1月4日 16:25 さいたまスタジアム・会見室
試合が終わると、次は記者会見が待っている。
まずは負けた武州総合、仁紫権太に対して質問がなされる。
もっとも、総体では好き放題言っていたし、つまらない質問をした一般記者をやりこめるシーンも多々あった。そのためか居並ぶ記者は顔を見合わせるような状態だ。
結果として、日本政経新聞の石綿が先陣を切ることになる。
『まず、一般的な質問で恐縮ですが、この試合を振り返って、どのような思いでしょうか?』
「……まあ、監督の力量差通りの結果でしょうな、ハハハ」
『ニンジャシステムの使用も含めて、敢えて前から打ち合いに行ったように見えましたが、どのようなプランがあったのでしょうか?』
「大体、この試合通りのプランとなります。やるべきことを全部やったうえでの結果となりますな」
石綿は一度周囲を見渡したが、誰も質問しないので引き続き質問を続ける。
『多少失礼な質問になるかもしれませんが……』
「ハハハ、失礼を言うなら、この仁紫が一番失礼な存在だ。気にせず聞きなさい」
『ゴールキーパーの清井君ですが、高踏の鹿海君と比較すると走力や守備範囲の面で不利ではないかと思いました。しかし、同じような高さで打ち合いをしておりまして、この部分を含めて何点か、完成していなかったように思います。総体の時のようにのらりくらりかわす方法もあったかと思いますが……』
「ふむ……」
仁紫は真顔になり、両腕を組む。
少し姿勢を正してマイクに正対する。
「何点かぶっつけ本番になるだろう部分があったのは間違いありませんな。しかし、そういう部分は高踏さんと正面からぶつからないと分からない部分もありました。ただま、清井に関してはおっしゃる通りですな。彼の能力以上のものを求めてしまったことは間違いなく、そのあたりも監督のミスと言えるでしょう」
比較的あっさりとミスを認めたことに、意外そうな顔をしながら記者達がメモをとっていく。
「幸いなことにこのチームからは高幡と楠原というワールドカップ優勝メンバーを出すことができ、それ以外にもまあまあ世代を代表する選手が揃っている。例えば後ろで守り切るという方法ならもう少し見栄えのいいスコアになったかもしれませんが、選手達はそれを望まなかったし、私もそうしたいとは思わなかった。次に繋がりませんからな」
『つまり、来年以降を見据えて、高踏高校と正面から打ち合ったということですか』
「うちの次もありますし、他校の次もありますな。それなりのところが高踏さんと打ち合いをしたらどうなるのか、洛東さんや高良さん、北日本さんも気になっていたでしょう。これを踏まえて残りの試合が盛り上がれば結構なことです」
『ということは、勝敗を度外視していた部分もあったと?』
石綿の言葉に仁紫が苦笑した。
「それはさすがに失礼な言葉ですな。選手達は打ちあうことでベストを尽くしたかった。私も一度そういう形でベストを尽くしたかった。その選択が間違いだったと言われるとそうかもしれませんが、負けても構わんと思ったわけではないですよ。へばった選手はいても諦めた選手はいなかったでしょう」
『確かにそうです。見ている側には面白い試合でした』
「まあ、今回のことを踏まえて、より良いチームを作っていきたいと思います。おっと、学校からクビにされなければ、という話はありますが」
冗談だったのか、本音だったのか。
最後の言葉に微かに記者席から笑いが飛んだ。
続いて、陽人に対する質問となるが、ここでも石綿が聞いてくる。
『ワールドカップ優勝メンバーがほぼそろう起用となりましたが、この試合に向けて調整していたのでしょうか?』
「特にこの試合……ということはないですが、補講なり追試なりがあって、関東に来てから一週間くらいをメドに調整していました。どうしてもこのくらいの時期になってしまいますね」
『一日空けて準決勝となります。ここまで高踏高校は中一日の試合はほぼメンバーを変えていましたが、準決勝の後はかなり期間が空きます。場合によっては中一日でも起用することがあるのでしょうか?』
代表メンバーについての質問はこれまで耳にタコができるくらい聞いているが、石綿が聞くだけに多少の説得力はある。
大半のメンバーは準々決勝にして初出場である。大分フレッシュな状態であるし、コンディションが悪くないのなら出しても良いのではないかと考えるのは不合理ではない。
「そうですね。コンディションが良いメンバーについては連続で出てもらうかもしれません。三試合続けて出ている曽根本や鈴原はかなり厳しいでしょうし」
『準決勝の相手は洛東平安となりました。このチームにも上木葉君と城本君というワールドカップを共に戦っていたメンバーがいます』
「そうですね。もちろん代表で一緒だった2人も実力者ですが、伊郷さんと勝山さんも含めては脅威だと思います」
洛東平安は千葉での準々決勝に4-2で勝利している。
2年エースの上木葉に城本は一気に有名になったが、その離脱中の県予選で一気に伸びた3年の
昨年のチームを総体優勝、全国準優勝に導いた守備陣は解体されたので失点は増えているが、攻撃力の充実は著しい。
『この試合も打ち合いになるのでしょうか?』
「試合が始まってみないと分かりませんが、僕達としてはいつも通りに臨みたいと思います」
『ありがとうございました』
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