーに対して、再度確認する。
「体調は問題ないか?」
全員から「問題ない」という答えが返ってきた。
「よし、じゃあ、バスに行こう」
全員、荷物を持って入り口へと向かう。
入り口の近くまで来て、誰ともなく「うわぁ」と声をあげた。
まだ朝の9時だというのに、報道陣の姿がある。
宿舎を引き払うと分かっているから、荷物も抱えて話がしやすいと思ったのだろう。
「俺と英司で露払いをしておくよ」
この日は控えになる鈴原と曽根本が前に出て、「通してください」と防波堤のように進んで行き、その後ろから陽人達が続く。
幸いにして記者が近くに押しかけてきて、あれこれ聞いてくることはない。
ただ、記者達が色々撮影している横で、大会マネージャーの菱山佑里香が『高踏高校が会場に向かうためにバスに乗っていきます』とマイクを持ってアナウンスをしているのは何となく癇に障る。
こういう様子を見ていると、「去年は静かで良かった」という思いが湧いてくる。
バスに乗り込んだところで全員が「はぁ」と息をついた。そのまますぐにホテルを出発したバスは、これまでのようにすぐに高速道路に乗るが、行き先は異なる。
準決勝から会場は国立競技場に変わる。北東ではなく、南東へと向かうことになる。
国立競技場の駐車場に着くと、またも大勢の記者が待っている。
ここでも、特に質疑応答があるわけではない。
『高踏高校のメンバーが国立競技場に到着しました』
と、ただ、到着した事実を伝えているだけだ。
(このまま行けば来年にはバスの中にも誰か入ってきそうだな……)
そんなことを想像すると、げんなりとなる。
高踏と洛東平安の試合は第二試合だ。
第一試合が行われている間、控室で陽人と真田が話をしている。
まずは真田だ。
「いや~、二年連続でベスト4まで来るとは、みんな本当によくやった。ここまで来たなら優勝しようじゃないか」
あまりにも当たり前の発言に、失笑めいた雰囲気が広がるが、真田は構うことなく話を続ける。
「少なくとも今日は勝たないといけない。何故なら、1年や控え組はともかく、オーストラリアに行っていた組は課題がある。全部終わっているのならいいが、そうでない者もいるだろう」
一転してギクッという冷たい空気が伝わってくる。
「仮に今日負ければ、明後日からの休み明けに早くも出さなければならないだろう。だが、決勝まで進んでいれば、他の講師陣もあまり強くは言えない。決勝が終わるまで延ばすこともできるだろう。つまり、今日の試合に勝てば、これから一週間、練習の合間に終わらせる時間があるということだ。ホテルではなく、自宅だし勉強をしやすい環境になるだろうからな」
「分かりました」
と、力強く答えるのは颯田だが、場の雰囲気を察するに颯田以外の面々にも共感した者はいるようだ。
続いて陽人が話をすることになるが。
「……課題については、真田先生の言う通りらしい。それがある人はもちろん、そうでない人も絶対に負けられないという強い気持ちをもって臨もう」
「おう!」
全員が叫んだ後、司城が独り言のように言った。
「今日までやっていない人が、決勝までの期間に課題をきちんとやるんでしょうか……?」
陽人は聞こえなかったふりをした。
準決勝第一試合は、北日本短大付属が1-0で高良学園に勝利した。
第二試合では、颯田のハットトリックに園口のゴールで、高踏が洛東平安に4-0で勝利した。
一週間後の決勝戦は大方の予想通り、北日本短大付属高校対高踏高校の顔合わせになった。
高踏にとっては昨年準決勝のリベンジマッチとなる。
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